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1★カミングアウト

「吉野くん…。私…吉野くんの事が好きなの。付き合ってくれる?」



「…ごめん、俺すきな奴がいるんだ。」




これで多分10回目くらい。

吉野が告られているのを目撃したのは。


正確に言うと、覗き見だけと。



「はぁ、あいつ凄いな。」


俺、村上圭矢は、体育館裏に来ている2人を木の影からこっそり監視していた。



「そっ、そりゃそうだよね…!ごめんね吉野くん。じゃあ今の忘れて!また明日。」


ちょっと涙声になっている女の子は、同じクラスの三原真希ちゃんだった。


「いや、君が謝ることはないと思う。じゃあまた明日。」


「バイバイ…」

今にも泣きそうな顔で、言った真希ちゃんは、バタバタと足音をたてて走り去っていった。


あーあ、もったいない。真希ちゃんてすんごいモテんのに。絶対男子うらやましがるだろ。もったいねぇ。


そんな風に思いながらまだ木の影に隠れていた俺は、なんとまぬけな事に、落ちていた木の小枝を踏んでしまった。


パキ…とあからさまな音が足元からして、俺の体は硬直。冷や汗がたらーと頬を伝った。



「ん?誰かいるのか」


ざっざっと芝生を歩く音が聞こえる。


しまった!と思ったが、時すでに遅し。


異変に気づいた吉野が、木の方へと近づいてきた。


「は…え?むら…村上?」



目を見開いて俺を見つめる吉野。

真っ黒な髪が、風にふんわりとなびく。


あー最悪だ。


どうすることもできない俺は、必死に言葉を探した。


「あ…わりぃ。べ、別にそういうあれじゃないから。うん、ごめんね。悪い。さーせん。」


かるい動揺で、ろれつが上手くまわらない。

とりあえず謝まる。


俺は頭をポリポリとかいた。


すると、吉野は

「なんで盗み聞きなんてしてたの?」

と、不思議そうな顔で聞いてきた。


どうして…と言われても。

特に意味は…

言おうとして、俺は言葉を飲み込んだ。


「いや、なんかほんの出来心っつうか…悪気は無かった!ほんとに!ごめ…っ」

「あはは、別にそんなに謝らなくてもいいよ」



ニコっと笑う吉野を見て、思ったこと。



すげー可愛い。




なにこいつ。

こんなに可愛かったっけ!?

ていうかその前に男だぞ。

一瞬ときめいてしまった俺はなんなんだ。ホモか。



ノリつっこみ的なことをした自分に後悔しつつ、吉野をじぃっと見つめてみた。

白くてきれいな肌。真っ黒くて日本人らしい髪の毛。ピンク色がかった頬。


こいつは美人だ。

間近で見たことなかったけど、吉野ってこんなに綺麗だったっけか?



うっとりしていると、心なしか、吉野の顔が赤くなっていた。


「…な、なに?俺の顔になんかついてる?」


「あーいやいや違うごめん。なんか綺麗な顔だちだなと…」


「え…?」


まずい!つい口がすべった。綺麗な顔だちとか何言ってんすか俺。


「あはは、いや、全然きれいくないよ。っていうか村上君の方がかっこいいというか…ワイルド」


ワイルド…?

俺ってワイルド?

あ、髪の毛のせいかな。茶髪だし。


「っていうか今君付けした?村上君て」


俺がそういうと、吉野は、あぁ。とまた笑った。


「なんかつい。くせ?みたいな感じ。ほら、あんまり喋ったことないからさ、おれたち」


まぁ確かに…

普段、俺は吉野と違うグループのとこいるしな。


不良じゃないけど、非行にはしる前のちょいワル集団みたいな。

俺はその中の平岡武というヤツと特に仲が良い。

中学の時も、1年2年3年とずっと同じクラスだったし、高2の今現在も同じクラスだ。


そんな俺の親友武(通称たけちゃん)も、最近いっちょ前に彼女を作ったらしく、あまり一緒に登下校もしなくなった。


それで俺は今フリー状態なわけで。



「でもいいよな吉野は」


「へ?なにが…」


「なにがって、モテるからに決まってるでしょ」


ちょっぴり嫌味っぽく言ってしまった。

でも吉野は全然気にしていない様子で、

「別にそこまでじゃないよ。村上君なんて彼女いるでしょ?」

と笑った。


いや、いないんですけど。

「俺フリーだよ」


苦笑して答える。

それを聞いて、吉野は物凄く驚いたみたいだった。


えっ…と小さく声がもれて、そのあとに「嘘だろー?まじかよ」と言った。


「残念ながら嘘じゃないです。11回も告白されてる吉野に比べて、俺は可哀相なことに1回しかされたことないわー」


「ん?ていうかなんでそんなに俺の告られた回数が正確に言えるの」



やばーまずい。

また口がすべった!

今までの告られ現場全部見てたなんていえねぇよ。


どうして?と何回も聞いてくる吉野が、突然あ…と言った。


「もしかして村上君……いつも俺の告られ現場見てたの?今日みたいに影にかくれて」



「あぁ…いやー…えっと………はい。そうです。すんません」


もうこれ以上ごまかしきれないと思った俺は、素直に謝った。


すると、吉野くんは、ふーん…と言って俺を見た。


「村上君さ…俺がなんで女の子のこと振ってるか知ってる?」



「え、分かんないです…」





「俺さぁ……ホモなの」



へぇーそっか、ホモか。

ホモ……

…ホモッ!?!?


「はあああっ!?」



え、ちょっと待て。

なにこれどっきり?


吉野がホモだって?

うそだろおい…


あの女子にモテる爽やか男子が。


自分の顔がサーッと青ざめていくのが分かった。


ありえないだろ。ここにきてそんなカミングアウトされても困る。


「で、この際だから言っちゃうけど…俺の…」


と吉野が言いかけた時、


「おーい兄ちゃん!」


あ、この声は。

聞き慣れた声がして振り返ると、走ってきたのは弟の圭太だった。


「なに、どしたん」



吉野の言いかけた言葉がすごい気になったのだけど、急用っぽかったので仕方なく弟にたずねてみる。



「聞いてよ兄ちゃん!母さんが犬拾ってきた。」


「だ、だからなんなの」


全く訳の分からない俺は、眉間にシワをよせた。



「可哀相だから飼うんだって!やったー俺犬好きだもん」



あきれた。

こいつは中3にもなって犬ごときではしゃぐのかい。


「あのな、今俺達は大事な話をしていたんだ。そんな話をわざわざ俺にしにこなくてもいいだろ」


「あ…おとりこみ中だった?すいません。兄がお世話になってます」


そう言って、圭太は吉野の方にくるりと体を向け、頭をさげた。


「いやいや、気にしなくていいんだよ。ていうか、弟いたんだね、村上君て」


何が楽しいのか良く分からないが、楽しそうな顔をして吉野は言った。


「んーまあね。中3なのにすごいガキだけど」



おい、ガキって言うなよ!

圭太が俺に向かって牙をむけると、吉野はクスクスと笑った。


「ふふふっ、仲がいいんだね」


「そうかあ?」


俺が言うと、

そうだよ

と吉野は満面の笑みで言った。


なんか可愛い…笑顔。

さっきも思ったけど本当に可愛い。



もう一回見たくなるなーなんて思いながら、なんとか弟を追い払うことに成功した。




その日は、吉野と二人で一緒に帰った。



意外と家が近かったというのも発覚したし、自分の家の家族の話だとか、好きなバンドの話だとか、色んな話をした。


吉野とこんなにたくさん話したのは初めてで、凄く新鮮だったけど、思いのほか趣味が一致していた。



はっきり言って、かなり楽しかった。


こいつがホモでも、別に言いふらすつもりなんかない。

ていうか、気にしなければいいことだし。


ただ一つ気になるのは、吉野が言いかけた

「で、この際だから言っちゃうけど…俺の…」


というこの言葉。


俺の…なんだろう。

まぁそのうち分かることだろう。


そう思って、

新鮮な気持ちの余韻を残したまま、俺は自分の部屋のベッドで眠りにおちていった。

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