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第4話:探り合う距離、指輪の影

真白と再会してからの日々は、僕にとって、過去と現在が入り混じるような感覚だった。メッセージのやり取りは続いていたけれど、直接会うのはまだ二度目。駅前のカフェで、僕たちは向かい合って座っていた。


「陽翔、最近どうしてるの? 仕事とか」


真白が、にこやかに尋ねてきた。僕は、自分の仕事のことや、休日の過ごし方などを、当たり障りなく話した。真白は、時折相槌を打ちながら、真剣な表情で耳を傾けてくれる。その様子は、高校時代と何も変わらない。


だけど、僕の視線は、どうしても真白の左手に吸い寄せられてしまう。コーヒーカップを持つ彼女の薬指で、あの指輪がキラリと光るたびに、胸の奥がざわついた。


(あれは、一体何なんだろう……)


聞きたい。今すぐにでも、その指輪の意味を尋ねたい。だけど、もしそれが、僕が一番恐れている意味だったら? その後の関係が、完全に終わってしまうかもしれない。そんな臆病な気持ちが、僕の口を閉ざさせた。


「真白は? 今、何してるんだ?」


僕は、努めて平静を装い、真白に尋ねた。


「私はね、今はアパレル関係の仕事をしてるんだ。服を選ぶのも、お客さんと話すのも、すごく楽しいよ」


真白は、楽しそうに自分の仕事について語ってくれた。その表情は、充実しているように見えた。


「そうなんだ。真白らしいな」


僕は、心からそう思った。高校時代から、真白はいつもおしゃれで、ファッション雑誌をよく読んでいた。


「うん。でも、結構忙しくて。最近は、なかなかゆっくりする時間も取れないかな」


真白はそう言って、少しだけ疲れたように笑った。その笑顔に、僕はまた胸が締め付けられる。無理はしていないだろうか。


「忙しいんだな。でも、充実してるってことだろ」


「そうだね。陽翔も、忙しそうだね」


僕たちは、互いの近況を語り合った。それは、まるで五年間という空白がなかったかのように、自然な会話だった。だけど、指輪の存在が、常に僕たちの間に横たわっている。まるで、透明な壁のように。


「あのさ、真白……」


僕は、意を決して、指輪のことに触れようとした。しかし、その時、真白のスマホが震えた。


「あ、ごめん。ちょっと電話」


真白は、申し訳なさそうにそう言って、席を立った。彼女が電話に出るため、少し離れた場所に移動する。


僕は、一人残された席で、テーブルの上のコーヒーカップを見つめていた。指輪のことが聞けなかった。また、一歩踏み出すことができなかった。


(僕の五年間の遅刻は、こんなにも重いのか……)


真白が電話を終えて戻ってきた。


「ごめんね、陽翔。仕事の電話だった」


「そうか」


「そろそろ、行かないと。この後、用事があるんだ」


真白は、そう言って立ち上がった。僕も慌てて席を立つ。


「また、連絡するね」


真白は、そう言ってカフェを出て行った。その背中を見送りながら、僕はまた、指輪のことが聞けなかった自分を責めた。


だけど、まだ終わってない。

あのとき交わせなかった“さよなら”の続きを、

そして、“好き”の続きを、今から話そうと思う。

それが、僕の五年間の遅刻の答えだから。


五年前。


真白の転校が発表されてから、僕の心は焦燥感に苛まれていた。残された時間は、あとわずか。このままでは、何も伝えられないまま、真白は僕の前からいなくなってしまう。


放課後、僕は真白を屋上に呼び出した。いつもの昼休みのように、二人きりになれる場所。


「真白、話があるんだ」


僕の声は、自分で思っていたよりも震えていた。真白は、僕のただならぬ雰囲気に気づいたのか、少しだけ不安そうな顔で僕を見つめている。


「なに、陽翔?」


「あのさ、真白……」


僕は、心臓が破裂しそうなほど強く鼓動するのを感じながら、言葉を紡ごうとした。

(好きだ。君のことが、好きだ。)

その言葉を、今、ここで伝えなければ。


しかし、その時、屋上のドアが勢いよく開いた。


「真白ー! 先生が呼んでるぞー!」


クラスの男子生徒が、息を切らしながら駆け寄ってきた。真白は、僕の顔と、男子生徒の顔を交互に見て、困ったように眉を下げた。


「ごめん、陽翔。先生に呼ばれてるみたい」


真白はそう言って、僕に背を向けた。僕は、彼女の背中に向かって、必死で言葉を叫ぼうとした。しかし、喉はからからに乾き、声が出ない。


「真白!」


僕がようやく絞り出した声は、彼女には届かなかった。真白は、男子生徒と一緒に屋上を後にする。


僕は、その場に立ち尽くしていた。

まただ。また、伝えられなかった。

僕の不甲斐なさに、悔しさがこみ上げてくる。


その日から、真白は僕を避けるようになった。

いや、避けていたのは、僕の方だったのかもしれない。

伝えられなかった後悔と、もう会えなくなるという絶望感から、僕は真白と目を合わせることができなかった。


そして、転校の日。

僕は、真白に「さよなら」を言うことすらできなかった。

彼女が教室を出ていく背中を、ただ、呆然と見送るだけだった。


あの時、僕がもう少し勇気を出せていたら。

あの時、僕がもう少し早く、気持ちを伝えられていたら。


五年前のあの日の後悔が、今も僕の心を蝕んでいた。

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