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ー幕間ー 悪魔道具の展示会


 ☆


 今日は珍しくお店を臨時休業。というのも、今日は僕とイナリと店主さんの三人で、とある場所に行くことになった。

 前職で唯一仕事なのに休日感覚で過ごすことができた『展示会』。その悪魔道具バージョンが開かれるとのこと。


「ワシは行きたく無いのじゃがな……ご主人が行くから体が引っ張られるからのう」

「え、それなら僕も休んだ方が良かったのかな?」

「イナリ様にはすみませんが、柴崎様には今日来ていただかないと、チャンスを逃すんです。イナリ様的にも今回を逃して、神側に着かれた場合、一生行くことはありませんからこちらを知る勉強です」


 様々な事情があって今回は強制的に行くことになった。店主さんからのお願いや指示であれば喜んでいくし、何より店主さんも一緒であればスキップして行くよ!


 ☆


「帰りたい」

「先ほどお主は『店主さんも同行ならスキップして行く』とかほざいていたじゃろ」


 心を読むな。だって、こんなすべてがお化け屋敷みたいな展示会、見たこと無いもん。

 場所は店の最寄駅から電車で一時間ほど。都心部から少し離れたところで、まさかの廃ビル……にしか見えない普通にちゃんと貸し出しをしているビルだった。

 本日は一階から五階まで貸し出しと書かれている看板と、どこの文字かわからない看板。店主さんの話だと、この文字が読める人が入れるとかなんとか。

 で、各階層に同業者がいて、大きなところだと一階層貸し切って展示している。そして各階層が気合を入れて商品の説明をするのだけど、どこも気合の入ったお化け屋敷になっている。うん、気を失うよ。


「用があるのは三階ですが、気になるなら見て回って良いですよ」

「店主さんの後ろをついていきます。もう僕にはそれしかできません」

「悪魔店主よ。ワシのお手手がご主人によってニギニギされて変形する前に何とかしてほしいのじゃ」


 毎度恒例のイナリの手をニギニギすることで僕の心は保たれている。


「あっちから危害を加えることは絶対にありません。そうなると色々な契約が破綻するので、出品側も困るんです。そうですね……軽くなれるために一階層を見てみましょう。ここは個人ブースが多いですからね」


 そう言って店主さんについていき、一階の部屋を見て回ることになった。

 お化け屋敷と違うのは、最初に入った人や後続の人が近くにいたり、追い越したりしているという部分で、各ブースも人を集めるのに声をかけている。中には可愛いコンパニオンを雇って客寄せをしている……凄い大胆な恰好をしている……。


「って、あれは夢魔じゃないですか。通報ものですよ!」

「むま……え!?」


 店主さんが懐から何かを取り出そうとした瞬間、警備の人が流れ込んで来た。この人たちは普通の警備員の恰好をしているが、露出の高いコンパニオンさんを取り押さえている姿は何かいかがわしいドラマのシーンのようだった。


「情報感謝です。寒がりの店主さん」

「おや、今回の警備は貴方ですか」


 敬礼する警備員。店主さんの知り合い?


「あそこまで高位な悪魔だと身を隠すのも上手なんです。おや、そちらは寒がりの店主さんの所の方ですか?」

「あ、えっと、しばっむ!?」


 突然店主さんに口をふさがれてしまった。どうして!?


「『ワタチの』部下です。そちらの狐耳も同様です。今後ともよろしくお願いします」

「よほひふほへはいひはふ」

「よろしくじゃ」


 そう言って口をふさがれながらも頭を下げる。


「はい。では」


 そして警備員は去っていき、ようやく僕の口は解放された。


「ワタチが説明していませんでしたね。ここは先ほどの夢魔のように大量の悪魔が居ます。名前を簡単に行ったらそこに入り込まれかねません。疫病神様の所でなんとでもなりますが、野良神社に行くまでの道のりで事故にあう可能性もあるので、気を付けてください」


 そんな危険なところに僕を連れてきたの!?


「わ、わかりました」

「の、のじゃ」


 会話を減らしつつ他のブースを見ると、所々見覚えのある商品が並んであった。例えば『ウィジャーボード』とかは三ブースに一つ置いてある。


「各国でこのような物は多いんです。日本でも同様の物があるので、ここで企業同士交換とかもあるんです」

「へー。店主さんはしないんですか?」

「昨年参加しましたよ。ですが、二年ほど出店禁止を受けちゃいました」

「何をやらかしたんです!?」


 と、僕が突っ込むと、僕の近くのブースの人が机を叩いて笑っていた。


「がはははは。そりゃ、『寒がりの店主』の商品は俺たちの商品と比べて品質がおかしいからな」

「違いねえ。あの『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』なんて数百円で売って良い商品じゃねえのに、そんなのをポンポンと出されたら俺らが破産するさ」


 周囲がいつの間にか笑っていた。ブースで商品を見ていた人も笑っている。


「のう悪魔店主。もしかしてこの周辺の者は全員知り合いかのう?」

「知り合い……というより同業者ですね。忘れている人もいるでしょうけど、何名かは去年ご挨拶しましたね」

「かっ! 覚えられているだけで光栄なこった。『寒がりの店主』さんよ。俺と長期的な取引をしないか?」

「おいおい、抜け駆けするなよ。皆狙ってるんだからよ」


 もしかして店主さんってこの界隈では有名人なの!?


「すみませんが、今回は先約がいるのでそういう話は無しです。面白い商品があれば、もしかしたらそういう話をするかもしれませんが?」

「おっと……はは、今回は諦めるか」

「くーっ、先月のセリでアイアンメイデンを落とせてたらチャンスがあったか」


 どのブースも見たことはある商品はちらほらあるけど、まったく予想がつかない物も多い。それでも店主さんの期待に応えられる商品は無いということなのかな。え、店主さんってやっぱりすごい?


「ということでここはフリーマーケットな感覚で見て回りましょう。興味があったら買っても良いですよ」


 いや、悪魔道具だし、店主さん以外の悪魔道具は信用できないから遠慮します。


 ☆


 本命の三階に到着すると、広々とした空間に真ん中には巨大な円柱の柱が置かれていて、立ち入り禁止のロープが張られていた。


「こんにちは」

「おや、きましたか」


 イナリよりも低身長のおじいさんがすたすたと店主さんの前に歩いてきた。店主さんも低身長だけど、それよりも低い気がする。


「ごごごごご主人、ききき気を付けよ」

「いてててててて! ちょっと何!?」


 すっごい勢いで僕の手をニギニギしてくるんだけど!

 というか、もしかして僕がイナリの手をニギニギしてた時ってこんな感じだったの!?


「ホッホッホ。そちらの女子は我を見抜いたか」

「中立の霊体をとある粘土に取り込んだホムンクルスです。色々と見えてはいけない物が見えるのでしょう」

「そうかそうか。そちらの少年は普通の人間じゃのう」

「は、はい。えっと、店主さんの部下です」

「ほっほっほ。初めまして、我は=▼●■じゃ」


 ……なんて?


「この方は凄い悪魔なんです。今もサラッと本名を言いましたが、日本人には聞き取ることも発音することもできません」

「寒がりの店主に凄い悪魔なんて言われたなんて、生涯の自慢になるぞ?」

「事実ですからね。今回は悪魔道具を扱う業者を紹介しに来ました」

「我を紹介するだけに顔を出すのも寒がりの店主だけじゃよ」


 とにかく僕の右手が壊れそうなくらいこの人は凄い悪魔らしい。うん、イナリ、そろそろ服の裾とか、別の所を握ってくれない?


「えっと、この方は何を扱ってる人なんですか?」

「我は主に輸入品や古い道具の修復をしているのじゃよ。この真ん中の柱も最近修復が終わってようやく商品として世に出せるものじゃ」

「これは一体?」


 柱をジーっと見ると、なんだか変な感覚が一瞬頭を過った。叫び声というか、泣き声が聞こえたような?


「『嘆きの人柱』ですね。悪趣味な道具で、ここには百個くらいの魂が封印されているんです」

「うお!?」


 つまりお化けが中にいるってことじゃん。


「ほっほっほ。封印と言っても、悪さをする者では無い。ここにいる者は現世にやり残したことがあり、身を亡くした後も永遠に嘆きたいと願った魂じゃ。まあ、電源不要の効果音が鳴る置物として売っているぞ」

「内容が凄いやばいのに、商品として世に出すとどうしてもそんな使い道になるんですね」


 ケラケラと笑う凄い悪魔の店主さん。なんというか、おじいさんという表現以外の認識ができないのも、本人を特定できないような仕掛けがあるのかな。


「ワタチのお店はかなり特殊ですが、このように一応同業者もいます。この方には『邪神の刻印入りネックレス』などを卸しているんですよ」

「そうなんですか?」

「ほっほっほ。あれは本当に売れるから、時々あれのお陰で一か月の食費が助かるときもあるのう」


 店主さんの道具を別の場所で売っているというのも凄い話である。


「さて、紹介も終わりましたし、一階に戻って適当に気に入ったものがあったらお土産にでも買って帰りますか」

「はい」

「の、のじゃ!」


 そして帰ろうとした瞬間、グッと肩を掴まれた気がした。おかしい、おじいさんは低身長で僕の肩に手は届かないと思うんだけど……。


「ほっほっほ、ここで会ったのも何かの縁、悪さはせんから名前を聞いても?」


 店主さんの知り合いだし、この人なら。


「え、その、しば」


「何を言わせようとしているんですか?」


 パチンと頭を叩かれたような感覚が過った。店主さんが腕を組んでいた。


「この方は大切な部下です。ワタチから引き抜こうとするなら、それなりの覚悟は必要ですよ?」

「冗談じゃて……ほほ、ネックレスの仕入れが無くなったら困るからのう。少年、気を付けて帰るのだ」


 そう言って僕は振り返らずに三階を出た。


 ☆


 一階をもう一周したけど欲しい物は無かった。というか全部が悪魔道具だと思うと気やすく買えないよね。


「というか店主さんは僕が別の店の悪魔道具を買っても嫌じゃないんですか?」

「効果によりますが、変な物でなければ構いませんよ。それぞれ趣味嗜好はありますからね」

「とか言って、悪魔店主。一階を見て回っていた時、商品を手に取るご主人を見てハラハラと……おおおお、待て待て、その怖い顔で睨むな!」


 うん、やっぱり買わなくて正解だったみたい。


「こほん。先ほどのはちょっとした冗談です。そもそもワタチも作れない悪魔道具もありますし、取り寄せることもありますからね。まあ、買う時は一言言ってくれればうれしいです」

「わかりました」


 そして僕は展示会でもらった何枚かのパンフレットを持ってお店に戻るのだった。


 ウィジャボードのように、国によっては言語が違うけど内容は同じものは多いですね。

 人形も夜に動くという現象は日本だけで無く世界各地で言われています(本当かどうかは置いといて)

 今回はそんな店主さんでも作れない道具もあるという事実をつらつらと書いたお話になりますー

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