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43. ティアとセリス



「それにしても、ソロモンの仲間にかの高名なる『最賢のエレナ』もいたと聞いていたんだが、こちらにいないというのは本当に残念だねぇ」

「……エレナさんに何か恨みでもあったのですか?」



 ティアが少しでも時間をかせぐように警戒しながらべらべらと語っているバラスに問うと彼は得意げに笑う。



「恨み? そんなものはあるはずがなかろう。ただ、興味があるだけなのだよ。エルフという世界樹のふもとに住む一族でありながら、我々魔族と戦う勇気!! そして、低い身長にスレンダーな体躯、おまけに我々魔族と同じ長寿……人生を共に過ごす最高としては相手なのさ!! 我が奴隷にふさわしい!!」

「うわぁ、きっしょ!!」

「死ねばいいのに……」



 ティアとセリスが同時に叫ぶ。魔族というのはこういうのしかいないだろうか……と初対面のアモンを思い出しつつ、ティアは小声で、セリスに声をかける。



「私が囮になります。だから、あなたは師匠たちを呼んできてください」

「本気で言っているのですか? あなたよりも私の方が強いですよ。それにあいつはツルペタ好きのペド野郎です。あなたと相性は悪いのでは……?」

「そうですね、でも、あなたの方が師匠の元にたどり着ける可能性は高いでしょう? それと……好きの反対は無関心です。可愛い系冒険者の力をみせてあげましょう!!」

「なっ?」



 セリスの返事を待たずにティアがパラスのほうへとゆっくりと歩きだす。そのしぐさは戦いというよりも、まるで、街角で人に話しかけるような警戒心のない近づき方だ。



「パラスさん、あなたは己を天才とか、英知とかおっしゃってましたが、なにもわかっていませんね」

「なんだと……どういうことかね、人間。我に知らないことでもあるというのか!!」



 やれやれと言った感じで肩をすくめるティアにパラスが激昂すると、彼女はにやりとわらった。

 そして、谷間を強調しウインクする。



「あなたは小さいものが好きなようですが、小さい私が大きい胸を持っていることにギャップをもちませんか? ほら、まるで小さい子がちょっと頑張っているかのように興奮しないでしょうか♡」

「ロリ……巨乳だと……確かに無垢に見える少女が大きい胸をもっているのもありか? いや……だが、バランスが悪いだけで……」

「ねえ、精霊さんもそう思うよね。だったら私に力を貸してほしいな♡」



 思わずバラスの目がティアのひらかれた胸元へとむかい動きが止まった時だった。ティアの持つ短剣に炎が宿ると同時に斬りかかる。

 右腕を失い悲鳴をあげるバラス。



「うぎゃあぁぁぁぁ、人間が!! この天才である我にだましをうちをするとは」

「仕留めるつもりだったけど、そこまでうまくいかなかったですね……でも、精霊さん、すごーい。もっと力を貸してね♡」



 ティアにウインクされ完全に魅了された精霊はやる気を出して、バラスに襲い掛かる。火が風が、水が彼をひたすら襲い掛かる。

 ティアの魅了は人間はもちろん、魔族や精霊すらも魅了する。彼女が魅了していたのはバラスだけではない。周囲に存在する精霊たちをもその笑顔とおっぱ……じゃなかった。美しい所作で魅了していたのである。



「ふざけるなぁぁぁ、精霊ごときが魔族である我に勝てると思うなよ!!」



 黒い光線が解き放たれるもティアはとっさに体をひねって回避する。だが、体勢を崩したところに左手をぱちんとならし、再び転移したバラスが背後からティアに襲い掛かろうとした時だった。



「ひでぶ!!」

「この魔族は思った以上に硬いですね……」



 まるで虫でも叩くかのようにして、セリスがメイスをもって叩き落としたのだ。



「セリスさん!? なんで!?」

「ご安心を。ファントム様の元にはロザリオが急いで向かっていますよ。あの人ならばその痕跡をおってこれるはずです。一人で時間を稼ぐによりも二人で稼いだ方が効率的でしょう?」

「ロザリオが……向かう?」

「な、この女ぁぁ。的確に急所を狙ってくるだと……腹黒いに違いな……ぐべら!!」



 にこりと笑いながら意味不明なことを言うセリスに聞き返すがそれには答えない。ただひたすらにバラスに向けてメイスを振り下ろす。



「悔しいですが、苦手とする私を守ろう姿、難敵相手に不敵な笑みを浮かべるあなたにファントム様やアンリエッタさんと同じ強さを見出しました。いままで侮っていたことをお許しください。そして、これからおこることはあの人には言わないでくださいね」

「え?」



 空間を転移してバラスが逃げるとセリスがティアに微笑む。それはこれまでの表面上の穏やかな笑みではなく、ファントムやエレナなどの近しい人間にむける親しみを込めた笑みだ。

 



「やはりだ肉はだめだ、野蛮すぎる!! 無垢なる女子こそが素晴らしい!!」

「あまり使いたくなかったのですが……聖女を舐めないでくださいね。神よ、我に悪を倒す加護を与えん!!」



 セリスの体を神々しい光が纏うとともにその体躯が一回り大きくなり、法衣がみちりと音を立てる。

 己に限界以上のバフをかけて、動くたびに筋肉が悲鳴を上げるが即座に治癒をしているのだ。

 むろん常に激痛が襲っているのだがセリスは聖女としてのプライドもあり、そのような姿は一切表に出さないままティアに微笑む。



「ファントム様いわく私は殴りヒーラー? とやらが最も適した戦いらしいんです。あなたが命をかけているのにはしたないからという理由で隠すわけにもいきませんからね。前衛は私に任せてください」

「はい、お願いします。精霊さん、あの魔族ぴんぴんしてるよ。もっとかっこいい所見たいなぁ♡」

「ちぃぃ、この女、転移を防ぐために我の手をつぶしただと!? うおおおお!?」



 予想以上の俊敏さと怪力に驚いたバラスにセリスの一撃が無事だった腕を押しつぶし、動揺しているところに大量の魔法が襲い掛かる。

 


「精霊さん、もう一息です、さっすがー♡」

「そんな……この我がこんなあっさりと……」



 絶え間なく与えるられるダメージに、絶望しているバラスの体が消えさる。



「そんな!! 手をつぶしたのでまだ転移ができるんですか?」

「はっはっはー、そんなのバレバレの動作フェイクに決まっているじゃないか、これがわが知略……な!?」



 ティアの真後ろに転移したバラスが勝利を確信した笑みを浮かべ魔法を放とうとするが、それは即座に共学にかわる。

 セリスがまるで転移するのがわかっていたかのようにバラスのいる場所にメイスを打ち付けたのだ。



「魔族は魔法を使うの言葉も動作も不要ですからね、これみよがしにやっていたのでフェイクだと思っていましたよ」

「がは…!? なぜ俺の転移した場所まで……」



 頭を打ち付けられてうめき声をあげるバラスがみたのは無表情にメイスを振り上げるセリスである。



「あなたのような弱いものを狙う下種の考えはわかりますから……かつての旅で慣れているんですよ」

「ちょっと待った、情報が欲しいんじゃないか、何でも話す!! だから……」



 バラスの必死の命乞いは再びメイスを打ち付ける音によって掻き消える。敵に対しては容赦も慈悲もないゆえに『最悪のセリス』である。







「……ティアさん、私はあなたに嫉妬していました。妬んでいました」

「え?」



 バラスの死体を神の炎で燃やしながら、珍しく申し訳なさそうにセリスは語りはじめる。



「あなたは私よりたまたまファントム様に出会っただけなのだと……運がよかっただけだと……ずっと思っていたのです。私が先にあの人を見つけていればそこにいたのは私だと思っていたんです」



 セリスが辛そうに唇をかむ。そんな風に弱みを見せられるのがはじめてでティアは驚きの表情を浮かべながら次の言葉を待つ。



「ですが、魔族と戦っているあなたを見て、その心の強さを知りました。たぶん、その強さとやさしさがあの人を救ったんでしょうね」

「セリスさん?」



 バラスを跡形もなく燃やし尽くしたセリスは振り向くとティアをまっすぐとみつめる。

 その瞳にはうっすらと涙がにじんでいるのがわかった。



「でも、私も本当に一生懸命探したんですよ。ロザリオを使って……必死に探索して……いろいろなところを行って話を聞いて……一人の旅ってつらいんです。愚痴る相手もいなくて……危ない目にもあいました。でも、会いたかったんです。それだけ好きなんです。初恋で……それに再会できたらもう自分の気持ちを我慢しなくていいんだって思ったら好きって気持ちがあふれてしまうんです。だから、あの人が困っているのに、つい抱き着いてしまうんです」



 セリスは涙を流しながらファントムがいるであろう方向を見つめる。



「わかっているんですよ。ファントム様は追放された時に私を頼ってくれなかった……彼が頼ったのは実家でした。一緒にいたのに私は彼の信頼を得ることはできなかった。だから、きっと私が最初に会ってもあの人の心を癒すことはできなかったでしょう」

 


 自虐的にほほ笑むセリス。だが、そんな彼女をティアは優しく後ろから抱きしめる。


「そんなことはないです。多分あなたたちはすれ違いをしていただけなんです。だって、時々師匠が昔話をするときは本当に楽しそうに話すんです。だから、会ってちゃんと話せばわかりあえたと思いますよ」

「うぐ……うう……ありがとうございます……」


 涙を抑えきれなくなったとばかりに嗚咽を漏らすセリスをティアが今度は優しく正面から抱きしめる。

 ティアの豊かな胸がセリスの顔を優しくつつみ、大切なものに触れるようにして彼女の頭を撫でると、さらに嗚咽がおおきくなる。

 セリスにとって母親の記憶はほとんどなく人に甘えたこともない。だからこそ、彼女はそれまでため込んでいたものを吐き出すかのように嗚咽をもらす。





「おかしな話でしょう? 聖女である私が恋なんかにこんなに振り回されているのは?」


 どれだけそうしていたであろう。泣きすぎて目を真っ赤にしたセリスが恥ずかしそうに笑う。


「え、全然おかしくないですよ。だって、あなたは聖女である前にセリスさんじゃないですか。ただの一人の人間なんですから」

「あなたは……あの人と同じことを……」


 ティアの言葉にセリスが大きく目を見開く。


「え?」

「いえ、なんでもありません。ありがとうございます。その……お願いがあるのですが、私と友人になってはいただけないでしょうか?」

「一緒にご飯を食べて、旅をして私たちはもう友達じゃないんですか? そりゃあ、どうかと思うところもありますけど、自分の気持ちにまっすぐなあなたのことを元々嫌いじゃないですよ」

「なんという包容力……ママと言いたくなってしまいますね……」



 ティアの言葉にセリスはぼそりとつぶやくと、そのまま正面から向き合った。



「ありがとうございます。ティア」

「はい、どういたしまして。セリス」



 そうしてお互い笑いあう。それは二人がちゃんと素を晒しあった笑顔だった。



「それでセリス。話を戻しますが、過剰なスキンシップはお互いなしにしましょう。このままでは師匠にひかれてしまいます」

「そうですね……そのかわりお互い抜け駆けはなしにしましょうね。今度は……本心から誓います。神ではなく、私とあなたの友情に誓いましょう。そうですね、おまじないでもしましょうか。昔ファントム様におそわったんです」



 そういって、二人を指を重ねて、指切りげんまんをして、再び笑いあった。そしてちょうどいいタイミングでやってきた人物がいた。



「二人とも大丈夫か? ってなんかむっちゃくちゃ仲良くなってない?」

「なんか百合の香りがするぜぇ」



 仲良さそうにしている二人に困惑するファントムとアモンだった。




★★


 そのころ王都近くの冒険者ギルドにはソロモンからファントムからの伝言が来ていた。



『申し訳ありません……エレナが敵との戦いで行方不明になりました……』と


 彼がこの伝言を知るのはしばらく先の事である。






ティアも順調に攻略していっていますね……百合っていいよね……

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