◆それから
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蛇足的ですが、後日談的な話。
思いを伝えるのはとても難しい。
そのことは、今までの私たちからみても十分にわかっていたことだ。
すれ違いや勘違いは、とても恐ろしいもの。だからこそ、私たちはしっかりと思いを言葉にしなくてはならない。
思いは正しく伝えなければ、意味がないのだ。
目を開けると、知らない人がすやすやと眠っていた。
いや、知らない人というのは語弊があるかもしれない。知らない人ではない。私の好きな人だ。もちろん、現在進行形で大好きな人だ。
でも、私が好きな人はこんなに幸せそうでにやけた顔をした人だっただろうか?
優都さんは無表情で冷たそうで威圧感ビシビシの人だった、はず、だ。
「だれだろう…」
愚問であるが一応つぶやいてみた。私の隣に眠っているという時点で優都さん以外にありえないというのに。
慣れない天井を見上げながら、私は昨日の事を思い出す。
優都さんとの誤解が解けて、両思いになった。
指輪をもらった。
そして、その指輪は結婚指輪だった。と、いうことは、私たちは…
「どーしよう 」
嬉しい気持ちがこみ上げてきて、大変気持ち悪い顔になってしまったから思わず顔を覆った。やだ、私ってば優都さんの比じゃないほどににやけてる!!
気持ち悪い顔でゴロゴロとベットを転がっていると、隣で何かが動く気配がした。
「どうしました? 」
寝ぼけた声。あぁ、初めて聞く声だ。これからも、私はこうしてこの人の色んな初めてを知っていくのだ。
そう思うとやっぱり嬉しくて、ニヤケ顔の限界を超えてしまった私は涙をポロリと落としてしまった。
寝ぼけていた優都さんは、泣いてしまった私を見てぎょっとしたようだ。
急いでベットサイドのメガネをかけて私を見つめる。
「亜姫子さん、その、どうしたんですか? 」
焦った声。私を気遣う声。大切に思われているという証拠だ。だったら、私だって、伝えなきゃ。
「嬉しくて…夢じゃないんだってことが嬉しくて、泣いてしまいました 」
左手にはまった証を見つめながら私が呟けば、とろけそうに微笑んだ優都さんが抱きしめてくれた。ぎゅっと抱きしめる手は優しくて、私もそっと優都さんの背中に手を回した。
さて、そんな風に甘甘に過ごした日曜。夕方の帰り際は、なかなか手を離せなくってお互いに困ったんだっけ。
幸せで嬉しくて、今ならば空も飛べちゃうって感じで鳳学園の寮の自室に戻ると、そこには浅海が大変難しい顔で迎えてくれた。
「ど、どうしたの? 」
「どうしたも、こうしたもないわよ。いきなりいなくなるんだもん、誘拐かと思ったじゃん!! 」
「え!?」
確か優都さんは連絡しておいてくれたはずだ。どういうことだろうか。何かの連絡ミスでもおきたのかしら?
「ホテルから「三星様は本日はお戻りになりません、と伝言を預かっております」て、それって何かの誘拐かと思っちゃうじゃん!!」
「あー…確かに 」
本当に必要最低限しか伝えていなかったのだろう。心配する浅海をなだめようと、手を伸ばすと、ガシっと左手をつかまれた。
浅海を見れば、先ほどの難しい顔をさらに難しくて左手を凝視している。どうした、信じられないものでもみたいな顔して…あ。
「ちょっと、亜姫子… 」
あぁ、そうだ、そうだった。土曜の私からしたら信じられないものが左手の薬指にあったんだっけ。
「なにこれーーーー!!! 」
勝者、亜姫子!!のように天高くかかげられた左手薬指からは、キラキラ光るマリッジリングが私を見下ろしていた。
目の前には、浅海、冴子、園絵の3人が仁王立ちで私を見下ろしている。
対して私は小動物のように震えながら、正座をさせられている有様。
これは、あれだ、典型的なお説教のスタイル。しかも、3対1という恐怖の図。
「それで、亜姫子さん。今までのことどのように弁明なさるのかしら 」
「それなりの理由がなければ、一晩中正座させるわよ 」
「まぁ、理由があったとしても、罪は思いんだからね!! 」
にっこりと絶対零度のほほ笑みを見せる園絵。無表情に私を見つめる冴子。ほっぺを膨らませながら声を荒げる浅海。
三人三様に大変お怒りなのはわかっています。でも、そんなふうに言われても大したこと言えないよ。というか、私だって昨日今日のことで混乱しているんだから!!
「ちょっと、みんな 」
勢いよくドアが開かれた。そこから現れたのは私の愛しい救世主である紫だ。
あぁ、神様ありがとう。ナイスタイミング!!ちょっと足の感覚がなくなってきたところだったのよ。
「心配していたってのはわかるけど、こんなやり方じゃ亜姫子ちゃん言いづらいよ 」
みんなとの間に割って入ってくれる形で紫は私をかばってくれる。あぁ、この子こそ本物の天使さまだ!!神様、超サンキュー。
くるり、とこちらを振り返った紫は、そっと私の手をとる。いつもどおりの美少女らしい笑みを浮かべる紫は天使さまみたい…ん、なんで目が笑ってない、の?
「心配したんだよ。突然いなくなるし、連絡はつかないし、外泊しちゃうし… 」
ぎゅううううっと握られる手はとても痛いのだけど、それ以上に今まで見たこともない紫の顔が怖くて私はうなずくことしかできない。
ちがう、これは天使さまなんかじゃなくて、これは、これは…
「絶対に、赦さないんだから 」
どこかが壊れたようにほほ笑む紫は、魔王そのものだった。…神様のばか。
私が優都さんにつかまった後。会場から姿を消した私を探して、園絵・冴子・浅海はホテル内を探し回ったそうだ。そうして、一通り探した後、ホテルの支配人から言われた言葉に一同は唖然とした。
とりつくしまもなくホテルから帰された3人は、家の財力にものを言わせたらしいが、それでも私を見つけることはできなかったそうだ。(柏木グループのホテルにいたからね…)
そうして、幸せ絶頂の紫にまで連絡がいき、強力な三条家まで私の捜索に加わったらしい。
そこまでしてもらっていたというのに、いきなり私は帰ってきてしまった。幸せそうな顔で、マリッジリングまでつけてきちゃって。
…そりゃあ、怒られちゃう、かも。
「だって、亜姫子はいっつも誰かに見つかるを怖がっていたじゃん。私はとうとうそいつに見つかったのかと思ったの。んで、どこかに売り飛ばされちゃうんじゃって… 」
「浅海さん、ちょっと飛躍しすぎですよ。それよりも監禁のほうが… 」
「もう、二人とも考えすぎだわ。私は、殺されちゃうんじゃって心配して… 」
みんな、ありがとう。そんなにふうに心配していたんだね。そんな、楽しそうな顔して心配していたなんて、私嬉しくて涙が出そうだよ。
「でも、無事でよかった 」
ほっとしたように呟く紫。もう、さっきみたいな怖い顔もしていないけど、私はいまだに紫の顔を直視できません。
みんなの様子はそれぞれだけど、とっても安心したって感じられる。
こんなにも心配をかけてしまって、とっても申し訳ないきもちでいっぱいだ。
「みんな、ごめんね。いっぱい心配かけてしまって。連絡もできなくて本当にごめん 」
深々と頭を下げれば、足音が近づいてくる。
いっぱい心配と迷惑をかけてしまった。もしかしたら、もう、みんな私を嫌いになってしまったかもしれない。もう、友達じゃないって言われてしまうかも。
そう思うと視界がうるうると歪み始める。あぁ、だめだ、ここで泣くなんて、どこまでも自分勝手すぎる。
ぐるぐると回る思考に泣きそうな私の頭が、ポンと優しく撫でられた。
「顔をあげな。亜姫子がそうやってしおらしく謝るなんてらしくないよ 」
「そうですわ。亜姫子さんはいつもらしく笑っていてください 」
「そうして、少しでも私たちを安心させなさい 」
優しい言葉たちに顔を上げれば、みんなが優しくほほ笑んでいてくれた。
「おかえり、亜姫子 」
四人に抱き着くようにして、私はみっともなく泣き崩れた。
私は、できる限り今までことを話した。
死んでしまったお父さんとお母さんのこと。
柏木家との繋がりや、援助してもらいながら過ごした高校三年間。
そして、優都さんのこと。
「と、いうことで、優都さんから指輪をもらったの 」
「「「「… 」」」」
四人とも黙ったままだ。冴子と浅海はちょっと難しい顔。園絵と紫はなんか感動したような顔。
「ちょっと冴子。柏木って、三条と同じ御三家の柏木よね 」
「えぇ、あの柏木よ。ホテル系列の最大手。おじいちゃんというのは最高顧問みたいね 」
「指輪をくれた柏木優都ってのは、柏木の現会長か… 」
「魔王みたいなやつだって、お兄様が言っていたわ 」
「ねぇ、紫さん。素敵じゃないですか。三年間も離れ離れだったのに、変わらない愛を貫くなんて!! 」
「うん!!逃げ続けた亜姫子ちゃんも、探し続けた優都さんも、なんか切なすぎて素敵すぎる 」
「会えなくても、思いは一つだったなんて。どうしましょう、私感動してしまって涙がでそうですわ 」
「わかる、私も。亜姫子ちゃんには、幸せになってほしいなぁ 」
冷静に話を進める2人。きゃーきゃーと盛り上がる2人。それぞれの反応に私は戸惑うけれど、いつもと変わらない様子にほっとした。そよそよしくなったりされたら、やっぱり寂しいと思ってしまう。
そうやって話をしていくうちに夜は更けていき、私は夜の連絡という名のメール返信を怠ってしまった。
翌日、心配しまくった優都さんが学園寮まで来て、やっぱりお説教された私は長時間正座というスキルを会得したという。
お気に入りありがとうございました。
やっぱり亜姫子は、書きやすくて楽しいです。