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53.オセの目的

 ヨーゼフの……いや、オセの瞳に爛々と輝く魔眼には嫌というほど見覚えがあった。俺の持つ力であり……グラシャラボラスの持つ魔眼である。

 俺の剣を受け止めているやつの手を蹴りとばし、ひるんだすきに距離を取るもやたらと余裕ぶっているヨーゼフをにらみつける。



「その力……グラシャラボラスからもらったのか」

「ああ、 そうだ。魔王の力を奪っているとはいえ、グラシャラボラスがこの世界にいるだけの魔力は供給できなかったからな。やつの力を一部うけとられてもらったのだよ。そのおかげで今の私はかつてないほどの力がみなぎっているぞ。貴様以上の魔眼をもち、ソロモン以上の圧倒的な魔力をもったのだ」



 姿こそ変わらぬものの、その前身からはすさまじいまでの魔力を感じる。だけど不思議と恐怖は感じない。それもそのはずだ。



「お前はカインを乗っ取った転生者と同じだ。人の力を借りて我が物顔しているだけだよ。そんなやつに俺たちは負けはしない!!」

「そうです。師匠はすごいんです!! 師匠は魔眼を持っているから強いんじゃないんです。使いこなしているんから強いんですよ」




 俺とティアが斬りかかると、事前に貯めておいたのか、すさまじい身体能力で反応すると、俺たちの言葉ににやりと笑い攻撃を受けた反動を利用し、宙に浮いたかと思うと翼を生やして空を飛ぶ。

 空飛ぶおっさんである。ちょっときもいな……



「ああ、そうだな。お前ら人間は本当にすごいよ」

「なんだ、今更褒めて命乞いか?」



 警戒しながらにらみつけると扉のほうに着地して翼を消したヨーゼフは首をよこにふる。



「違う……本当に尊敬しているのだよ。脆弱な存在でありながら魔王を倒すだけの力を手に入れるだけの強さを持つものがいる。ファントムよ、それだけの強さを得るのにどれだけの努力をした? 貴様だけではない。王子でありながら、その境遇に甘えずに鍛錬を繰り返し英雄と呼ばれたカイン。本来は戦を好まぬ性格でありながら、大切な人を守るために戦への恐怖に打ち勝ったアンリエッタ。己の心を完全に殺し、理想の聖女として神から力を授かったセリス。お前ら人間は私たち魔族に著しく欠けている成長する力を持っている。私は長年人間の中で育ちそんなお前らに興味を持ったのだ。考えてみても欲しい。私が本気を出せばこの国の政治を崩壊させることもできたのだぞ。」




 いきなり意味不明なことを言い出したヨーゼフに俺は怪訝な顔で聞き返す。確かに俺の知っている限りヨーゼフはかなりの長い間大臣をやっている。

 いつすり替わったのかは知らないが、彼が本気を出せば魔王を討伐しようとしていた俺たちへの援助だってやめさせることができたはずだ。

 



「だから何だって言うんだ。お前が大臣として国を大人しく治めているのは俺たち人間のように生きたいからだとでもいうのか?」

「ふふ、そうだ……私はお前ら人間の輝きにあこがれた。そして、お前ら人間がどうなっていくかをみたかったのだ。ソロモンがちょっかいをかけなければ私はおとなしく大臣として職務を全うするつもりだったのだよ」



 淡々と語られるオセの言葉だが、一つ納得できないものがある。



「じゃあ、なんで俺を追放したんだ? 俺だってお前の言う人間の一人だろう」

「決まっているだろう。魔王の恐怖がある魔眼という力を持っている人間がいたらどうなる? 私が手を下さなくても、どのみち誰かが動いていただろうさ。だからせめてもの情けで金もやったであろう?」

「だったら、影を使って暗殺しようとしたことはどう説明するんだ?」

「影だと……私は知らんぞ。カイン王子の独断ではないのか?」

「なっ」



 確かにオセの言葉には一理あるような気もしないでもない。こいつは本当に王国のために俺を追放したって言うのか?

 そんな風に頭がよぎった時だった。ティアが一歩踏み出す。そしてその表情には強い怒りがこもっているのを感じた。



「だから何なんですか!! あなたは支配者でもなったつもりですか!! 師匠は魔眼を持っていますが一生懸命みんなのために頑張ってきたんですよ。迫害されるかもしれない? 民が不安に思う? だったら、そうさせないようにあなたがた権力をもっているものが協力すればよかったんじゃないですか!! 逆に魔眼をもっていようが迫害されない世界だってつくれたはずなんですよ!! そうすればソロモンちゃんだって、あなたと敵対をすることはなかったでしょう。あなたはあくまで私たち人間を物語の登場人物のように見ているだけです。そんな人にこの国をまかせられるはずがないでしょう!!」



 ティアの『魔眼を持っていようが迫害されない世界』という言葉にはっとする。ああ、そうだよ。俺はそんな世界のために頑張っていたのだ。

 オセが支配する世界では、邪魔になったら迫害されるか放置されるのだろう。ならばそんなものは認められない。

 俺たちが魔王を倒したのはそんなしょうもない世界のためではないのだ。



「お前の国にはお前の気に入らないものは存在できないんだろ? それに何を変えようとする意志すらない。だったらそんなのは認められないな。魔族だからじゃない。お前だからこそ認められないんだよ。国を作るのは傍観者じゃだめなんだよ!!」

「ふむ、そうか……どのみち共感を得るつもりはないよ」



 オセがにやりと笑うと足跡が響いてくる。こいつ……ずっと時間を稼いでいたのか。



「増援ですか?」

「違うな。彼らは囮だよ。人間に甘いお前に守るものが増えたがどうなるかな? 弱者を守りながらこの私とまともに戦えるかな?」



 その言葉が終わると同時に俺たち……オセもまた驚きの声をあげる。なぜならばやってきたのは兵士ではなく、エレナとセリス、ソロモン、そしてアンリエッタだったからだ。



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