第八話 稽古と勉強
第七話のあらすじジャールに修行を受けられるようになったアオ。しかしその修行は初日から想像を絶するものだった。そして二日目。ジャールに木刀でかかってこいと言われ…
「はぁぁぁ!」
アオはジャールに木刀で斬りかかった。しかしアオの木刀は難なくいなされてしまった。そしてジャールが木刀を振り上げた。
(来る!)
アオはすかさず受ける体勢に入った。ジャールはそれを見て即座に体勢を低くしてアオの腹に木刀で軽くついた。アオは衝撃で木刀を離してしまった。また腹にある木刀から目を離せずにいた。たった一瞬のことだったのに息が上がっていた。ジャールは立ち上がると
「儂の勝ち。相手の次の行動を読むことは大切じゃが、それを行動に移すのが早すぎたな。刀をふるうときには頭も使う。これだけで音を上げてはいかんぞ。」
余裕そうな声で言った。
「単純にいえば、刀をふるうときの主な行動は相手を斬る、相手の攻撃を受ける、いなす。かわす。相手の攻撃に対して先程挙げたもののどれが適切かを選んで行動する。言うは易しでも行動するのは至難の業。」
アオは落ちた木刀を拾い
「もう一度お願いします!」
再度実戦をしたいと申し出た。そしてまた激痛で起こされ、日が出ていない時間から走り込みと腕立て、腹筋、背筋、体幹を行った。
「いや、今日はこれでおしまい。これから素振り百本やってもらうぞ!」
するとジャールは手本を見せた。身体を一切ぶらさず木刀を振るって見せた。空気を斬るビュンという音が響く。
「刀に対して真っ直ぐに力を込めて一直線に振る。これが大切じゃ。やってみい。」
アオは言われた通りに身体を真っ直ぐにして木刀に力を込めて振るった。すると足に激痛が走った。木刀で叩かれたのだ。アオは悶絶した。
「バカモノ!一直線と言っただろうが!すごくぶれているぞ!正しく振れていれば空気を斬る音が聞こえるはずじゃ!」
「は、はい…」
アオは痛みに耐えながら返事をした。そしてもう一度木刀を振るっても違うと言われて叩かれた。そして今日はちゃんとした素振りができなかった。アオの身体はボロボロだった。
「はぁ…なぜできないのか…これは体力強化を重点的にやってから素振りに入るか。」
アオは驚愕していた。
(あの走り込みと腕立てのやつをもっとやるってこと!?俺…死ぬかも…)
アオはそれを考えただけで恐怖した。
「よし、では教養に入るぞ。居間に来い。」
ジャールはそう言うと中庭からそそくさとでていってしまった。アオもボロボロの身体に鞭をうって重い足取りで居間に向かった。そこには大量の紙切れを持ったジャールが座っていた。
「遅い!もっとパッパと行動せんかい!」
「す、すいません…師匠…」
ジャールは「座れ」という合図をしてアオを座らせた。そしてジャールによる授業が始まった。
「まずは計算についてじゃ。」
ジャールは紙切れと鉛筆を使って四則演算についてこと細やかに教えたが、アオはちんぷんかんぷんだった。
「え、ええと…さんしが…十…ですか?」
「違う!よく覚えろ!」
アオは掛け算でつまずいていた。
(こんなことになるんだったら村の頭のいい人に聞いておけばよかった…)
そんなことを思っていると
「よし…今日はここまでじゃ。明日またやるからな。」
と今日の勉強が終了した。アオは自室におぼつかない足取りで戻った。絶望のどん底にいる気分だった。
(いつもの走り込みと体力づくりのやつやって夜は勉強…キツすぎる…)
そう思いながら寝た。そしてまた激痛で起こされた。
「ほれ!起きろ!昨日言った通り今日から修行の量を増やす。」
その一言でアオの眠気が一気に覚めた。アオは恐る恐る聞いた。
「ど…どのくらい量を増やすんですか…」
「二倍じゃ。昨日計算を教えたじゃろう。」
アオは昨日覚えた二倍について思い出した瞬間、開いた口が塞がらなかった。
「さっさと来い!」
そして日が出ていない時間にいつもより多く走り込みをした。山登りの道を変更して更に坂道が急で道がほぼないような道をジャールは走るようになった。これに突き放されないようにアオは必死について行く。戻ってからも昨日よりも多い量、多い時間腕立て、腹筋、背筋、体幹を行った。朝からヘトヘトだった。
(これを続けるのか…)
日が出てきたところで朝食にした。
「やはり考えたのじゃが、実戦が一番だと思う。だから今日から儂と打ち込み稽古じゃ。」
朝食を食べ終えた後に言われた一言だった。
「は、はい…わかりました…」
アオは渋々、中庭に向かった。アオは打ち込み稽古に気分が乗らなかった。なぜなら
「いてっ!もう一回!」
「ほれほれ、どうした。そんなんじゃ儂に勝てんぞ。」
木刀は痛いし、ジャールに勝てる未来が見えないからだ。もう一回挑んでも
「はっ!やぁ!」
(くそっ!なんで当たらない!)
するりするりと木刀を躱し、隙に木刀を叩き込んでくる。また
「よし!」
ジャールの木刀を受け止められたとしても
「ふん!」
「ぐはぁ!くぅぅ…いてぇ…もう一回!」
直ぐに体勢を整えてまた受けようと準備しているうちに叩き込まれる。これを涼しい顔をしてやってのけるのだ。
(本気を出しているのかも怪しい…)
「はぁ…はぁ…」
もう今日だけで何回やったか忘れてしまうくらいにアオはジャールに挑んだ。そして痣だらけになっていた夕方頃。
「よし、今日はここまで。今日も勉強するぞ。」
「は、はい…」
アオは精一杯返事をしたつもりが疲労で腑抜けた返事しかできなかった。地面に何回も叩きつけられたので服は泥だらけだった。そのため着替えてから居間に向かった。
「今日は騎士団たるものこの国の政治、そしてこの島について教えるぞ。」