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62.夢

 ゴーン、ゴーンと教会の鐘が鳴り響き、民衆たちの歓声があたりに響く。それは魔王を討伐した時のパレードよりも大きい歓声だ。

 それも無理はないだろう。なぜなら、今日はとてもめでたい日なのだから。



「おめでとう、カイン様」

「おめでとう、アンリエッタ様」



 式に参列している国の要人たちから、民衆まで皆が祝福の声をあげてくれるなか僕は白馬の引く馬車に乗って、皆に手を振る。

 そして、その横には美しい花嫁がいた。



「まだ信じられないなぁ……」

「もう、何を言っているのよ。人にプロポーズまでしたくせに……」



 顔を赤らめつつもジト目でにらみつけてくる前世からの推しキャラ……アンリエッタを見て、僕は異世界転生して本当に良かったと思う。

 やりこんだゲームの中に転生した時はどうしたものかと困ったけれど、幸いにも僕はゲームの知識を使いこなし、かませ犬のファントムや、魔王四天王を倒していき、推しキャラであるアンリエッタの恋を育てていったのだ。

 まあ、ゲームの好感度の上がる選択肢をひたすら再現するだけだったから、そんなに難しいことではなかったけどね。


 前世で僕を見下していたクズどもに英雄となった姿をみせたいものだ。



「ふふふ、この世界は……僕の理想の世界だねぇ。これこそ異世界転生の醍醐味だよ」

「どうしたの? いきなり笑いだして」

「いや、何でもないよ。それより……今夜はわかってるよね」

「もう、せっかちなんだから……色々と準備をしてるからゆっくり来てね♡」

「うん……楽しみにしてる」



 馬車が二人の新居につくと、顔を赤らめながら早足で自室へと向かうアンリエッタに思わずうわすった声をあげてしまった。

 そう、結婚式も終わり、僕はついにアンリエッタと結ばれるのだ。これから彼女は身を清めて、初夜の準備を行うのである。



「ふふふ、推しキャラで童貞卒業なんて夢みたいだなぁ」



 セリスやエレナも色目を使ってきたが前世からアンリエッタ一筋の僕は断ってきた。逆にアンリエッタに手を出そうとするやつに徹底的に痛めつけたがそれも純愛である。



「そりゃあ、夢ですもの。当たり前でしょう」

「うん? セリスじゃないか。なんでこんなところにいるんだ?」

「……なるほど……あなたがもっとも恐れているのはセリスという少女なのね。次の実験の参考にさせてもらうわ」

「いったい何を……うわぁ!?」



 セリスが指を鳴らすと、場面が変化していく。先ほどまで風景がひび割れたかと思うと、まわりが変化していく。



「これは……なんだ?」



 そこはアンリエッタの自室だった。ただし、ベッドにいるのは一人ではない。アンリエッタと一人の男が熱い抱擁を交わしながら唇を重ねているのだ。



「アンリエッタ!! 何をやっているんだ? 脅されているんだな? 僕がそいつを殺して……」



 腰にある剣を振りぬこうとするも、なぜか体が動かない。その間にも二人は体を重ねていき、それを見ていると嫌な汗と共に吐き気が襲ってくる。




「ファントム……大好きよ。愛している」

「俺もだよ、アンリエッタ。だけど、カインはいいのか? あいつはお前のことを好きだったみたいだよ」

「カイン……あんなやつ、好きになるわけないでしょう。いやらしい目で見てきて気持ち悪いのよ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 僕のことを語るアンリエッタの瞳にあるのは嫌悪感だと気付き僕は思わず悲鳴を上げてしまう。その間にもファントムは彼女の豊かな胸に触れ、アンリエッタが甘い声を漏らす。

 この場から逃げ出したいのに体が動かない。目をそらしたいのに、目をつむれない。


「これは夢だ。僕は英雄だぞ。主人公になったんだ。アンリエッタと結ばれたんだ……早く目が覚めてくれ」

「ええ、これも夢よ。私は優しいから現実に戻してあげるわね」

「え?」



 セリスの顔をした何かがそうささやくと、僕の中にこれまであったことが思い出される。

 アンリエッタに求愛するもかわされ続けたこと、ヨーゼフに利用されていたこと、アモンという魔族と戦っている最中に体を奪い返されたとこと、そして……今の自分はゴーレムとなってその魂をおもちゃのようにあつかわれていること……



「うわぁぁぁぁぁぁぁ」



 記憶が雪崩のように襲ってきて僕は……



★★★


「危ない、壊れちゃいそうだったわ。強制的に眠らせたけど大丈夫だったかしら?」



 エキドナはびくびくと動いているゴーレムを見つめ楽しそうに嗤う。正直彼女からしたら目の前の魂が善か悪かはどうでもいい。

 ただ禁忌とされている魂への実験が許されているからエレナに協力しているだけである。


「次はどうやって遊ぼうかしら?」


 エキドナはまるでゲームでもするかのように楽しそうにわらうのだった。それは皮肉にもカインに転生した彼がこの世界の住人と接するときと同じ態度だった。

ひどいざまぁである……



新連載の投稿をはじめました。


聖剣を奪われ、偽勇者と追放された俺だけど――それでも世界を救う英雄を目指さなきゃいけない!


主人公ではなかった少年が主人公を目指す物語です。こちらもよろしくお願いいたします。


https://ncode.syosetu.com/n0399km/1/

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