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金欠団子


 ☆


 僕は夢を見ているのだろうか。僕は今、茶封筒を両手で持っていて、中には大量の札束が入っていることが見なくてもわかる。


「店主さん、これはなんですか?」

「何って、ボーナスですよ。夏ですしきちんと頑張ってくれてますからね」

「それにしたって多すぎでは!?」

「二か月分の給料ですからね。さすがに銀行からここへ持ってくるのはちょっとためらいました」


 えへへーと笑う店主さんと、震えて茶封筒を持つ僕。いや、二か月分って、前職の給料換算で言えば五か月以上の給料が入ってるんだけど?


「ワシには無いのか!?」

「イナリ様は人では無いので、ありません」

「なっ!」


 ペタリと床に膝をつくイナリ。


「先日テレビで見たオモチャザウルスのコマーシャルで出ていた稲荷寿司キットが買えると思ったのじゃが……」

「冗談ですよ。雇用体系的にちょっと複雑なので柴崎様よりは少ないですが、きちんと用意しています」

「わーい!」


 神かよ。いや、悪魔だけとも!


「いやいや、そんなことよりも普段の給料が多いのに、賞与まで多くて大丈夫なんですか?」

「心配ありません。ちゃんとそのあたりも計算してます。むしろもっと多くても良いのですが、税金関係がややこしくなるので今年はそれで我慢してください」


 我慢も何も、普段の給料だけでも使いきれないんだけど?


 ☆


 店で働きながら賞与の使い道を考えていた。

 イナリは近所のおもちゃ屋のオモチャザウルスで稲荷寿司キットを購入するらしいけど、僕は何に使えば良いだろうか。無理して使う必要も無いけど、何かしら趣味を見つけても良いかと思った。


「お金の使い道に困っているのなら、貯金すれば良かろう?」

「貯金するにも、目的があって貯金するのと、結果的に貯金が増えているのとでは違う気がするんだよね」

「それなら、貯金することに理由を持たせてみましょう」

 

 そう言って店主さんはバックヤードから金色の団子を持って来た。


「それは?」

「『金欠団子』です。試作品なのでちょっと味見をしてもらいたいなーと思いました」

「店主さんの新作料理の味見なら喜んで!」


 そう言って僕は店主さんの持つ『金欠団子』をひょいっと取って口に入れた。

 一瞬店主さんが「あっ」と言ったけど……え、大丈夫?


「ちゃんと効果を言うべきでした。『金欠団子』は食べるとあらゆるものが高価に見えて、お金を払いたく無くなるというものなんです。間接的にダイエット食として売り出そうとしていたのですが、そもそも物欲の無い柴崎様が食べたら効果があるのかわからなくなりましたね」

「悪魔店主はご主人のケチさを侮ってはならぬぞ。無自覚でお金をあまり使わないようにしているからのう」


 何か二人が話しているけど、僕は団子からあふれ出る謎の風味を楽しんでいた。うん、これは効果が無くても普通の団子として売り出せば良いと思うくらいには美味しいと思った。


「ところでイナリ」

「む?」

「稲荷寿司キットは自分で作れ。家にあるおもちゃのモーターを分解すれば似たものが作れるから」

「ちょっと待てご主人。ワシがこだわり抜いたマイクロ四駆のモーターを取り出せとな!?」

「あと店主さん」

「は、はい!」

「先日のお昼に出した魚ですが、そのまま捨てるよりも出汁を取りましょう」

「まさかワタチの料理に指摘するほど効果があるとは……」


 ……僕は何を言っているのだろう。というか、僕、今体の自由が利かないんだけど!?


「イナリ、明日イナリの服を買うつもりだったけど、僕が学生の頃に着ていた服を渡すからそれを着て」

「ちょっと待てご主人。目が怖いぞ! あと新品が良いぞ!」

「ガウスもご飯を減らそう。僕の血が数滴あれば問題ないよね?」

『ガウ!?』


 ちょっと待て僕!

 イナリは良いけどガウスのご飯を減らすのはダメだよ!


「おいご主人! ワシは良いけどってどういう意味じゃ!」

「イナリにはこれから節約を心がけてもらうね」


 もしかしてイナリは僕の心を読んでる!?

 イナリ! 助けて! 体が勝手に動いてる!!


「なに!? 悪魔店主よ! こやつ、心と口が同調しておらぬ!」

「なんですと! さすがにそれはマズいですね。今すぐ疫病神様のところで解呪してもらいましょう!」


 ☆


 野良神社の敷地の近くの開けた場所で、疫病神さんに解呪してもらった。

 店主さんが悪魔である関係上、野良神社には入れないからここで行うことになったわけだが、ここに連れて来るまでに僕は激しく抵抗していた。


「これで大丈夫ですね。そもそも団子が消化すれば解呪されるものでしたです」

「あーあー。おおー、僕が普通に話せる!」

「ふう、まさか乗っ取る系の悪魔だったとは思いませんでした。他に体に異変はありませんか?」

「大丈夫です」


 そもそも僕もうっかりしていた。店主さんが作ったからと言っても、悪魔道具に変わりない。ちゃんと説明を聞いたり、質問をしてから食べるべきだった。

 店主さんは少し反省しているが、僕も反省する内容でもある。


「ご主人!」

「ん、どうしたイナリ」

「稲荷寿司キットは買っても良いかの!?」


 涙目で訴えかけるイナリ。

 正直、イナリが作る稲荷寿司は美味しいし、稲荷寿司キットで作った稲荷寿司はイナリの作る物よりも美味しくは無いとは思うけど……。


「明日買いに行こう」


 団子には色々な伝承がありますね。子孫繁栄から豊穣祈願などなど。中には何かを封じ込めるものなんて物もあるんで、今回は悪魔を封じ込めて、結果的に願い通りになる道具となります。

 例えば一万円が欲しいと思ったら、貯金すれば良い。そんな簡単な答えを極端な方法でやってくれる悪魔ですね。

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