第九話 この島
第八話のあらすじアオはジャールに向かって実戦形式で修行をしていたが、あっけなくやられてしまった。そして修行の量を増やされてしまった。騎士団に入るための勉強も始まった。そしてヘトヘトの修行後、ジャールにこの島について教えると言われて…
するとジャールは木でできた戸棚を開けて丸まっている黄ばんだ地紙のようなものをだしてきた。
「これがこの島の地図じゃ。少し古いがな。」
そしてその地図を広げると文字や記号がたくさん書かれていた。そして大小形が違う円や楕円も書かれていた。
「様々な記号はその土地の事を細かく表しておるが、今回は無視する。今日はこの円に注目するぞ。」
アオは頷いたあと、質問した。
「この円や楕円はなんなのでしょうか?」
ジャールは地図を見ながら言った。
「これは国の範囲じゃ。例えば…」
ジャールは上の方を指さして言った。
「この大きな横に大きい円はヨーゼム開拓地といい、罪を犯したものがここに送られる。とても寒い地域で、穀物はほぼない。このように領地ごとに円で区切ってあるのじゃ。」
アオは納得した顔をして頷いた。
「では早速…」
教えてください!と言おうとしたとき、ジャールに止められた。
「まあ、待て。正直に言おう。お主には教養がない。お主、方角は分かるか?」
アオは村の漁師達が偶に言っていたことを思い出したが、どのような意味用法で使われていたのかは忘れてしまった。
「えっと…すいません…聞いたことはあるのですが…意味はわかりません…」
アオは気まずい顔をして言った。ジャールは
「そんなことじゃろうと思ったわい。じゃから今から方角について教えるぞ。」
と言い、方角について教え始めた。北、南、東、西、地図を用いてこと細やかに説明してみせた。
「よし、あらかた説明は終わったな。それではこの島、ゴザーズ島について教える。しっかり聞いておけ。」
ジャールはまず、ヨーゼム開拓地の西にある円を指さした。
「ここはルドカーンという地域じゃ。儂の地元でもある。ここはヨーゼム開拓地と同じで元々開拓地だった。それを儂らの祖先の炎の一族が開拓して人が住むようになった。今は炎の一族である儂の孫が統治しておる。」
アオは自分の耳を疑った。
「え?師匠ってお孫さんがいたんですか?」
ジャールはハッとした様子で答えた。
「そうか、お主には言ってなかったな。二人の孫がおってな、兄妹なんじゃ。妹の方はお主と一緒の歳で同じ試験を受けると思うぞ。話が逸れた。次に行くぞ。」
アオはジャールが孫について話したくないような雰囲気を感じ取り、聞くのをやめた。
「このルドカーンは鉱山で取れる鉱石で生計を立てている。鉱山が多い火山地帯での、この島最大の火山であるラーヴァ山がある。」
アオは頷いて聞いていた。ジャールは次に地図の真ん中にある一番歪みがない円を指差した。
「ここは王都じゃ。この島で一番栄えているところじゃ。ここには王が住まう王の宮殿がある。ここから少し見えるじゃろう。入団試験はここの騎士団本部で行うぞ。」
アオはここに来る時に乗ってきた馬車の荷台から見えた大きな建物の事を思い出していた。
「王都は説明するよりも見たほうが早い。入団試験でよく見てくるといい。」
アオは少し入団試験が楽しみになった。そしてジャールは次に王都の西にある細長い楕円を指差した。
「ここはフィッタ。王都と一番近い領地じゃ。王都の次に栄えている。」
アオは王都の次に栄えていると聞き、驚いた。
(王都の次かぁ…どんなところなんだろう…行ってみたいなぁ…)
そんな想像をしているとジャールから手刀が飛んできてアオの背中に当たった。
「いてっ!」
アオは叩かれた頭を押さえた。
「しっかりと聞いておけ!ここには湖や川といった水源が多くあるから水の都とも呼ばれているな。音楽が盛んな地域でもある。」
ジャールは下の横に長い楕円もついでに説明した。
「ここは誰の領地でもない、サーバナ砂漠と呼ばれている。ここには人がおらん。いるのは猛獣くらいじゃな。」
「では、なぜ地図に記されているのですか?」
アオは気になって質問した。
「ここは危険地帯として有名じゃからな。行かないようにとういう警告の目的で書かれたのじゃろう。次に行くぞ。」
ジャールはサーバナ砂漠の南。下の大きな円をさした。
「ここはジャセルバ。密林地帯で、果実や野菜、薬草何かが多く採れる。そこで採れたものを…」
ジャールはジャセルバの東にある隣の円を指差した。
「ここの華国に持っていく。ここは倭州との貿易港として栄えていてな。倭州にジャセルバの果実、ルドカーンの鉱石等を運ぶことで栄えていったんじゃ。華国というくらいだから、花の生産も盛んじゃな。」
(ちゃんと地域ごとにどのような関係なのか知ることも騎士にとっても大事だよな…)
アオはそう思っていた。そんな心の声が聞こえたのかジャールは言った。
「そんな真剣になって覚える必要は今はない。騎士団に入った後にもっと詳しく、嫌でも覚えされられるからな。」
それを聞いてアオは
「そうなんですね…」
と言った。しかし心の中は
(嫌でも覚えさせられるのかぁ…)
と思っていた。ジャールは続けた。
「しかし今は倭州が敵国に乗っ取られたから華国は今、活気がないようじゃ。」
アオはジャールが言ったその言葉に驚いた。
「え!倭州って乗っ取られたんですか?」
ジャールは深刻な顔をして言った。
「そうじゃ。倭州は一夜の内に海の向こうの械人を所有している敵国に乗っ取られた…あの日は雷神祭という祭りが行われていたから、雷神祭一夜事件と呼ばれている…そのせいで倭州の特産物はもう届かなくなった…」
(一夜にして…倭州が…)
アオは械人の恐ろしさを改めて痛感した。
「な、なぜ敵国は倭州を攻めたんですか?」
アオは質問したがジャールは
「ここからは話が長くなる。また後でな。」
とあしらわれてしまった。そしてジャールは華国の隣の最後の円を指差した。
「ここがお主が寝ていたウィンドビルじゃ。酒の生産で栄えている地域じゃ。最近は活気がない華国と共同で花の研究もしているらしい。これでこの島の事はあらかた話したじゃろう。最後にこの地図には描かれていないが、倭州について詳しく説明しよう。」
ジャールは立ち上がり地図をもう一度丸めて戸棚に置いた。
「倭州は素晴らしいところじゃ…独特の文化があり、独特の人間性がある。」
ジャールはまるで故郷を語るかのように話した。
「儂らゴザーズの人々と仲良くしてくれるいい人々なんじゃ。しかし…今では倭州の人々は敵国に連れ去られたか殺された…避難した倭州の人々も深い傷を負った。そして今、あの島にいるのは強力な械人だけ…騎士団も今の戦力では勝てない…本当に残念じゃ…」
アオはつばを飲み込んだ。
(ひどい奴らだ…絶対に取り返してみせる…!)
アオはそう心に思った。
「ご丁寧な説明、ありがとうございます。師匠。」
ジャールは頷いて
「うむ、感情的になってしまったな…すまない。では飯にしよう。」
そう言って、ジャールは台所に向かった。そして少しして、料理が運ばれてきた。いつもの料理だった。
「いただきます。」
アオは食べながら思っていた。
(この食材は倭州の代用だ。って師匠は言っていたけど…本物はもっと美味しいのかな…)
そう思いながら食べていた。
「ごちそうさまでした。」
アオは歯を磨き、寝床に入った。
(倭州のようにいつ敵国が攻めてくるかわからない…早く強くならなきゃ…もっと頑張ろう。)
そう思いながら眠りについた。