アモンの壺
☆
「ガウスー今日も可愛いなー」
『ガウガウ!』
「イナリも尻尾がモフモフだー」
「のじゃのじゃ」
「店主さんはキュートですね!」
「アツアツのフライ返しをほっぺにペタリ」
「あっつ!」
はっ!
僕は一体何を!?
「正気に戻りましたね。全く……これだから『ゴエティアの悪魔系譜』の道具は厄介です」
そう言って店主さんは木箱の蓋を閉じた。
確か『ゴエティアの悪魔系譜』というのは、とても強力な悪魔達のことで、それが宿った道具はかなり危険って話をざっくりと聞いた気がする。
「それに入っているのは、その『ゴエティアの悪魔系譜』の道具なんですか?」
「はい。その悪魔の断片が入ってる道具で、名前を『アモンの壺』と言います」
アモン。なんか聞き覚えがあるような……そう言えば以前悪魔図鑑を貰ったときに書いてあったような気がする。
「アモンは調和を司る悪魔です」
「悪魔なのに調和?」
「調和が必ずしも良いわけではありません。範囲内を一致団結させ、範囲外に争いを生む場合もあります。これは範囲の外のバランスを喰らうので、この疫病神様が作った特製の木箱に入れないと大変なんです」
さらっと凄い木箱を作ったんだなー。そんな凄い木箱を作れる疫病神さんってやっぱりすごい神様なのかな。
「はっ! ワシは一体!」
『ガウ!』
と、ここで一人と一匹も目覚めた様子。
「なぜご主人の頬が赤く腫れているのじゃ?」
「え!? あ、これは店主さんが!」
「安心してください。調理中にくっつけたのではなく、ワタチの魔術で熱した新品のフライ返しを使いました」
どこに何を安心する要素があるのか教えてほしい。
あと、いつもながらさりげなく魔術使ってるの本当に何なんだろう。
「というか、こんなに腫れてたら目立ちますよ。なんかこう、回復系の魔術を使ってください」
「治癒系はワタチとの相性が最悪の分類ですね。できないわけではありませんが、イナリ様ができるのでやってあげてください」
「うむ、ほれ」
……あの、サラッと凄いことをしないでくれる?
今、サーっと痛みが引いて腫れが治ったんだけど、本当ならスマホで録画したいレベルの内容だったよ?
「というか、店主さんはアモンの壺の影響を受けなかったのですか?」
「全く受けないわけではありません。理解と知識があれば納得して耐えることができます。イナリ様がうっかり蓋を開けた瞬間、自分自身しか守れなかったですね」
イナリのうっかりのせいだったのか。
「こればかりはこの木箱に封印して、倉庫に入れましょう。そう言えば柴崎様はまだ地下倉庫に入ったことがなかったですよね?」
「え、ここに地下倉庫があるんですか?」
初めて知った。
外装はボロボロで大雨が降れば雨漏りがしそうな店……のように見せている結構つくりは立派な雑貨店。まさか地下に倉庫があるなんて予想していなかった。
「店番はイナリ様とガウスに任せて、これを置きに行きますからついてきてください」
「はい」
そう言って僕は店主さんの後ろについていった。
調和を司るアモン。諸説は勿論ありますが、ここではそういう悪魔としています。
仲間内や何かしらのグループ内で団結しても、その周囲はよく思わないことは多くありますね。調和の定義も結構難しいのですが、これもまたふんわりとした感じで進めていきます。




