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出雲の米


 ☆


「ありがとうございましたー」

「ありがとうなのじゃー」

 二人でお客様をお見送りして、扉を閉める。お客さんがいないときは掃除とか棚の整理とかをするんだけど、決まった休憩時間が無いからお客さんがいないときイコール休憩時間みたいな感じだ。

「ということで店主さんが作ったオハギでも食べようかなー」

「うむ、悪魔店主は最近甘未を極めているそうじゃからなーっ痛って!」


 ナチュラルに『痛って!』って聞こえたんだけど、どうした?


「何かあった?」

「うぐ……肘をぶつけ……肘……肘?」

 イナリの肘を見ると、そこは何もなく、イナリの足元を見ると、そこには腕が……腕が!?


「うでがああああああああああ!?」

「ぬおおおおおおおおおおおお!?」

「どどどどどうしましたか!?」


 バックヤードの店主さんが駆け込んで来た。そして驚く僕を思いっきり舐め始めるガウス。うん、恐怖を食べてくれる悪魔の犬だから、とても助かるんだけど、最近僕の感情が不安定になっている気がするよ。


「ああ、腕が落ちたんですね。驚かさないでください。てっきりデーモンをうっかり召喚されたとかだと思ったじゃないですか」

「そんな『いつもの事』的な雰囲気で言わないでください。腕が落ちたんですよ!? 重症ですよ!?」

「と言っても、イナリ様は元々『出雲の粘土』で作られたホムンクルスですからね。想定以上の衝撃があれば取れます」

「そりゃ粘土ですけど……」

 そう言ってイナリを見ると、地面に落ちた腕を拾って、僕に近寄ってきた。


「ご主人、この腕、つながっていないのに動かせるのじゃ」

「ぎゃあああ!?」


 ☆


 翌日の休日。僕は疫病神さんがいる野良神社に向かった。病と言ったら野良神社。骨折も風邪も疫病神さんなら大丈夫だよね。

「おや、今日は特に注文をしていませんが、お参りですか?」

「疫病神さんこんにちは。実は頼みがあるんです」

 紫異の短髪に額には冷却シート。そして頭の上には水袋を乗せて、いつもふらふらな疫病神さん。これが普通と言われてしばらく経つから慣れたけど、普通では無い元気な疫病神さんも見てみたいな。

「病に関するお悩みならヤクにお任せです」

 ポンと胸を叩く疫病神さん。おや、いつもはせき込んでいるけど、今日はちょっと元気なのかな?


「腕が取れたのじゃ。治して欲しいのじゃ」

「病を超えた内容ですね。ヤクの力不足をひしひしと感じるです」

「ちょっと待つのじゃ。悪魔店主がお主ならなんとかできると言っておったのじゃ!」

「わかりました。わかりましたからその取れた腕をヤクの首に巻き付けないでくださいです! シンプルにキモイです!」


 僕がイナリをなだめ、一呼吸を置くと疫病神さんは「ついてきてです」と言って、いつもの疫病神さんの私室へ向かった。

「今日は神主殿はおらぬのか?」

「今日は結婚された方の無病息災のお祈りをしていますです。本殿は関係者以外立ち入り禁止ですね」

 結婚かー。今の仕事をしていたらそういうものは絶対縁が無いだろうなー。

「ありました。おそらくこれが良いでしょうです」

「これは……え、米?」

 白いお米が数粒。うん、完全にお米である。


「ちょっとふやかして塗れば、くっ付きます」

「ワシの腕を米でくっつけろと!?」


 さすがのイナリもぞんざいな扱いに涙目である。尻尾もペタリと床に落ちてるし、かなりショックみたい。

「えっと、僕からもちょっとこれはと思うんですが?」

「いえ、イナリさんの『出雲の粘土』で作られた体を補修するには、同じ場所の素材でなければいけませんです。本当は粘土が良いのですが、あれは貴重なので、代わりにこの米が良いということです」

「う、ううむ、ちゃんと理由があるのか……しかし米か……」

「でもお米って結構くっつくって聞くよ?」

「うむ……お主よ。おそらくじゃがワシの考えと少しすれ違っておるかもしれぬ。ワシは別に米で修復することに『不満』は無いのじゃ」

 え、どういうこと?


「食べ物を腕に着けるって、どうなのじゃ?」

「あー……まあ、仕方が無いこともあるでしょ。神様が提供しているんだし、割り切ろう?」

「うぐ、ご主人の言う通りじゃな。疫病神よ。このお米をいただくぞ」

「はいです。これはお供えのモノを取ってただけなので、差し上げます。神からのお恵みだと思っても良いですよ?」

 クスクスと笑う疫病神さん。普段は元気が無さそうなのに、今日はやっぱりいつもよりテンションが高い?


「もしかして疫病神さん、お腹空いてます?」

「へ!? あ、バレましたです?」


 いや、なんか『元気そう』だし。


「お腹がちょっと空いている時は調子が良いんです。ただ、この後はすぐにお腹が空くので時間は短いですけどね」

「お腹がいっぱいの時に今の状態だったら……と思いましたが、疫病神さんは疫病神さんの役割があるので、僕が勝手に何かを決めつけるのはおかしいですよね」

 そう言うと、疫病神さんはふふっとほほ笑んだ。

「その通りではあるですが、心配してくれる心使いは嬉しいです。神にとってお願いだけではなく、きちんと感謝されることは嬉しいことですからね。なので、ここでお願いしたことが少しでも叶ったなら、お礼参りをしに来てくださいです」

 なるほど。お礼参りか。

「じゃあイナリ、とりあえずお礼参りをするか」

「うむ? まだワシの腕はくっついておらぬが?」

「こうして会ってくれただけでも感謝しちゃダメってわけでは無いだろ?」

「うむ……わかったのじゃ。まあ、感謝の前払いをすることで疫病神は必ず成功させなければいけないという責任を背負わせないと行けぬという意味では大事な儀式じゃな」

 なにもそこまで悪魔的な考えはしていないけどね。


 疫病神さんは病を食べることで腹を満たしますが、かわりにその病を受けることになります。

 つまり、空腹時は病が無い状態という、非常におかしな感じですが、おかしいと思うのは人間側の固定概念で、疫病神さんにしてみればそれが普通という感じですね。

 今回は米で補修をしましたが、これは人間でも近い医療があります。私が知る範囲でですが、体内の腸などを補修する際に、豚の腸を使う手術があったりですね。ざっくりな発言なので、間違ってるかもですが!

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