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60.戦いを終えて1

オセとの戦いから一年の月日がたった。あの騒動はヨーゼフに化けた魔族による策略だったということで、正気に戻ったカインと、貴族であり魔王殺しの英雄であるアンリエッタが主導となって、混乱を収めたおかげでそこまで大きな騒動にはならないですんだ。

 そして、俺は今、ペイル領で定期的に行われている会議に参加していた。議題はもちろん……



「それでは、月の一度の魔族と人間の交流会を始めようか? アンジェちゃん、進行を頼めるかな?」

「はい、お任せください。カイン様!! それでは魔族の移住に関して……」



 少し緊張した様子のアンジェを見守りながら、部屋を見回す。メンバーは国の偉そうな大臣が数人と、軽薄な笑みを浮かべているカインに、威厳たっぷりの空気を纏っているソロモン、その横で窮屈そうな顔をしているアモン、そして、アンジェを見守るように見つめているアンリエッタだ。


 オセの討伐のきっかけが新たな魔王であり、王位継承権一位のカインの先導により魔族と同盟を組むことになり、相互の理解をするために色々な取り組みが行われている。

 そして、試験的に人間と魔族がともに暮らす領地としてペイル領が選ばれたのである。理由はアンジェとソロモンの仲が良いこと、そして、万が一何かあったときはアンリエッタが魔族と戦い抑止力となることができるためである。

 今更戦争はおきないだろうが、安全だとアピールしないと 民衆は納得しないからね。幸い商売の匂いを嗅ぎつけてきた商人たちが商会をつくりはじめたため、税収もあがっているらしい。



「以上となります。皆さまありがとうございました」

「流石です、アンジェかっこよかったですよ!!」



 アンジェが報告を終えると、ソロモンが嬉しそうにパチパチと拍手をして、まわりもつれられてまばらな拍手が響く。

 まあ、人間の貴族としてはありえないが……ソロモンをよく知らない大臣たちを見ると微笑ましいものを見るように見つめているのが分かった。


 前の魔王のせいで残虐なイメージがついた魔族だったが、現魔王の可愛らしい感じで印象が変わっていくのが見える。

 これが作戦だったら末恐ろしいけど……隣で頭を抱えているアモンをみるかぎりそれはなさそうだ。


「さて、ソロモン嬢よ、堅苦しい会議も終わったし、僕とカフェでお茶でもしないかい?」

「お茶ですか……読みたい本があるのでもうしわけありませんが……」

「なんと今ならば限定のアップルパイがあるらしいよ」



 やんわりと断ろうとしたソロモンだったがカインの続いた言葉に目をかがやかせる。



「なるほど……人の文化を知るのも魔王の仕事です。いきましょう。アモン、準備を!! アップルパイが逃げてしまいます」

「え、俺はそろそろ冒険者を……うおおお、影でひっぱるなよ。お嬢!!」



 カインの誘いに乗ったソロモンが嫌がるアモンを引きづりながらついていく。あいつの恋もまだまだ実らなそうである。

 アモンは……本気をだせば影をひきちぎれるだろうについていっているからなんだかんだソロモンが心配なのだろう。



「じゃあ、お兄ちゃん。私たちもお話ししよっか。もちろん、アンリエッタ姉さまもだよ!!」

「ああ、わかったよ」

「お邪魔するわね……」



 そして、こっちはこっちで月一の報告会だ。俺が冒険者としての活躍をアンジェにはなし、彼女は領地で起きたことを色々と話す。

 アンリエッタがいるのは……アンジェのお願いだが、今はもうきまずさは感じていない。


「お久しぶりです、ファントム様。今日のために新鮮なリンゴを用意しているのでお楽しみください」

『待っていましたよ、アンリエッタ。会議は退屈だったでしょう。恋バナでもしましょう。恋バナ』



 美味しそうに向かれた果物と、紅茶が並べられた家族用の食堂で待っていたのはステラと、アンリエッタの部下のドットーレというゴーレムだ。なんでもオセに良いように利用されていたのでエレナが命令を消してアンリエッタが引き取ったらしい。かつての英雄ロキの作ったゴーレムらしいが、モブにしては色々と設定ありすぎない? 次回作では本来メインキャラだったのかもしれない。

 それはいいんだけど……



『聞いてください、ファントム様。アンリエッタ様はまた、婚約話をけったんですよ。今は領地が安定しているのでお相手は冒険者でも問題ないと思われます。ね』

「ぶふぅ」

「ドットーレ!! そういう話はやめてっていったでしょ!!」



 こうして、くっつけようとしてくるのである。かつてほどの気まずさはなくなったもののまだそういう風には考えられないので勘弁してほしい。



「ごめんなさいね……ファントム」

「いや、こっちこそなんかごめん……」

「でも……私は待ってるから。もしも、少しでもその気になったら教えてね。別に四番でもいいから」



 顔を真っ赤にしながら上目づかいにしてくるアンリエッタには俺はどうこたえていいかわからなくなる。

 まわりは……ワクワクとした感じでこちらを見つめているアンジェとなんか内蔵されているラッパをふくドットーレ。無表情に淡々と紅茶を淹れているステラがいるだけで助けてはくれない。

 だけどまあ、悪くない時間だと思えるようにはなったものだ。



 屋敷で一泊した俺は街で待っている仲間と合流する。



「あ、師匠、おはようございます。会議はどうでした?」

「ああ、特に問題はなかった……うおおお?」

「ちょっと失礼しますね」



 出会い頭にセリスがいきなり、人の首元の匂いを嗅いでくるものだから変な声がでてしまった。



「なにやってるの……?」

「ふむ……アンリエッタさんの匂いはしませんね。よかった。なんだかんだで絆されかなと心配していたんです」

「いや、彼女とは何ともないよ……」


 みんなで食事をとったときのことを思い出して少し言いよどむと左右の腕を柔らかい感触が包む。

 ティアとセリスのおっぱいサンドである。



「そろそろいきましょうか、アイシャさんが『依頼がたまってるわよー』って嘆いてますよ」

「そうですね、神は言っています。はやく元カノの元を離れて聖女と結ばれよと」



 こうして嫉妬されるのも悪くはないものだ。などとにやりと思うながら街を出ようとした時だった。

 見覚えのある鎧姿に出会ってしまった。とっさに、俺たちは戦闘態勢に入る。



「ようやく見つけたぞ、強き人間よ」



 漆黒の鎧に身にまとった魔族……グラシャラボラス。オセは魔界で地獄のような罰をうけているのになんでここに……とか、何とかティアたちと力をあわせて勝たねば……とか思っていた時だった。やつが口にした言葉に俺は耳を疑った。



「人間よ、俺に子種をくれ」

「「「は?」」」



 間の抜けた声が俺たち三人から漏れたのだった。


あと一話で一応完結予定です。


よろしくお願いします

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