49.VSグラシャラボラス
「アモン、あいつと戦ったことはあるのか?」
「ああ、もちろんだ。99戦99敗だぜぇ。身体能力は高いし、魔法も通じねえ……そういやお前と同じ眼をもっていやがるなぁ」
「はは、まあ、俺の眼はあいつと関係しているからな」
「あ?」
何を言っているんだとばかりにアモンが見てくるが、説明している時間はない。ゆっくりと歩いてくるグラシャラボラスを睨みつける。
戦うのはいいけどその前に確認しなければいけないことがある。
「グラシャラボラス……お前はその強力すぎる力ゆえに、魔王が供給する力では足りずに魔界から出ることができないはずだ。なんでここにいる?」
「ほう……詳しいな。なに、簡単なことだ。目的のためにオセに力を一部譲渡してやったのだ。そのおかげで不完全だが、地上を楽しめるというわけだ」
俺の疑問に楽しそうに答えるグラシャラボラス。
目的とは何だろう? まるで見定めるかのようにグラシャラボラスが俺を下から上まで眺めているのがわかる。
まさか……こいつの目的は俺が関係しているのか?
「んなことはどうでもいいんだよ!! グラシャラボラスの旦那よぉ。お嬢たちをあえて追い詰めてたよなぁ。いったい何を考えてるんだよ。あんたは戦うこと以外には興味ねえはずだろ!!」
確かに俺と同じ魔眼を持つこいつならばソロモンの魔法は通じないし、身体能力でもステラをはるかに凌駕している。たかが馬車に乗っているだけで逃げ切れるはずもないのだ。
それに二人はぼろぼろだった。あえて泳がされていたのだろう。そして、本来悪手だとわかっていても俺に頼らなければいけないほど追い詰められたのだ。
常にいつ襲われるかという状況ではまともに休めないからね。
「そんなのは決まっているだろう。俺は強い奴と戦いたいのだ。魔王ゲーティアを倒した戦士たちと戦えると聞いていたのだが、いざ蓋を開けてみれば、未熟な魔王と脆弱な女一人。ゆえに、彼女たちには強力な戦士を呼んでもらったのだ」
「それが俺ってことか……」
フードを脱いだグラシャラボラスは全身を漆黒の鎧に身を包み、大剣を持ちくぐもった声で言う。
その楽しそうな口調から鎧の中では笑っているのかもしれない。
その歴戦の戦士とでもいう外見と解き放たれるプレッシャーに気おされそうになるが、逃げるわけにはいかない。
何よりも俺たちを呼び寄せるという目的の為だけに彼女たちを傷つけたのだから。許せるはずがないだろう。
「なら、よかったな。俺がその魔王殺しの英雄だよ!!」
「ああ、本当によかった。運命とは実におもしろい。俺の力を与えた人間の子孫が強くなったのだからな!!」
「そうか。この魔眼はやっぱりあんた由来のものだったのか。お礼だ、受け取ってくれ!!」
魔力で強化された体で斬りかかるもあっさりと受け流される。グラシャラボラスの言葉は衝撃……ではなかった。
そもそもペイル領の初代領主は神隠しから戻ったときに魔眼という不思議なスキルを持っていたという。
だからこそ、ゲームのファントムは自分を先祖の力を引き継いだ特別な人間だと増長したのだし、前世のネット上でも同じ魔眼を持つグラシャラボラスとファントムは何か関係があるのでは? と言われていたのである。
「俺を忘れるんじゃねえよ!! お嬢の仇だ、死ね!!」
「いや、さすがの俺も魔王を殺すなどという不敬な真似はしていないが……」
「ぐぇええ」
アモンも隙をついて殴りかかるもあっさりかわされ腹を蹴られると吹き飛ばされていく。思った以上に強い……
だけど、こいつは一応最強装備にレベルを上限まであげればカインたちの四人でも倒せるのだ。絶対に勝てないわけではない。
剣をふるうも一向に隙が見えない。
「そんなものか? どれ。もっと強くしてやろう」
「くっそ!!」
グラシャラボラスに放たれる死線を魔眼で喰らうも体全体が悲鳴を上げている。魔眼の吸収力の上限はわからないが、人間に過ぎない俺の身体能力には限界があるのだ。
少し体を動かすだけでも全身に激痛が走る。
「ふむ……がっかりだな……わが力を得ても所詮は人間か。なら、他の英雄どもを殺すか。まとめて戦えばもっと楽しめるだろう」
その言葉に傷つけられたエレナとセリス……あとはアンリエッタとカインの顔が浮かび、己のこころを怒りが支配するのが分かる。
「ふざけるな……これ以上俺の仲間を傷つけさせてたまるか!!」
「ほう……ゴブリンも追い詰めればドラゴンを殴ると聞くがこういうことか!!」
全身の悲鳴を無視しながらも斬りかかると今度の一撃はグラシャラボラスは受け流すことができなかったのか、ようやく剣と剣がぶつかり合う。
これならいける!!
「うおおおおおお!!」
「ふはははは、やるじゃないか!! この俺も三百年ぶりに本気で戦えそうだ!!」
楽しそうに笑うグラシャラボラスだが、こちらは剣を振っているだけで満身創痍だ。しかも、こいつは身体能力が高いだけではない。
強さをひたすら求めていたのだろう。剣技や身のこなしなどの技術もすごいのだ。
「くそ……」
「どうした? まさか、もう終わりなのか? やはり貴様も俺を楽しませることはできないのか……」
がっかりした様子のグラシャラボラスの一撃を受け止めた俺は違和感を覚える。なんでこんなにぼろぼろなのに俺は動けるんだ?
体がふらつくも不思議と傷が癒えていくのに気づく。胸元から魔力を感じた俺は思いだす。これはセリスのくれたロザリオだ。彼女の加護が俺を守ってくれているのだ。そして、その加護は俺の持つ剣にも伝わっていき聖なる力が宿っていく。
それと同時にティアからもらったネックレスが俺にかけられた力をブーストしてくれる。
ああ、そうだよ。俺は彼女に待っていてくれと言ったんだ。だったら、こんなところで死ねない。
二人の勝利の女神に守られているのだ。負けるわけにはいかない。
「アモン!! 俺に魔法をうて!!」
「正気か、ファントム。お前はもう……」
「いいから撃ってくれ!! ソロモンの借りをかえすんだろ!! そして、俺はステラの借りを返す!!」
「愚かな……最後は自滅するとはな」
アモンの死線をくらうとけっかんがぶちぎれ、鼻や目から生暖かいものがながれる感触に襲われる。
おそらく流血しているのだろう。だが……それと同時にロザリオが癒してくれる。
「悪いな、俺はお前と違って一人じゃないんだよ!! いいことをおしえてやる。お前が脆弱だと嗤ったステラは俺なんかよりもずっと強いんだ。お前が馬鹿にしていいような存在じゃないんだよ!!」
「な?」
剣を一振りした。それだけだった。俺の右腕の骨の折れる感触とともにグラシャラボラスの剣を持っていた腕ごと切り落とす。
「はっはっは!! やるな、久々に己の血を見たぞ!!」
「よかったな。これからたくさんみれるぞ!!」
回復が間に合わず使えなくなった右手から左手に剣を持ち替えて、今度は相手の心臓を狙おうとして……グラシャラボラスの残った腕が俺の胸を狙っているのが見えた。
だめだ……はじいたらもう、剣を触れなくなる。
一瞬よぎったのは走馬灯だった。アンジェやステラとの領地での生活、カインやエレナ、セリスとの冒険の日々。そして、アンリエッタとの大切だった日常、そして、ティアやアイシャちゃんとの楽しい日々。
そう……俺はこの世界で生きていたのだ。そして大切なものがあるのだ。
「俺の大切な人たちをお前みたいなやつから守るために力を得たんだ!! お前は倒す。絶対に!!」
左腕の一撃がグラシャラボラスの心臓を貫き、鎧から血が飛び散っていく。それと同時にやつの左腕も俺の心臓をねらってきて死ぬ気で体をそらそうとするが、全ての力を使ったかのように動いてくれない。
だめだ……俺は死ねないんだ。それでもなお抗っている時だった。……不可視の懐かしい輝きがグラシャラボラスの腕をはじく。
これはアンリエッタの『破邪』!?
グラシャラボラスが倒れていくと同時に限界を超えたセリスのロザリオが砕け散る。
そして、遠くに懐かしい二つの人影が見えたのは気のせいだろうか?
「おい、ファントム、大丈夫かよ」
駆け寄ってくるアモンの声が聞こえる中、俺は意識は闇へと消えていくのだった。
ロザリオ君がぁぁぁぁ!! ストーキングアイテムが破壊されてしまった。
グラシャラボラスさんが強すぎて最終決戦みたいになってしまった……
まあ、それでも弱体化しているんですが……
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