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9  エレナの依頼

 逃げる間もなくアイシャちゃんに捕まった俺は恐る恐るエレナと向かい合って座っていた。もちろん、パーティーを組んだ? ティアも一緒だ。



「わしの名前はエレナ=ユグドラシルという。人を探しているじゃが、土地勘のあるものに手伝ってほしく依頼させてもらったのじゃ」



 自己紹介するエレナからはこちらの正体に気づいた様子もない。仮面の効果は有効なようで内心ほっとする。

 さっさとにげることも考えたけど、変に疑われて追跡魔法で追われることを想定するとこのままやり過ごした方が良いと思ったのだ。

 


「俺はCランク冒険者のグスタフです。仮面を外さない無礼をお許しください。怪我がひどく他人に見せられる顔ではないんです」

「私はDランクの可愛い系冒険者のティアです。師匠とパーティーを組んで色々と勉強させてもらっています」

「仮面の男に可愛い系冒険者……ここ一年で冒険者もいろいろと変わったようじゃな……」


 仮面の中で緊張する俺とは対照的ににっこりとほほ笑みながらパーティという言葉を強調するティア。

 なんかもうパーティーを組んでいることになっているんだけど……



「それにしても……師匠か……」



 師匠という言葉に反応したエレナはどこかうらやましそうにこちらを見つめたのは気のせいだろうか?



「あの……エレナさんって魔王殺しの英雄。『大賢者』エレナさんですよね? 王都で宮廷魔術師をやっているんじゃないですか? なんでこんなところに……?」

「ああ、俺も聞いたことがありますね。魔王を倒した四人にはそれぞれが国の要職についたと……。言っちゃあれですが人探しなら冒険者に頼むよりも王国の兵士を使った方がいいと思いますよ。それこそ専門の人間もいるって噂を聞いたことがあります」



 警戒して言葉を選びながらエレナの表情を探る。普段はクールぶっている彼女だが、結構表情に出やすいのを俺はしっている。

 そもそも人を探すのならば密偵などを使った方がいい。わざわざ彼女がこの地にくるということは何か理由があるのだ。


 例えば……五人目の英雄の存在を口封じのするために俺を直接殺したいとか……

 緊張しながら彼女の思考を読もうと見つめていると…



「ほえ? なんのことじゃ? わしは宮廷魔術師の話は断ったし、魔王を倒した後はずっと引きこもってとある魔法の研究をしとったぞ」



 エレナは俺たちの言葉に間の抜けた声をあげる。その表情には嘘の色はなく困惑すらしているように見える。

 思わず信じそうになるが、彼女を含めた四人は気づかれないように結託して俺を追放したのだ。信用するわけにはいかない。



「なるほど……じゃあ、探し人のことを詳しく教えてくれますか? どんな人だったんですか?」

「うむ……魔王討伐パーティーの五人目の人間で名はファントムという」

「幻の五人目ってやつですか!! なんだか、かっこいいですね、師匠」

「ん、ああ、そうだね」



 あっさりとかつての名前を呼ばれて思わず冷や汗が流れる。

 まあ、今の俺とファントムだったときはキャラが違う。あの頃は悪役貴族っぽくクールな性格でちょっと傲慢なキャラを演じていたからね、口調すらもかえていたから今の俺とはわからないだろう。



「かっこいいか……どちらかというと芝居がかった口調の偽悪者という感じじゃったな。まるで物語の悪役を演じて居るが人の良さが隠しきれていないところが可愛らしいといった感じじゃな」

「なるほど……十二歳くらいの男の子が悪役にあこがれてごっこ遊びをしていたみたいな感じですね!!」


 あれ? 遠回しに厨二病って言われてない? 俺はクールで傲慢なキャラじゃ……



「あとはあれじゃな……むっつりスケベというのかのう……仲間が怪我を負った時に胸元の防具が壊れ谷間とか見えたときとかチラッチラ見ててちょっときもかったのう」

「ああ、わかります。男性の視線って結構わかっちゃいますよね。なのに指摘すると『みてないしー』とかいうんでちょっとむかつきます」



 アンリエッタたちが服や鎧だけ溶かすスライムと戦った時の話だぁぁぁ。しょうがないじゃん。

 あんなんみちゃうじゃん!! あのおっぱいで聖騎士はむりですよ。なんだか黒歴史を語られているみたいでクッソ恥ずかしんだけど……



「じゃが、わしにとって大事な仲間で信頼できる弟子じゃった。あいつがいたからこそわしはあのパーティーでも浮かなかったし、楽しい旅ができた。何よりも意志が強く、こやつとならば魔王も倒せる……そう思うくらいにな」

「なるほど……強い信頼にむすばれていたんですね、私と師匠みたいに!!」

「ああ、そう思っておったんじゃがな……」



 かつて魔王城のあった方向を見つめるエレナの表情はちょうど影になって見えない。

 だけどさ……それが本当だったら俺を追放何てするなよと思う。ヨーゼフから聞かされた彼女たちの肉声はいまだに時々夢見るくらいだ。



「それでのう、とある事情でファントムがここにいることがわかったんじゃ。別れが急じゃった。どうしても話したくてやってきたんじゃよ。受けてくれるかのう?」



 なぜか泣きそうな顔で弱々しく笑うかつての師に胸がずきりとする。本当に信じていいのだろうか? 全てが演技で王の命令で俺を殺しにきたのかもしれない。

 だけど、彼女の表情は本当に寂しそうで……



「……わかります。大切な人に会いたいって言う気持ち……。私もずっと探していた人がいるんです。師匠この依頼受けてあげましょうよ」



 事情を何も知らないティアが俺の体をゆすり、エレナがじっとこちらを見つめてくる。

 ここはどうすべきか……しばらく考えて、俺は首を縦に振る。



「わかりました。困ったときはお互い様です。受けましょう」

「おお、このお礼は忘れんぞ!! 魔法で困ったことがあったらなんでも言うがいい」


 エレナの表情がパーッと明るくなる。

 喜んでいるところ悪いが、俺は彼女に正体を明かすつもりはないから探し人がみつかることはない。むしろ変なことをされるよりもいいだろうという判断である。そう……決して彼女の顔を見てほだされたわけではないのだ。

 そうして、俺はエレナの俺探しにつきそうになったときだった。



「ちょっと待った!! 大賢者エレナ様の護衛は俺たちに任せてもらおうか! ろくにパーティーも組めないグスタフに、追放されたお新人冒険者には荷が重すぎるぜ!!」


 大きな声の主は20歳くらいの立派な鎧に身を包んだ青年だ。この街のギルド最強のパーティーBランクの『ユグドラシルの枝』のリーダーだった。

 あ、こいつらに押し付けても良いかも……こいつらがエレナの護衛をしてくれるなら助かるなと思っていたのだが……



「何を言っているんですか! あなたたちより、師匠の方が優秀ですし、私の方が可愛いですよ!!」



 売られた喧嘩は買うとばかりにティアが反論して頭をかかえるのだった。



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