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指探し_03

 木下警部と伊藤警部補が事務所を訪れたのはその日の午後のことだった。


「先生、お元気でしたかな」


「やあ、警部殿。警部補はご遺体を前に卒倒する体質は治りましたか」


「先生どうも。ははは⋯⋯もう慣れましたよ」


 匡佑がすかさずお茶を出す。


「おや、新入りですか」


「ええ、孤児だったのを大家が拾いましてね。助手をやらせていますが⋯⋯」


「常石匡佑といいます、精一杯働きますので、よろしくお願いいたします!」


 匡佑は元気いっぱいに挨拶し、その反動でお茶を勢いよく床にぶちまけた。


「おやおや⋯⋯」


「まったく⋯⋯」


 透悟は額に手をやり、警部らは大慌てで床を拭く匡佑をにこにこと眺めた。




「で、本題ですが⋯⋯」


「大家から聞いています。指のない死体、とは、どこまで調べがついているのでしょう」


 木下と伊藤は苦い顔を見合わせた。


「⋯⋯それが、まったく」


「被害者はご婦人ばかりですが、まったく面識のない人たちなので、犯人像がわからず、我々は女性狙いの快楽殺人なのではないかと睨んでいます」


「それはないでしょう」


 透悟は食い気味に否定した。


「なにか根拠が?」


「⋯⋯根拠、ではありませんが、着衣に乱れはなかったでしょう」


「え、ええ、はい」


「女性狙いの快楽殺人犯が女性の何を狙うか考えてごらんなさい」


 透悟はあえて言葉を濁した。


「なるほど⋯⋯、先生の言うことも一理ある。ですが、女性の犯行だとしたら?」


「私も女性の犯行だと睨んでいます。しかしこれは目的がある。お二方から事件の話がまわってきた時点で私の中では嚙み合わなかった歯車が回りだした」


 警部の眉根に皺が寄った。


「ならば我々になにも聞くことなく犯人を教えてくれれば良いではないですか。先生もお人が悪い」


 探偵は無感情に口角を吊り上げる。


「⋯⋯それがね、死人なのですよ」


「⋯⋯死人⋯⋯」


 木下、伊藤、匡佑は声を揃えて息を呑んだ。


「ご遺体がすべて女性と伺って謎が解けましたよ。ありがとう」


「⋯⋯私どもにはさっぱりですが⋯⋯」


「警部には調べていただきたいことがあります。広瀬川沿いの骨董屋に『黒瑪瑙の指輪』が買い取られていないか調べてほしいのです」


 匡佑は不思議に思った。


「黒瑪瑙って、あの件のあれですか?」


「そうだ。この一連の出来事は繋がっている」


「ということは、犯人は奈緒子さんのお母さん⋯⋯? でもそんなはずは」


「常石くんが冴えている。明日は槍が降るな」


 ここで警部が口を挟んだ。


「その、奈緒子さん、という方からお話を伺ってもよろしいですかな」


「ええ、なんの解決にもならないでしょうが。なにせ十歳の少女なのでね」


「十歳⋯⋯」


 木下は面食らったというふうに俯いた。


「そう気を落とさずに。黒瑪瑙の指輪さえ見つかれば万事解決、被害者ももう出ませんよ」


「⋯⋯先生のところにくると必ず事件は解決するが、我々には最後までなにがなにやらわかりませんね⋯⋯」


 伊藤は力なく首を横に振った。


「とにかく黒瑪瑙の指輪を見つけてください。次の買い手が現れる前に」


「⋯⋯わかりました、やれることがあるのならやりましょう」




 こうして木下と伊藤は特になんの手掛かりも得られないまま事務所をあとにした。




 透悟はまた白い布を被っていつものごとく居眠りを始めた。


「⋯⋯、そういえば。常石くん、最近夜出歩いているな。また変なものに憑りつかれているんじゃなかろうね」


「あ、そうか、僕のことになると先生なにも見えないんでしたね。僕も僕のことは見えないのですよ⋯⋯難儀だなあ」




 常石匡佑は霊媒体質で、通りすがりの霊に憑りつかれ、自分の意識とは裏腹な行動をしてしまうという悩みがあった。匡佑の両親はそれを煩わしく思い、座敷牢に閉じ込めていたが、匡佑の存在を知った霧真が身柄を譲り受けた。それはなんでも見える透悟を頼ってのことだったが、そういった意味でも匡佑は特異であった。なんと、透悟の目をもってしても、なにも見えないのである。


『この子は人間か?』


 それが透悟の、匡佑を見ての第一声であった。匡佑について透悟が唯一わかっていることといえば、魂が半分出ていて、それで憑りつかれやすいのだろうという推測のみである。


 匡佑自身も、事務所を抜け出してどこを彷徨い歩いているのかとんと見当がつかない。


「今度僕が出て行ったら、あとをついてきてくださいよ、先生」


「んぁー、気が向いたらな」


 透悟はそのまま眠り込んでしまった。



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