57.オセの力
「アンリエッタは防御を!! エレナとソロモンは遠慮なく魔法をうってくれ。セリスはあれを頼む!! ティアは俺と共に隙を見計らって攻めるぞ!!」
大きな声を張り上げると、昔に戻ったかのようにスムーズに連携を取り始める。そしてティアやソロモンもまた俺の指示に疑問を抱かずに従ってくれるのが本当にありがたい。
「今の私に魔法だと!? 何を考えているかはわからんが死ぬがいい!!」
「させない!! 今度こそ……守って見せる!!」
身体能力のあがったオセが己の右腕を大剣に変化させて斬りかかるもアンリエッタの聖なる結界がそれを受け止める。
すさまじい音ともにビシビシと結界がひび割れるが、オセの大剣もじゅーっと焼けるようなにおいと共に煙が立つ。
破邪にふれたことによってダメージをうけているのだ。
「いいのか、アンリエッタよ。そのままではどうせ貴様はファントムとは一緒にはなれん。私に力を貸せば……」
「うるさい!! そんなことはわかっているのよ!! 今よ、エレナ!!」
結界が爆発するようにはじけた瞬間だった。エレナの炎と、ソロモンの影がオセを襲う。
だが、待っていたかとばかりにオセは目を見開き……
「ふん、私がパンクするのを狙っているのか? 人間のような脆弱な存在といっしょにするな!! うごわぁぁ!?」
「愚かね。魔法に神の加護を混ぜておいたのに気づかなかったのね。あなたを強化するわけないじゃない」
魔力を喰らおうとして、織り交ぜられた聖なる力までも喰らい苦しみの声を上げるオセをセリスが煽る。
そしてその隙に俺とティアで斬りかかる。
「悪いけど、魔眼との戦いで負けるわけにはいかないんだよ」
「師匠を苦しめたお返しです。せいぜい苦しんでください!!」
「ちぃぃぃぃ。なぜた。なぜ即座にわが力に対応できる!?」
オセが全身を金属に変えるも、セリスの加護の宿った俺とティアの武器が当たるとオセの体が焼け焦げていく。
こいつも驚いているがもちろん即席ではない。俺は本来だったら王都のパレードが終わったら魔界のグラシャラボラスを倒しに行く予定だったのだ。
これはその時の作戦を実行しているだけにすぎない……しかもだ。
「お前はグラシャラボラスよりも魔眼も!! 体の動かし方も!! 何よりも速さが足りない!!」
「なめるな!! 私には奴にはないこの魔法がある!! 魔族に逆らってただですむとおもうなよ!!」
オセが己の指を金属製の枝のようにして伸ばすが、そのうちの三本を剣で受け流して、残りの二本を紙一重でかわしつつも接近していく。
ほほをかすめて血がまき散るが気にもならなかった。
「曲芸はサーカスでやってくれよっと!!」
「貴様はかわせてもその小娘はどうかな?」
卑怯者であるオセのいうことの意味は分かっていた。だけど、振り返らない。なぜならば俺は一人ではないからだ。
「人間に興味があるんだよね? だったら人間の可能性を見せてあげるよ」
「くそがぁぁぁ!!」
俺の刺突が奴の右目をかすめて血がまき散っていく。直撃は逃したが次で仕留めると再度剣を振りかぶったのだが……
「うおおおお!?」
「ファントム様!! 浄化!!」
オセの体が爆ぜたかと思うと、その体の一部がスライムと化して俺を包んできたのだ。
全身にやけどのような痛みに襲われそうになるも聖なる光が俺を癒してくれる。だが、その間にもオセは無様にも背中を見せて逃げ出してく。
「あの人あんだけかっこいいこと言って背中を向けて全力疾走とか恥も外聞もなんですか!! あんなの可愛くないです」
「まあ、オセは元々真っ向な戦いは苦手ですからね。分不相応な力を得たので昂ってしまったのでしょう。その気持ちはわかります……」
「のんきに言っておる場合か!! 奴は姿をかえられる!! 逃げられたら厄介じゃぞ!!」
ティアとソロモンに突っ込んでいるエレナの言う通りここで逃がしてまた誰かに変装されたら厄介なことになる。
俺とセリス……そして、アンリエッタの身体能力が高い組が走って追いかける。
「私とセリスが結界であいつの逃げ道を限定するわ!! ファントムは追いかけて!!」
「ああ、任せろ!!」
「私が言いたかったのに……ひどいです……」
戦っているからか自然と会話ができたことに少し驚きながら、オセを追いかける。やつはその身を蝙蝠へと変化させて飛ぼうとしたが空中に現れた結界に叩き落される。
あははは、ざまぁ!!
「この逃げっぷり、鬼舞辻無惨かよ!!」
「よくわかりませんがひたすら逃げる姿は無残というより無様ですね」
セリスが隣で毒を吐いている。こんなこと言う子だっけ……と思った時だった。オセの前に人影が見える。
兵士や使用人は全員避難させたはずじゃ……あれはまさか……
「おお、カイン様!! お助けください。ファントムのやつが私を逆恨みしているのです!!」
「うん……? なるほど……そういうことか」
ここにあいつがいるということはアモンは……? と嫌な予感がよぎった時だった。
カインが軽薄な笑みを浮かべて構えた武器は先ほどの魔剣ではなく鋼の剣が握られているのにきづく。そして……
「な、カイン様、何を?」
オセの右腕が斬られて飛んでいき血しぶきがあがるのが見えた。
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