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第一話「初雪」

「――――え?」

目が覚めると俺は見慣れない森の中に居た。


いやいや…いやいやいやいや……ありえないだろ自分。

過去に記憶が抜け落ちると言うことはあっても家にはたどり着いてたはずだ。

それがどうして森の中で寝転んでいるのか検討が付かない。

見渡す限りの緑――――。

あれ?近くにこんな森なんてあったかな……。

もしかして、何かの事件に巻き込まれた……?


慌てて鞄の中身を確かめる。

携帯ゲーム機・ノート・筆記用具・名刺ケース・キーケース・財布……。

あぁ、財布の中身は対して入って無かったが抜かれても無いし、カード類も無事。

免許証にも間抜けな顔と一瀬 一輝(いちのせ かずき)の名前。

うん、これは俺の鞄だし持ち物も盗られてはいない。

と言うことは、酔っ払ってどこかの森に入り込んで寝ちまったってことか?


「あ、会社……」


口に出して気がついた。

どれだけ眠ってたかは知らないが遅刻だけは簡便願いたい。

祈るように腕時計を見ると1時ジャスト……どれだけ寝てるんだ自分。

落胆しつつ会社に連絡するために携帯を取り出す。

…………圏外ってどこの樹海に迷い込んだんだ自分。

数件メールが着てたので開いてみると、昨日飲んでいた友達からのメールだった。


『フラフラしてたけど大丈夫か?まぁ改めて誕生日おめでとう!いい加減彼女見つけろよ!』

『童貞捨てたかったらいつでも呼んでくれよ~いい店紹介するぜ~』


時間を見ると12時過ぎの受信ばかり。

大きなお世話だと思いながら二日酔いで少しズキズキする頭を押さえつつ記憶を辿る。


「えーっと、確か昨日は――――。」





「かんぱーい!」


カチン!と言う音を立ててジョッキが重なり合う。

その後それぞれ気の済むまで喉を鳴らすと机にジョッキを置く。


「いやーしかし俺らもオッサンになったなー」


切り出したのはヨッシーこと吉井 和人(よしい かずひと)


「オッサンオッサン言うなよ……まだ若いっつーの!なぁイチ?」


それに反論するのはモリこと小森 雅和(こもり まさかず)


「俺に振るなよ……まぁ、年取ったとは思わないけどな?」


そして、俺ことイチ。

まぁ、何でイチかと言うと一瀬(いちのせ)だから。

カズとかカズキ(『キ』以前の部分で反応してしまうらしい)って呼ばれると、

こいつらも反応するから被らないように名付けあった結果だ。

まぁ、割と気に入ってはいるんだが、『イチ』と呼んでくれるのは幼馴染だけなので、

今では小・中・高と一緒だった腐れ縁のこいつらだけになってしまった。


「しかし、イチも後数時間で三十路の仲間入りだぜ?」

「三十路三十路って言うけど実感沸かないんだよなぁ~」

「俺なんて歳忘れた」

「いや、同級生で同い年だから」


久々に会っても変わらない奴等とバカ話するのは楽しい。

変わってないことは無いんだが、なんと言うか童心に返る的な……?


「……で、ヨッシー子供出来たんだって?」

「いやぁ~どうやらパパらしいですよ?」


ニヤニヤするな気持ち悪い。(笑)


「結婚して子供かぁ~考えるだけで大変そうだな?」

「いやいやモリ、お前もそろそろ誰か一人に決めろって」

「んー決める前に振られるというか何と言うか……」


あ、つくねがおいしい。


「「で、イチはどうなんだ?」」


ハモるな、むさくるしい。

恋愛話になると最終的には俺に振ってくる。

まぁ、結婚して子供も出来たヨッシーと結婚はしてないが、

次から次へと恋人が出来るモリからしてみれば浮いた話の無い俺は心配の種なんだろう。

余計なお世話だが。


「ねーよ。解ってて聞くなよ」

「イチさん、そろそろ本気でやばいと違いますか?」


なぜそこで敬語になる所帯持ち。


「店員さん店員さん!コイツ今フリーなんで付き合ってあげて下さい!」

「おい、やめろバカ!大体恋愛なんてしてたら今日ここに着てないっつーの!」

「うぅ……寂しい奴よのぅ……おにーさんがいいお店紹介してあげようか?

 魔法使いになるとかシャレにならんだろ?」


モリ……。お前はネットの見すぎだ。


「……お、誕生日おめでとうイチ!」


ふと時計を見たヨッシーが祝ってくれた。

あぁ、もうそんな時間か……。


「おめでとう~み・そ・じ!」


モリはちょっと飲みすぎだと思う。


そんなこんなでラストオーダーになって解散。

最後まで三十路だの童貞だの言ってたモリはいずれぶっ飛ばすと誓って、その後帰ったはず。

で、気づいたら森。

なんだ?俺は『モリ』に呪われてるのか?


とりあえず、電波が繋がらないことには会社に言い訳できないので森を抜けようとする。

しかし本当にどこだろうなここ、キャンプとか好きなヨッシーに教えたら喜ぶかも知れないな。

あーそう言えばヨッシーが言ってたな、確か……。


「獣道ってのは水辺に繋がる、川を下れば里にも着く……だったか?」


迷ったら闇雲に動かず山頂を目指せとか言ってたが、山っぽくは無いんだよな。

最悪の場合は獣道から川を探して……って山じゃなければ川も無いんじゃないか?

まぁ、考えても仕方が無いので草を掻き分けて進んだ様な道を探す。

と言うか、俺が入ってきたんだからそれなりの形跡はあるよな?

と思ったが人が通ったような形跡は無い様に思える。

ホントにどうやって入ってきたんだろうね、俺。

胸ポケットからタバコを取り出し火を付けると小さな獣道らしきものを見つけた。


「とりあえずヨッシーに感謝だな、熊の様な大型獣が通った後でもなさそうだし」


ガサガサと獣道を進むと水辺には到達した。

水辺は水辺なんだけど……。


「川……にはなって無いな、湖にしては小さいし……泉?」


川を下ろうにも川が無ければ意味が無い。

とりあえず二日酔いの頭をスッキリさせるため泉の水を飲む。

若い頃はキャンプ(主にヨッシーに誘われてだが)とかしてたけど、

やっぱり自然はいいものだなと実感する。

あ、そうだ写メ撮ってヨッシーに後で送ってやろう。

と思って携帯を取り出し画面を覗く。

画面に映し出されたのは透き通った泉と太陽の光を受けて輝く木々……そして、一人の女性。


…………女性!?


ぴろりろり~ん♪


「――え?」


とっさに撮影ボタンを押した音に驚いて女性は振り向く。


「いやその……ちちち違うんです!!綺麗な風景を撮ろうとしたらそこに貴女が居た訳でして!

 決して盗撮とかそういう訳ではなななななくデスね?」


こういう時、モリだったらキザな口説き文句でも出るんだろうけど、そんなスキルはねぇ!

いや、違う!!そうじゃなくて人だよ!人!


「ああああのですね!自分は道に迷ってどうしようもなくて、えーっとえーっと……」

「……えと……落ち着いて……?」


慌てる自分に女性が近付いて頬を触る。

ってか、近い近いっ!!


「……うん、迷子?」

「は、はいぃ」

「街に戻りたいの?」

「え、えぇ」

「落ち着いてきた?」

「だ、大丈夫です」


触れられると逆に落ち着かないです!


「……そう」


と言って触れていた手を引くとスタスタと奥へと進む彼女。

これは付いて来いってことなのか……?

何はともあれ街に帰れるみたいで良かった。

無表情で変な感じだけど別に悪い人じゃないみたいだな。


「……怖い?」


ふと、立ち止まりこちらを見てそう尋ねる彼女。

いやいや、お嬢さん……。

こちとら三十路超えたいい歳ですぜ?

深い森に迷い込んで泣く様な無様な真似はしませんよ?


「いや、怖いと言うよりも神秘的ですよね?

 友達と良くこう言う所に来るんですけど、ここまで綺麗な場所は滅多に無いですよ」

「えと……違う」

「え?」


違う?森じゃなくて?

いや、確かに説教どころか首が飛びそうな状況に恐怖してないかと言えばウソになるけど、

それを聞いてる訳じゃなさそうだし……。


「スノウ……私」


(スノウ)

彼女の名前……か?

いや、ゲームに出てきそうな西洋の古い衣装を着てる感じからしてコスプレイヤー?

ということはHN(ハンドルネーム)って奴か?

まぁでも、スノウねぇ……確かに雪のように白い肌はしてるけど。

HNを名乗るってことはこっちもHNで返した方が良いのかな?

と言ってもあだ名そのままだけど。


「あ、申し送れました、自分はイチと言います」


つい、癖で45度お辞儀をしてしまう自分はつくづくサラリーマンだなぁと思う。


「解った、もういい」


もういいってなんだ?

まぁとりあえず、外まで案内してくれるみたいだしいいか……。

外に出たらまずは会社に電話して――あ、タバコも少ないなー。


と、考えて吸い終ったタバコを携帯灰皿でもみ消す。


「……?なんで消すの?」


え、ポイ捨ては山火事とかの元ですよ?


「まぁ、良いけど……」


スノウはそういって自分の持ち物から小瓶を取り出し俺に振り掛ける。


「え、ちょ、冷たいんですけど?」

「魔除け……切れたんでしょ?」

「魔除け?え、なに?この森幽霊とか出るの?」

「幽霊?ゴーストタイプは出ない」


うーん、さっきから思ってたがこの子アレか?アレなのか?

良くネットで前世がどうとか言っちゃってる話は見るが、そんな感じの子なのか?


「そこを出れば道が見える……道に沿って行けば街に着く」

「そ、そうですか。ありがとうございました!」


そう言ってそそくさとスノウが示した道へと急ぐ。

根は悪そうな子じゃなさそうだけど、あの独特の雰囲気は関わり合いたくない。

ネットでもめんどくさいことになってたし……。




「……やっぱり、怖がってた……?」


森の外へと消えるイチの姿を見送るスノウは無表情ながらもどこか残念そうに見えた。

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