第七話 修行開始
第六話のあらすじ修行を受けようと思った矢先、騎士団に入る理由を聞かれたアオ。姉を助けるためと答えるが締め出されてしまう。アオは姉であるマナの言葉から騎士団の存在意義を考えてもう一度返答すると中に入れてくれた。師匠の名はジャールこれから修行が始まる…
アオはジャールに連れられ広い屋敷を案内された。アオがこれから住む部屋は二階にある小さな和室だった。既に荷物が置いてある。
「ここでお主は寝るのじゃ、わかったな!」
「はい!わかりました!」
そして一度下に降りて長い廊下を歩くと居間があった。そこの机にはもう沢山の料理が並んでいる。アオは色とりどりの食材に目を輝かせた。
「うまそうじゃろう!」
ジャールは誇らしげに答えた。
「以前は倭州の食材を使っていたのじゃが、もう届かなくなっての…しかし!他のところの食材でも倭州料理は再現できる!」
アオは疑問に思っていたことを聞いた。
「師匠は倭州文化がお好きなのですか?」
ジャールはよくぞ聞いてくれたという明るい顔になった。
「その通り!この屋敷も倭州独自の建築技術が使われているのじゃ!倭州は独特の文化があっての…おお、いかんいかん。話すと長くなるからまた後でな。」
ジャールは椅子を引いて座った。
「ほれ、早う座れ、今の時間からしてこれは朝食兼昼食じゃな。」
「失礼します。」
アオはジャールの反対側に座った。するとジャールが手と手を合わせたのでアオもそれに合わせた。
「では、いただきます。」
「いただきます。」
アオは魚の煮付けを箸でほぐして身を食べた。
(美味しい…煮付けはよく食べてたけどこんな味付けがあったなんて…)
アオは夢中になって食べ進めた。そして味噌汁にも魚のアラ汁が使われていた。
(魚を無駄なく、そして美味しく食べる…村でよく言われてたっけ…)
ふと、ジャールを見ると綺麗な箸さばきで淡々と料理を食べている。アオも淡々と料理を頬張った。そして完食した。そしてまた手を合わせて
「ごちそうさまでした。」
と二人揃って言った。
「よし、歯を磨いたら外へ出ろ。修行を始める。」
「はい!」
アオは返事をして、洗面台に向かった。歯をまんべんなく磨いて外へ出た。ジャールは既にいた。
「来たか。ではまずは走り込みじゃ。まだ刀は握らんぞ。体力は多ければ多いほどいいからな。ついてこい。あ!言い忘れておった。才のチカラは使うなよ!」
すると、ジャールは踵を返して走っていってしまった。本当に老人か疑うくらい速かった。
「はい!」
返事をしてアオもついていった。漁をする関係上、海に潜るので肺活量は鍛えられていた。しかしジャールに追いつけない。
(は、速い!)
そして走っていると前に山が見えた。ジャールはその山に突っ込んでいく。
(まさかこれ登るの…)
既に何キロか走ってからの山登りだった。ジャールは軽々と登るが、アオの足どりは重い。足場は補足なんてされていないので最悪、しかも空気も薄い。
「どうした?もう音を上げたか?片道だけで疲れとるようじゃまたまだじゃな!」
ジャールが後ろを振り返り余裕そうな声で言った。
(そうだ…これでまた下って山降りてまた走って…)
なんて考えてもしょうがないのでとにかく気合で頑張った。下りは勝手に足が動くので楽かと思ったが、制御できずに転びそうになった。 そして屋敷に着いたときにはもうアオはヘトヘトだった。まだ昼頃だった。
「全く、体力がないのう…水を飲んだら腕立て、腹筋背筋、体幹をやるぞ!」
「は、はいぃ…」
情けない返事をして水を飲んで体力が回復したら、中庭に移動し腕、腹筋、背筋が限界を超えるまで。体幹はうつ伏せになって腕だけで自分の体重を支えるものを一分間。とにかく繰り返した。フォームが違うと木刀で叩かれる。
「ほれ!楽をするな!」
叩かれたところがヒリヒリと痛む。叩かれそうになると息を止めてあの灰色の世界に行きたくなるが、我慢して木刀の痛みを受けた。
「返事は!」
「はい!」
こんな事を繰り返し、もう夕方になった。全身が痛い。
「よし、今日は終わりじゃ。ちなみにこれ。毎日やるから。基本中の基本じゃからな!」
アオは自分の耳を疑った。
「あ、あの走り込みからですか?」
「そうじゃ。」
あたかもやることが当たり前かの様に言ってみせた。すごく不安だった。
(俺の身体…持つかな…)
「よし、飯を作るからお主は部屋で寝る準備でもしてろ。」
「はい!」
アオは小さな和室に布団を広げた。すると
「飯が出来たぞ!」
ジャールの声が聞こえた。
「はい!今、行きます!」
居間に降りると琥珀色に輝いた汁の中に麺があった。ネギも添えられている。
「あの…師匠…これは…」
ジャールはその言葉に驚いた。
「お主…うどんを知らんと言うか…」
「う、どん?」
「倭州の伝統的な麺料理じゃ。」
「このような料理が倭州にはあるのですね…」
アオは頷いて座った。ジャールも同じ様に座った。
(美味しそう…)
二人は手を合わせた。
「いただきます」
アオは質問しなかったが、雰囲気でジャールは礼儀を重んじる人だとわかったのでそれに従い、なるべく無礼をしないようにしていた。そしてうどんを食べようとした。
「アチッ…」
思わず声がでてしまった。ジャールは失笑している。恥ずかしいとも思いつつも息で冷ましてから啜った。
(美味しい!麺はもちもちで、その麺にこの汁が絡んで…こんな料理があったなんて…)
アオの驚いた顔を見て、ジャールは微笑んでいた。
アオは旨さのあまり、すぐに完食した。ジャールが完食するのを待って
「ごちそうさまでした。」
揃って言った。
「美味かったか?」
ジャールはニヤニヤしながら言った。
「はい!すごく美味しかったです!」
満足そうなアオの顔を見てジャールは笑顔で頷いた。
「それは良かった…ところでお主、田舎の漁村出身じゃったよな?」
「はい…それがどうかしましたか?」
ジャールは悩んだ末に言った。
「失礼じゃがまだ教養が無いと見える。そこで、修行だけでなく勉強もするぞ!」
アオは若干ショックを受けた。事実ではあるが面と向かって言われたのはマナ以外では初めてだったからだ。
「では、ほぐすぞ。そこに横たわれ。」
「ほ、ほぐす?師匠何を…」
「つべこべ言うな!」
アオは何が何だか分からないまま横になった。するとジャールがアオの足や腕の筋肉をマッサージしてほぐし始めた。アオはくすぐったかったが我慢して受けた。そしてマッサージが終わると
「よし、終わったぞ!明日に疲労を持っていくことは儂が許さん!早く寝ろ。」
そう言って行ってしまった。
「はい!おやすみなさい!」
と後ろ姿のジャールに向かって言った。そして二階に上がり布団にくるまり寝た。疲れていたので気絶したように寝た。
そして激痛で目覚めた。木刀で叩かれていたのだ。
「おい!ねぼすけが!はよ起きろ!走るぞ!」
アオは眠気眼を擦りながら外に出て、昨日やった山登りの走り込みと腕立て、腹筋、背筋、体幹をした。まだ太陽は昇っていなかった。昨日に相変わらずキツかった。朝の修行が終わったときにやっと太陽が昇った。そしていつもの朝食を食べた。
「今日は刀の握り方を教えてやろう。歯を磨いたらまた、中庭に来い。」
「はい!」
アオは内心ワクワクしていた。刀の握り方を教わったらある程度は械人と戦えそうだと思ったからだ。洗面台で歯を磨いてから中庭に出た。ジャールは木刀を二本持っていた。そしてアオを見るなりもう一本投げて渡しきた。
「刀の持ち方は簡単じゃ、利き手じゃない方を下に、利き手を鍔に近い方、つまり上で持つんじゃ。」
アオは言われた通りに木刀を持つと、しっくりきた。アオは械人に襲われそうになったあのとき初めて刀を持った。その時は手が逆だったので上手く力が伝わらなかったのだ。するとジャールがいきなり
「一番身に染みるのは実戦じゃ。かかってこい!」
ジャールは木刀を構えた。アオは一瞬戸惑ったが言
われた通りに木刀でジャールに斬りかかった。