26.デート
「ここって師匠の故郷なんですよね? よかったら案内してくれませんか?」
「まあ、そうだけど、ここはうちの領地のはずれだからなぁ、行ったことないんだよね。というかさ、近くない?」
ティアに手を引っ張られたまま街に入ったので、いまだ手をつないでいるままである。
しかも、なんとかいうか距離が近いのだ。今も肩と肩が付きそうなくらいで彼女の甘い匂いがなんとも刺激的である。
「だって、私たちの設定は新婚旅行ですからね。ちゃんと夫婦っぽくしないと怪しまれちゃいますよ」
「いや、あれはあくまで衛兵さんへの言い訳だから街に入ったらばれないんじゃ……」
「……師匠は私とこうしているのは一緒にくっつきながら街を歩くのは嫌ですか? 私は結構楽しみにしていたんですけど……」
普段はガンガン来るくせにたまにこうして、少し引くそぶりをみせて上目遣いでかわいらしく見つめてくるものだから、胸が熱くなってしまう。
ああくそ、本当に魅了をつかっているわけじゃないよね? 彼女からの好意は痛いほどわかっている。だけど、裏切られたりいろいろとあってまだ恋愛がわからないというのが本音だ。そんな状況で彼女の想いにどう向き合えばいいかわかっていないのだ。
「師匠の悩みはわかっています。人間不信は完全に治ってませんし、エレナ様も師匠に好意をもっています。いろいろと考える時間は必要ですよね。だから、私は待ちますよ。その代わり今日はちゃんとデートしてくださいね」
「ティア……」
にこりと笑う彼女だったは迷っている俺の手をぎゅーっとにぎりしめる、まるで俺の心の傷を覆うように……
俺は一度大きく深呼吸をする。このまま彼女の気を使われっぱなしで何が師匠だよ。
「ありがとう。せっかくのデートだ。精一杯エスコートさせてくれよ、ハニー」
「はい、私ちゃんと男性とデートするのはじめてなんです。だからたのしみにしてますね。ダーリン♡」
ティアがパーッと顔をかがやかせて腕に抱き着いてくる。やわらかい胸の感触がおしつけられて思わずにやけそうになるが何とか耐える。
そして、俺はティアとデートをするのだった。すれ違う男がうらやましそうに見て舌打ちをしてきたが気にもならなかった。
やはり、地域の特徴をみせるのは市場だろうということで、さっそく来てみた。来たことはないとはいえ仮にも自分の領地だ。名物はなどはわかっているつもりだ。
人通りの多い屋台をめぐっているとティアが一つの店で足をとめる。
「うわーー、すごいきれいな石がたくさんありますね」
「ああ、ここらへんは鉱石で生計をたててるからね。気になる鉱石があったら頼めばここでネックレスとか指輪につけてくれるよ」
その屋台にはキラキラと輝く多種多様な石が並べられていた。
ちなみにゲームでもこの屋台イベントはあり、ヒロインにプレゼントすると好感度が上がる固有イベントがあるのだ。
「おお、兄ちゃん、姉ちゃんあついねーー。カップルかい? よかったら旅行の記念にどうだい。サービスするぜ」
「本当ですかー、お兄さんやさしいですね、ありがとうございます♡」
ティアがほほ笑むと店主のおっさんはデレって表情を崩す。ティアの魅了に即座にかかったようだ。
プレゼントか……そういえば、アンリエッタにも昔指輪を渡したなって思っていると視線を感じた。なぜかティアがじとーっとした目でこちらを見つめている。
「ダーリン……今、ほかの女の人を考えましたね」
「いや、そんなことは……」
心を読まれただと!? あわてて、ごまかそうとするが彼女は俺の手をぎゅーっと握りしめて笑う。
「今はいいですよ、でも、私のことしか考えられないようにしてみせますから、覚悟しててくださいね、だって、私は可愛いですから」
「……ああ、本当にティアは可愛くてすごいな」
彼女のポジティブな精神にどれだけすくわれたことか……師匠なんてよんでくれて慕ってくれるが俺がこんなふうに立ち直れて、エレナともむきあえたのは彼女がいたからだ。
ならばせめてお礼くらいはしたいと思う。
「せっかくだ、プレゼントするよ、ハニー」
「本当ですか? だったらどれにしようかな」
ぱーっと顔を輝かせるティア。だけど、ごめん。もう渡したい石はきまっているのだ。
「ああ、悪い……せっかくだし、俺に選ばせてくれないか? 店主。その紫色の石を加工してネックレスにしてくれないか?」
「え、これ結構高くないですか? もっと安くても……」
「いや、初めてのプレゼントだし、ティアの瞳に色と似ているからこの石が似合うと思ったんだ。だめかな?」
「いえ……これがいいです。ありがとうございます」
本当に嬉しそうにほほ笑む彼女を見て、プレゼントしてよかったと思う。そして、ネックレスができるまでにカフェで休むことにする。
「ここはリンゴが取れるからリンゴジュースとアップルパイがおすすめなんだよ」
「さすがダーリン詳しいですね。あ、ちょっと席をはずしていいでしょうか?」
席をとって注文をおえると少し恥ずかしそうにティアが席を立つ。デートなんでどうなるかと思ったけど、楽しかったし、ティアの新しい一面を知れてよかったそう思うのだった。
★★
師匠に断って席を立った私は先ほどの屋台に向かう。
「お、さっきのお嬢ちゃんどうしたんだ?」
「あ、すいません……そのお願いがありまして。さっきのネックレスをダーリンの分も作っていただけないでしょうか?」
師匠ははずかしがるかもしれないが、、プレゼントといえばつけてくれるだろう。そう、私は師匠とのペアアクセサリーが欲しかったのだ。確かな絆が欲しかったのだ。
これじゃあ、エレナ様のことを笑えないくらい重いな……というか今日は無茶苦茶わがままを言ってデートしてもらったがひかれていないかなとちょっと不安になる。
「いいけどさ。お嬢ちゃんはこれの宝石言葉を知っているのかい?」
「え、知らないですけど……」
「無理もないか。宝石言葉はここらへんの人間しか知らないからねぇ。さっきの兄ちゃんはここの人なんだろ?」
「はい、ダーリンの故郷に旅行に来たんです」
なぜか、にやにやと笑っている店主に疑問を持った私は師匠が注文してくれた石を指さす。
「この石の宝石言葉はなんていう意味なんですか?」
「それはね……『もっとも大切な人』『大きな信頼』って意味でね。人生で一人にしか渡さないんだよ。その代わり特殊な魔力がこもっていて高いんだ」
「え、それって……」
師匠はわざわざこの石を選んだんだ。その意図がわかってしまった。そして少し照れくさそうな表情の意味も……
「もう師匠のばかぁぁぁぁぁぁ!!」
そりゃあ、恋愛的な好きではないかもしれない。だけど、最も大切な人っていうのが本当にうれしくて、私は店の中だというのに思わず泣きそうになってしまうのだった。
ああ、もう、師匠のことだいすきぃぃぃぃ♡♡
★★
「随分早かったね……って、お前は……」
ティアが戻ってきたのかと思い顔をあげた俺は大きく目を見開く。視界に入ったのはメイド服の二十代前半の女性だ。
そして、その顔には見覚えがあった。
「お久しぶりですね、ファントム様。一体何をしに戻ってこられたのですか?」
「ステラ……領主の専属メイドであるお前がなんでここに?」
「質問しているのは私ですよ。ファントム様。なぜ、無断で故郷にもどってきたのか、しかも魔族をつれてきているかを私は問うているのです」
一年ぶりに再会した俺の元専属メイドはあきれたというふうに肩をすくめたのだった。
やっとデートできた!
ティアも重くなってきましたね…
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