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61.戦いを終えて2

「子種?」


 再び現れたグラシャラボラスの言葉に俺たちが間の抜けた声を上げたのは無理もないだろう。


「ああ、ソロモンより、この地に住む強力な魔物を倒し、人間と魔族の共存に貢献するかわりに自由にしてよいと言われてな、しばらくは放浪の旅をしていたのだが、お前以上の相手には会えなかったのだ」

「……それが、なんで子種をくれにつながるんだ? そもそも俺の子種をもらってどうするんだよ……」

「そんなの決まって……いや、そうか、お前らは勘違いしているな」



 警戒しつつ問うとグラシャラボラスは鎧を脱ぎ始める。鎧を外してあらわになるのは大きな二つの塊……そう、おっぱいである。



「な……」

「えええ? グラシャラボラスって……」

「女性だったのですか?」



 鎧を脱ぎ露わになったのは二メートルくらいの身長で大きな胸の凛々しい女性だった。

 ていうか、でっか!! 身長もだけど、色々でっか!! 何とは言わないがスイカのようなそれを思わず見てしまう。

 よく鎧におさまってましたね……魔族の魔法すごい!!



「いっつ!!」

「なるほど……それで師匠の子種をもらってどうするつもりなのですか? まさか、あなたも師匠に恋を……」



 ティアとセリスに足を踏まれて悲鳴を上げている間にティアがとんでもないことを聞いてきた。

 え、さすがにモテキがきすぎでは……



「いや、恋愛とかはよくわからん。だが、思ったのだ。魔眼を使いこなす人間と最強の魔族である俺の子供ならば必ずや強い戦士になると!! そして、成長したそのこと戦いお互いを高めあう!! 最高ではないか?」

「あ、そういう……」



 なんというかサイヤ人もびっくりな戦闘民族的な思考である。とはいえ、正直、勝手に子供をつくられるのも嫌だし、バトルマシーンになる未来が確定している可哀そうな子供を作りたくないのだけど……



「なるほど、話はわかりました。ただ、ファントム様は人気のある方ですからね、条件を満たさないと、子種を与えることはできないんです」

「ほう……それはなんだ」



 え、なにそれ? 驚いてセリスの方を振り向くと、任せてくださいとばかりにウインクしてくる。



「それはレヴァーテインすらも凌駕する力を持つ魔剣『レパーテイン』を持ってくることです。強力な魔物が守っているそうですが……あなたにみつけることができるでしょうか?」

「なるほど……理解した」

「え、ちょっと……」



 俺が止める間もなく素早く鎧を着るとグラシャラボラスは走っていてしまった。どうするのだろう……

 というかさ……



「呼吸をするように嘘をついたよね……」



 『エクスカリバー』の偽物の『エクスカリパー』みたいな名前だけど絶対ないでしょ。



「なんのことでしょうか? 神の名のもとに、迷える子羊を導いただけですよ」



 にっこりとほほ笑むセリス。ゴールのない地獄みたいな道に導いただけのような気がするが大丈夫だろうか?

 


「なんか疲れちゃいましたね……そろそろ行きましょうか……」

「ああ、そうだね……」



 予想外の遭遇にげんなりとしたティアの言葉に頷く。そうして、俺たちは再び旅立つのだった。





 冒険者ギルドについた俺はアイシャちゃんに挨拶をした後に、昔使っていた宿に泊まる。幸いお金はあるので三人とも別の部屋なのだが……

 当たり前のようにティアがついてきた。



「セリスさんは教会にいってくるそうです。しばらくは戻らないらしいですよ」

「ああ、そうなんだ。なんだかんだ聖女だよね」

「ええ、だから今はふたりっきりですよ、ファントム」



 荷物をほどいていると背中に柔らかい感触と耳元に熱い吐息を感じる。いつもの師匠ではなくファントムという呼び名が示すことは一つだ。



「じゃあ、久々にいちゃつけるね、ティア」

「もう……私が可愛いからって盛りすぎですよ♡」

「ああ、本当に可愛いよ」

「もう、まっすぐ返されるとはずかしくなっちゃうじゃないですか、私で童貞を捨てたくせに!!」



 そういうティアもはじめてだったけどね……顔を真っ赤にしているティアが愛しくなり、正面を向いて唇を重ねると、幸せそうなティアから吐息が漏れる。そして、そのままベッドまで担ぎ上げて俺は彼女をぎゅーっと抱きしめる。

 そして、そのまま愛し合うのだった。



  そう……俺とティアはまあ、そのなんだ……はれて恋人になったのである。



「ねえ、ファントム……私は他に女をつくっても構いませんからね」

「え? どういうこと?」

「今のあなたはSランク冒険者ですし、女性を囲うのは男の甲斐性です。それに……私は可愛いので正妻は確定ですから」



 確かにこの世界では、一夫多妻制も認められいるらしい。貴族や上級冒険者は妻を何人もいるのが当たり前だしね。

 だけど、前世の記憶を持つ俺からしたら抵抗しかない。



「セリスさんも約束の半年が終わったら、本気を出すでしょうし、ファントムは多分ほだされちゃうのはわかってますもん。だから、今だけは独り占めさせてもらいます」

「信用がないなぁ……そんなに俺が浮気性に見える?」

「いえ……でも、あなたは優しい人だから、まっすぐな気持ちを向けられて断るのもつらく思ってしまうでしょう? だから、気にしなくていいんだよって言いたいんです。まあ、百人とか恋人を作ったらさすがに怒りますけど……」

「大丈夫だって……ティアが嫌がることはしないよ」


 

 100カノみたいなことを言い出したな!!

 だけど、本当にこの子は俺のことをよくみているんだなぁとさらに愛おしくなる。そして、ティアをもう一度抱き合うのだった。

 追放された時はどうなるかとおもったけど、俺は今幸せだ。ちなみに晩御飯には笑顔だけど目が一切笑っていないセリスに『さきほどはお楽しみでしたね』と五分に一度は言われ、アイシャちゃんからかわれたのはここだけの話である。



★★


ここはとあるエルフの里にある執務室である。



「うう……なんでわしだけ、ファントムと離れ離れなんじゃ……」

「しょうがないでしょう。あなたがエルフの使者としての仕事を放棄していたんですもの。これくらいの罰ですんだことを感謝しなさい」



 エレナの隣にいるのは彼女を少し大人にしたような美女である。エレナの姉であり、彼女と同様に天才的な魔法の才能を持つ人物でエキドナという。



「そのかわりあなたが研究していた転生魔法を作るのを手伝ってあげているでしょう。あなたがもってきたアレがあれば研究はもっとはかどるわ。種族すらも変えられるかもしれないのよ」



 にこりと笑う彼女がアレと呼んでいるのは、エレナがカインの中から奪った転生者とやらの魂である。

 魔剣を使い摩耗していた魂を放置してはまずいと適当なゴーレムに乗りうつし、エルフの里に持って帰ったのだが……

 いまではエキドナのおもちゃである。



「異世界から来た魂……ふふ、思ったよりも強力でどんなつらい思いをさせても、どんなひどい目にあわせても、壊れないわ。素敵ね」



 エキドナのうっとりと……本当に嬉しそうに微笑む姿がまるで恋する乙女のようだが、やっていることはエグイ。

 魂の研究の為、つらい記憶を味合わせて魂がどうなるのかと色々と実験をしているのだろう。おそらく死んだ方がましだろうが、肉体がないため死ぬこともできないのだ。

 エレナと同等の力がありながらエキドナが英雄に選ばれなかったのは単純に性格が終わっているからである。



 まあ、カインの体を奪って好き勝手やってたんじゃ……いい気味じゃな。



 いまごろやつは手足を契られる拷問や、好きな女を目の前で抱かれる幻覚などを見せられているだろう。

 エレナも仲間には甘いが基本的には異種族であり、他人に関しては厳しい所があり、すぐに興味をうしなった。



「はやく、ファントムに会いたいのう……」

「ふふ、恋する乙女ね、私もファントムって子に会ってもいいかしら」

「だめじゃ!! これ以上ライバルをふやしてたまるか」



 そうして、彼女は半年に一度だけ会える会議を楽しみに今日も転生の実験を続けるのだった。



★★


「痛い……痛い……くそ……私が……なんで……」



 武闘派である魔族の拠点に一人突っ込まれさせられたオセはさっそく魔族たちに両手両足を斬られた状態で縄に縛られていた。

 食事もろくに与えられず、サンドバックとなっているのである。


 今のオセには戦う力はない。魔力もほぼなく魔法の一つも使えないのだ。普通ならば心が折れていようものなのだが……



 ソロモンめ……私の命をうばわなかったことを後悔するがいい。必ずやここから抜け出して……



 痛みに耐えながらも復讐心に身を焦がしていた時だった。足音が聞こえてきてまた暴力をふるわれるのかとびくりと身を固めると聞こえてきたのは優しい声だった。



「シトリー……なのか?」

「はい、オセ四天王がひとりシトリーです。人間界での戦いには間に合わず申し訳ありません」



 鳥のような翼をもつ美しい少女の悪魔である。どろりと濁った瞳の魔族だが、魔界にいたときからの付き合いで腕は確かな上に千里眼という能力を持ち何でも言うことを聞くので四天王に誘っていたのだ。



「ああ、気にしないでくれ。ファントムとかいう人間のせいで失敗には終わったがお前さえいれば……」

「知ってますよ……ずっと見ていましたから」

「え?」


 にこりと笑うシトリーの瞳のハイライトが消えていることに気づく。



「私は寂しかったんですよ……あなたが人間界にいってしまって……なのに、あなたはずっと人間たちを楽しそうに誘導していましたね。魔王を殺せるように情報を操作し、カインとかいう男の甘言にのりずいぶんと活き活きとしていましたよね? 他の人の事ばっかり考えて私の事はろくに思い出しもしませんでしたよね? 幼馴染なのに……」

「え……いや……それは……」



 オセの全身に冷や汗が流れる。まずい、まずい、これはまずい。本能が危険だと訴えている。ソロモンなどよりもずっと危険だと……



「でも、大丈夫です。魔力もなく手足もなくなったあなたならばもうずっと私の事を見てくれるでしょう? では行きましょう」

「ちょっとまて……んん!!」

「うふふ、まるで新婚みたいですね。楽しみです」


 無理やり口をふさぐとシトリーは鼻歌をうたいながらオセの口をふさぐと担いで歩き出す。

 薄れゆく意識の中空を飛ぶ鳥を見たオセは思い出す。



 ああ、そうだ……私は力ばかりの魔界が嫌で知恵で成り上がれる人間界を気に入ったんだった……その知識を使ってソロモンと手を組んでいれば……



 後悔と共に意識は薄れゆく。


 その後オセとシトリーをみたものはいなかった。 

これにて本編終了です。


いかがだったでしょうか? 


一週間に一度くらいの頻度で番外編などをかいていこうと思うので読みたい話があったらおしえてくれると嬉しいです。



 この作品は幼馴染をみんなないがしろにしすぎじゃない? って感じから始まった物語です。

 私がかいているラブコメをみてもらえるとわかるのですが、実は私は幼馴染萌えでして、すれ違いがあっても強い絆で幼馴染は結ばれているはずだという妄想があります。

 アンリエッタとファントムにはつらい思いをしてもらいつつも幼馴染としての絆があれば仲直りできる……というのがコンセプトだったんですが……


 書き始めるとティアやセリスが思った以上に動き、ちょっと想像と違う感じの終わりにはなりました。

 

 

 ファントムとティア、セリスたちの旅はまだまだ続くでしょう。

 

 セリスの誘惑に負けるのか、グラシャラボラスに性的な意味で襲われてしまうのか、アンリエッタともよりを戻すのか、エレナは皆が死んだ後にファントムを転生させて光源氏計画をするのか、カインとソロモンはむすばれるのか、読者さんたちの想像に任せる形になってしまうのですが、本編はこれにて終了となります。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。



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