疫病神の呪い袋
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初詣に行くなんて何年以来だろう。前職は元旦だけ休みで、その日に外に出るという考えは無かった。
翌日は初売りで出なければいけないが、四日からは何と四連休である。信じられない。
「おはようございますです。柴崎さん。それとイナリさん」
「おはようじゃ」
「おはようございます。疫病神さん」
野良神社はいつも以上に人が多く、皆本殿に向かって並んでいた。
「やっぱり神様となるとここに並んでいる人の願い事を聞くのですか?」
「野良神社は病を追い払う神社です。恋愛や仕事に関する願いをされても、間接的な部分で少し手を貸す程度です。ただ、できることなら頻繁に足を運んでくれる人間さんを優先したいですね」
お得意様……という言葉を神社で使って良いのか疑問だけど、初詣だけしか来ない人よりも、時々来てくれる人の方が良いよね。お店もお得意様の方が色々と助かったりする。
「そうそう、実は柴崎さんに悪魔店主さんへこれと届けてほしいです」
「これ?」
そう言って渡されたのは、所々縫われているボロボロのお守りのようなものだった。
「それは『疫病神の呪い袋』というもので、ヤクが別の疫病神さんから貰ったものです」
「でも、疫病神さんの道具って店主さんは苦手なのでは?」
ゲームの属性のように、店主さんは神聖な道具にはあまり触ることができない。
そして目の前の疫病神さんは僕が知っていた疫病神とは違って、病を食べてくれるありがたい神様である。
「大丈夫です。これは『悪魔の疫病神さん』の道具です。ちょっとだけ封印をしていますが、悪魔店主さんならこれくらいの封印は解けますです。お店の商品にするなりしてくださいと言ってください」
「良いのかのう?」
「処分に困っていたんです。有効活用してくれるのであれば、こちらは助かるです」
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翌日。この店で働き始めて初めての初売り……と言っても、特に何か大々的に告知をするわけでもなく、その日に店を開けているだけという状態である。
てっきりすごく忙しくなるのかと思ったけど、いつも通りで気が抜けてしまった。
「元旦の翌日に出社させてすみません。おせちを用意したのでお昼に食べましょう」
むしろご褒美です。というか、連休ももっと短くしてくれて構いません。店主さんの料理が食べれないもん!
「ご主人はこの店に来て強欲になったものじゃ。それよりも疫病神から何か渡されたじゃろ」
「あ、そう言えばそうだった」
「何ですか……わー、これはまた凄いものですね」
店主さんが引くレベルのものだったの!?
「『特級呪物』とも言えるものですね。急にこんな物を見せられたので驚いて唾が変なところに引っかかりましたよ。こほこほ」
「そんなに凄い物なんですか?」
「そうですね。疫病神様の伝言通り、これには簡単な封印が施されています。この封印を解くと病の『気』があふれ出てきます。簡単に言うと、封印を解いた瞬間、ここにいるワタチ達は全員風邪をひきますね」
とんでもないものをサラッと渡してきたんだ。
処分に困っていたと言っていましたが、そんなに危険なものだと売り物にならないのでは?
「普通に使えばかなり危険ですが、これは『特級』です。分類としては悪魔道具ですが、悪魔が付与されていないタイプで扱いは難しいものですが、裏を返せば欠点無く周囲は風邪をひきます」
「風邪をひくのが欠点では? というか利点がありませんよ?」
「ふふふ……これは病を重複させるのではなく、上書きするのです。例えば百人がインフルエンザにかかっている場合、この袋の封印を解くと、全員が風邪になります」
え、それってすごいのでは?
あらさがしをするとすれば、健康な使用者も絶対風邪になるらしい。百人のインフルエンザ患者を助けるために、医者なども風邪になるけど、一気に重症化が減るそうだ。
一方で、これを渋谷の交差点で使えばその場にいる数百名が風邪になるという危険物でもあり、使い方が難しいらしい。
「どうしてこれを悪魔店主なんぞに渡したのじゃ?」
「処分に困っていたということは、神として処分できないものなのでしょう。時々そう言うものもあるんです。神様も同業者や友には甘いところもありますからね」
そう言って店主さんは袋を金庫の中に入れた。普段はあまり開けることはない特別な悪魔道具が入っている金庫とだけ言われているけど、他には何が入っているのだろう。
「さて、初売りと言ってもいつも通りの営業です。張り切っていきましょう」
「あ、それよりも店主さん」
「はい?」
「今年もよろしくお願いします!」
「のじゃ!」
「はい!」
福袋という言葉がありますが、今回は疫袋って感じですね。 何かと幸せや不幸は袋に入っている物語も多く存在してますし、神社に行くと袋や巾着などがあって中にお守りが入ってますよね。




