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7、彼女の恋と間違いの正体

7、


 優都さんに対して明確な恋心を持ったのは、高校1年の終わり頃だったと思う。正確には、2月。忘れもしないバレンタインデーの夜。

 その日は、本社に出なくてはならないと言っていたから、優都さんが帰ってくるのをマンションの自分の部屋で待っていたのだ。

 なんとなく優都さんのためにチョコを手作りして、気がつけば綺麗にラッピングまでしていた。

 自分の気の入れ方に若干驚きながらも、日頃の感謝の意だと思っていた。

 9時過ぎに帰宅した優都さん。まっすぐにこちらの部屋に来た彼が持っていたのは、いつもの通勤用の鞄と、紙袋が2つ。中には、ブランド物のチョコが沢山。

 それを見たとき、優都さんに好意をもつ女性の存在を意識し、それと同時に優都さんに好意をもつ自分にも気がついた。

 好きだから、一生懸命に頑張った。食べてほしくて、好きな人に笑ってほしくて作った。

 気づいてしまえば、こんなにも簡単なことだったのだ。

 急いで綺麗なラッピングをとって、適当にお皿に並べて、お夕飯と一緒に出した。

 「作りすぎてしまったから、食べてもらえませんか 」って困った顔も忘れなかった。


 だって、紙袋で一括りにされてしまいたくは、なかったから。



 ぎゅって、抱きしめたら、ずしんって重たいものが体の上に降りてきた。我慢できないほどではないから、そのまま抱きしめ続けた。

 3年間一緒に居たけど、こんなに近づくことはなかった。いつも、人1人分の距離が開いていた。

 私は、それを優都さんの優しさからだと思っていたけど、本当のところは、わからない。

 私たちは、どこで間違えてしまったのだろう。そして、この間違いは、正すことができるのだろうか。

 あまりにも私たちはすれ違いすぎている。願わくは少しでも優都さんの本心に近づくことができたら、と思う。そう、ほんの少しだけでも。

 天蓋を眺めていると、ウトウトとしてきてしまった。いけない。ここで寝たら、また面倒なことになる。今度は北極どころでは済まなくなってしまう。

 寝てはいけない。

 しかし、さっきから動かない優都さんは重みと一緒に暖かさも私に伝えてくる。程よい体温に、私の眠気はだんだん強くなってくる。

 やばい、やばい、やばい。

 そうして、私が必死で眠気と戦っていたとき、むくっと優都さんが起きた。正確には、少しだけ頭を上げた。

 驚いて、私は抱きしめていた手を離す。しかし、今度は私が優都さんに抱きしめられてしまった。

 そして、抱きしめられたまま、優都さんと一緒に上半身を起こす。

 顔近いなぁ・・・と思ってしまうくらいの至近距離。思わず、俯いてしまう。

「こちらを、見てください 」

 若干かすれてしまった声は、なんだか頼りなくて反射的に顔を上げた。目が合えば、優都さんの瞳は潤んで赤くなっている。うわぁ、可愛いなぁ。

「どうか、わがままを許してください。今だけ、このままで 」

 優都さんはそう言うと、私の肩に顔を埋めた。私の手は、また優都さんの背中にまわる。

「貴女が、誰を好きでも良いです。それでも、俺は、貴女が好きなんです 」

「え? 」

 思わず、素っ頓狂な声が出た。今、この人、なんて言った。

「驚いたでしょう。そうですよね、驚きますよね。でも、好きなんです。ずっと、貴女しか、いないんです 」

 ぎゅって、腕がしまってきて、痛い。優都さん、痛いです。それと、その話をもうちょっと詳しく聞かせてください。

「ちょ、優都さん、痛い!!」

「すみません。許してください 」

「そっちじゃなくて!! 」

 慌てて、優都さんの肩を押す。すると、そのまま私を抱きしめていた優都さんの手もゆるくなった。

 改めて、至近距離で見詰め合う私たち。・・・なんだか、照れてしまう。

「優都さんは、私のこと面倒くさいって思っているんじゃないですか? 」

「どうしてですか 」

 恨みがましい目で、ジトッと睨まれる。いつもなら、威圧感バリバリだろうが、今日は生憎、涙にぬれた瞳が可愛らしくて、全然怖くなどない。

「面倒くさいと思ったら、こんなにも一生懸命になりません。3年間、ずっと探していました。会長職を継ぐことになって、仕事が二倍になっても、面倒くさいなんて思ったこと、一度もありませんでした。むしろ、仕事のほうが面倒くさかったくらいです 」

「ちょっと、一体、どうしたんですか 」

 なんなのだ。一体、これは何のドッキリなのだ。

 もしかしたら、この後、後ろの扉から和馬さんとか出てくるのだろうか。それくらい、この優都さんは、違いすぎる気がする。

「扉の向こうに、和馬さんがドッキリってプレートを持って待機しているんですか 」

「やっぱり・・・和馬でしたか・・・ 」

 優都さんの瞳が不穏な光を帯びた。うお、ちょっと、怖い感じが戻ってきた。

「柏木顧問も、お人が悪い。どうして、亜姫子さんに相手がいることを黙っておられたのか・・・」

 はぁ、とため息をつくと、優都さんは抱きしめていた腕を完全に離した。ベッドの上で私たちは、距離をとる。

 そして、改めて正座をした優都さんはまっすぐに私を見つめ、そのまま土下座をした。

 ・・・なんで?

「今までの失礼な言動や私の勘違い、本当に申し訳ありませんでした。これからは、どうか和馬と幸せになってください 」

 ・・・え?

 なんだろう、何かが根本的に違っているような気がする。

 どうして、和馬さんの名前が出てくるのだろうか。私が、和馬さんとなど幸せになれるはずがない。

「優都さん・・・その、 」


 なんだかよくわからないことになっているけれど、私たちの間違いの正体が、見えた気がした。

 ものすごい勘違いと、小さなすれ違いと、とてつもない思い違いが、私には見えたように思えた。



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