59.変わった二人の関係
「ソロモンさんいったい何を!? 師匠とアンリエッタさんをどこにやったのですか?」
「ソロモン……ファントム様やアンリエッタさんに怪我をさせたらただではおきませんよ」
突如牙をむいたソロモンにティアとセリスが喰いかかる中、ともに行動していたエレナは冷静に問いただす。
「お主……アンジェにあの二人で話す機会を作るようにたのまれておったんじゃろ」
「……流石は『最賢のエレナ』です。バレバレでしたか。ファントムさんやアンリエッタさんが逃げないようにと私の影の中に閉じ込めさせていただきました。ご安心ください。ファントムさんの部屋の私物に囲まれているので、きっとリフレッシュして色々とお話できるはずです」
「おお、よくわからないけど、やっぱり魔族ってすごいねーー」
まるで良いことをしたとばかりにどや顔のソロモンにカインが軽薄そうな声をあげる。
ティアとセリスは複雑そうな顔をしつつも頷いた。
「まあ、ファントム様が私と結ばれるのは神の導きであり必然ですし、アンリエッタさんと話し合うのは必要だと思っていましたいい機会でしょう」
「師匠たちは無事なんですよね? お食事とかもあるんですか?」
「もちろんです。ペイル領のリンゴや果実水、それにベッドもありますよ。そう……これがアンジェの家で読んだ『セックスしないと出れない部屋』ってやつです」
「「「はぁぁぁぁぁぁーーーーー!?」」」
安心しそうになったティア、セリス、エレナだったが、続くソロモンの言葉に思わず叫び声をあげた。
「一体どうしたのですか?」
「ソロモンよ……その……セックスというのはどういう意味か知っておるのか?」
「はい、男女が仲良くすることだとアモンに習いましたが……セックスをすればファントムさんもアンリエッタさんも仲良しになるので問題解決でしょう」
キョトンとしたソロモンにファントムに恋する三人は阿鼻叫喚である。
「アモンのバカぁぁぁぁ!!」
「ソロモンさん! いいから私もそのかげにいれてください。ファントム様の貞操は私がもらいます」
「魔族の教育はどうなっておるんじゃ……」
「ははは、魔王って本当におもしろいなぁ」
三者三様に言葉を発するのを見てカインは腹を抱えて笑っているのだった。
★★
「「……」」
俺の自室の様な空間でアンリエッタと共の間には沈黙が支配していた。
いや、むっちゃきまずいんだけど!! そりゃあ、この戦いが終わったら話してみようとは思っていたよ。だけど、こんなん無理やり過ぎない? 何を考えているんだソロモンは!!
「ファントム……ごめんなさい……」
「え?」
「ずっとあの謝りたかったの……あなたではなく領地を選んだことを……」
アンリエッタが真正面からこちらを見て頭を下げる。久々にちゃんと見る元婚約者の顔は非常に憔悴しており、今にも泣きだしそうな子どものように見えた。
その顔は俺に昔領地がうしなわれてしまうかもという事を相談してきた顔を重なって見えて……
「立ちっぱなしじゃつらいでしょ。とりあえず座って、あの日何があったかを話してくれるかな?」
「ええ……私の主観が混じっちゃうけど聞いてくれるかしら?」
恐る恐るといった感じでベットの端にすわるアンリエッタから語られた話は聞けば聞くほど胸糞が悪くなる話だった。カインに乗り移った転生者とオセには激しい怒りを覚える。
あいつら……アンリエッタの弱点をピンポイントでつきやがったな。
アンリエッタは自分の領地の復興のために魔王と戦うことを決意したのだ。それを盾にされてはどうしょうもないだろう。
いや、本音は相談してくれよとか……俺も音声を聞いただけで絶望しないでちゃんと確認すればよかったとか反省はあるけど……
「でも、私があなたよりも領地を取ったことは事実よ。あなたがつらい思いをするってわかっていたのに私は……」
「そうだね……だけど、貴族としてはそれが正しいと思う。だって、アンリエッタの夢は領地を発展させて皆をしあわせにすることだっていってたしね」
「……覚えてくれてたんだ」
懐かしい思い出に自然と俺とアンリエッタの表情に笑みが浮かび俺たちのきょりも物理的にも縮む。ああそういえば、俺の部屋のベッドにすわりながら、昔よく夢を語り合ったものだ。
エルフと聖女のハーレムを作るとか言ったらむっちゃ不機嫌になってったっけ……
かつてと同じようにベッドにすわり向かい合うとあの頃の気持ちがもどってくるような気がした。
だけど……このベットも丁寧に手入れこそされているもの古くなっており、俺の胸元にはティアからもらったネックレスがある。
「……俺は追放されてから色々なところに行って、たくさんの人に会ってさ、色々な経験をしたんだ。そこで大切な人も増えたんだ。それに……俺はもう領主になる気はない。ペイル領はアンジェがおさめてくれるし冒険者として色々な人を助けていこうと思うんだ」
領主でできることがあるように冒険者だからこそ助けられる人やものがあることを知った。旅をしてないければ追放されたティアを救うことはできなかったし、薬草が足りなくて困っている人を助けたりもできなかった。
ペイル領は今はアンジェがきっちりと治めているのは実際にいってみてわかった。無責任かもしれないが、いきなり領主が変わるよりも絶対良いだろう。
カイルが正気に戻った今、ちゃんとした後ろ盾になってくれるだろうし、かえって後継者問題の火種になりかねない。
「だから、俺を昔のようにアンリエッタを貴族としてサポートすることはできない。そりゃあ困ったときに助けたりはするけど、俺にはほかにも守りたい人も増えたんだ。それに、今のアンリエッタなら大丈夫だとおもうから」
「そう……わかったわ」
俺にはこれからやらねばならないことがたくさんある。ソロモンとカインとの話し合いや、今回の件で色々と起きた問題の解決は身分のない俺ができることはたくさんあると思う。
だから、もう、かつてのようにアンリエッタだけを支えることはできないのだ。
「それでも……それでもあなたのことを好きでいてもいいかしら?」
「それは……」
こちらの返事をする前に彼女がぎゅーっと抱きしめてくる。甲冑越しで堅かったけれど、久々に感じるアンリエッタの暖かさと甘い匂いは懐かしかった。
だけど、かつてとは違う俺の中にはほかの少女の顔も浮かぶ。
「……気になっている人もいるんだ。受け入れられるかはわからないよ」
「わかってるわ。でも……勝手に待っているくらいならいいでしょう? あなたが生きているっていうだけで私は幸せなんですもの」
泣きそうになりながらほほ笑むアンリエッタに俺はどんな言葉をかければよいのだろうか?
「ありがとう……気持ちは受け取っておく」
「ええ、それだけ十分よ」
俺の胸元から顔を離した彼女が微笑む。その時だった。禍々しい聖なる力が影を押しつぶしていき、ひびが入っていく。
「え、何これ怖い」
「大丈夫!! あなたは私が守るわ!!」
ばっと離れつつ戦闘態勢に入るとぱーっと世界がかがやく。
「ふふ、魔王の力だろうが神の奇跡の前には無意味なんですよ」
「そんな……完全なる魔王である私の魔法がたった一人の聖女に……?」
最初に視界に入ったのは肩で息をしているセリスと、呆然としているソロモンだった。
どうやら元の世界に戻ってきたようだ。
「おかえりなさい、師匠。こんどこそ終わったんですね」
「ああ、そうだね。しばらくは忙しくなりそうだ」
アンリエッタとも色々と話せてほっと一息ついているとティアが微笑む。オセは倒した。これからは人間と魔族の共存がはじまるだろう。
だけど、人も魔族もいきなりは変われないのだから……
「なんだかわからないけど色々と大変だったみたいだね」
カインが軽い感じで聞いてくる。そういえばこいつも色々と大変だったんだよね。
「カイン……お前の中にもう一つの魂があるはずなんだけど、大丈夫なの?」
「うん? ああ、なんか違和感はあるけど、あとでエレナが今度適当なゴーレムに乗りうつさせるってさ」
魔法って本当に便利である。転生者にはせいぜい苦しんでもらおう。
「そんなことよりもさ、ソロモンちゃんって面白い女の子だよね、彼氏っているのかな?」
「は?」
ちょっと恥ずかしそうに聞いてくるカインに思わず間の抜けた声をあげてしまう。
王族だからだろうか、おもしれー女がすきなんだろうか。でも……人間と魔族の共存に近づいたきがした。
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