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悪魔の頭蓋骨


 ☆


「おはようございぎゃー!」


 朝、お店に入ると、カウンターの上に頭蓋骨が置いてあり、目が光っていた。

 そして僕が驚くと同時にガウスが僕に向かってじゃれてきた。


「びっくりしたー。おーガウスー。お留守番偉いぞー。僕に会えて嬉しいんだなー」

「違うぞご主人。先ほどすごく驚いたから、恐怖を喰らう犬のガウスがご主人の恐怖を思いっきり堪能してるだけじゃぞ」


 事実を言うなよ。

 ちょっとでも驚いた僕をごまかそうとしているんだから。


「あ、すみません。ちょっと置く場所が無かったので、そこに置いてました」


 バックヤードから水色髪で赤い目を輝かせている店主さんの登場。いつも通り小さいけど頼もしい。


「この頭蓋骨は人体模型の頭だけのやつですか?」

「いえ、これはこれで単品で『悪夢の頭蓋骨』というものです。これと目が合ったら『人生で一番怖い夢を一度見る』ことになります」


 ……え?


「さっき目が合いました」

「あきらめましょう。はい、ではそろそろお店をー」


 ちょっと!


 ☆


 仕事用のエプロンを着用して、先ほどの頭蓋骨を箱の中に入れると、イナリが頭を撫でてきた。


「悪夢を見るならおそらく寝相がひどいじゃろう。ワシは今日、徹夜でもしようかのう」

「イナリの事情を僕に話してきても仕方が無いよね?」


 イナリは僕と契約している霊体で、特殊な粘土を加工して人の体(狐の耳に狐の尻尾あり)で生活をしているが、契約をしているせいで睡眠という無意識の状態になると体が勝手に契約者に近づくという状況にあるらしい。

 つまり、毎朝イナリの寝顔を見て起きている。最初は驚いたけど、今は慣れたものだ。


「そもそもなんでこの頭蓋骨が置いてあったんですか?」


 僕がそう言うと、店主さんは似た道具を持ってこっちに来た。


「そろそろ近所の幼稚園で文化祭があるんです。お化け屋敷コーナーに置く物を取り出そうとしたら、上位版が手前にあったんです」

「上位版……てことは、店主さんが持っているそれは廉価版ですか?」

「そうですね。名付けて『悪夢の頭蓋骨ちゃん』です」


『空腹の小悪魔ちゃん』みたいな言い方で、ちゃんを付ければ良いというものでは無いと思うけど。

 店主さんの持っているソレは、頭蓋骨の形のぬいぐるみである。なんというか悪趣味だ。


「ワタチが夜なべして作りました」

「凄い可愛いぬいぐるみですね!」

「おい悪魔店主。今ご主人が悪趣むぐっ!」


 僕のプライベートを盗み見てそれを告げ口するなんて、なんて契約霊だ。


「可愛いよりは悪趣味の方が誉め言葉ですね」


 そうなの!?


「これは園児向けに作ったもので、子供たちにとってはこれくらいがちょうど良い怖さかなーくらいで作りました。実際どのように受け止めるかは子供たち次第ですね」

「まあ、壁のシミが人の顔に見えたら驚くくらいですからね」

「そうですね。そしてこれは『悪夢の頭蓋骨』の廉価版。つまり、ちょっと怖い夢を見せる道具です」


 ちゃんと効果はあるんだ。


「のう悪魔店主。別に怖い夢をわざわざ見せる必要があるのかのう?」

「要望があったんですよ。子供の夢というのは意外と大人になっても覚えていたりするトラウマのような物です。それが大人になって些細なものに感じたとしても、当時感じた恐怖は覚えている物です。その恐怖をきっかけに良い子に育てば良いのですよ」


 本当に店主さんは悪い悪魔に思えない。子供のことを思って作ったのであれば、それは善意なのでは?


「ちなみに、その頭蓋骨は悪夢を見せる代わりに何が代償なんですか?」

「これは『悪夢を見せる』というのが目的で、代償は『そこで生まれた傷を残す』というものです。つまり、先ほど言った『子供のころに見た夢は覚えている』をマジでやってくれます」

「欠点だと思ったらそれが目的なんですか!?」


 いや、今までもそういう道具はいくつかあったけど、欠点が利点で、その上で欠点があるって、なかなかひどくない?


「悪魔や悪魔道具とはそういうものです。欠点だけの暴れる悪魔もいますし、思った通りの願いを叶えてくれず、その上で代償を要求する悪魔もいます。例外はありますが、どう転んでも最終的には痛い目を見るのが悪魔道具ですね」


 今回の『痛い目』というのはデコピン程度のものだけど、確かに今までの道具も欠点はあった。

 悪魔の考えていることを完全に理解することは不可能だけど、所々で理解しないと身を亡ぼすんだろうなーと、ちょっと思った。


 ☆


 夕方になり、幼稚園の関係者と思われる奥様が登場し、周りの不気味な道具を見て、


「まあ、なんて気持ち悪い!」

「悪趣味だわ!」


 と暴言を吐きまくっていた。うん、僕も同意見だけど、そういう店なんだから仕方がないと思うよ?


「こちらはポップな頭蓋骨ですね。ちなみにリアルな方もあります」

「ひい!」

「今目が光ったわ!」


 ……今、意図的に目をお客さんに向けていた気がする。

 というか、あの店主さんが手を震わせてるということは、内心かなり怒ってる!?


 しばらくして帰っていくと、店主さんは大きなため息をついた後に不気味な笑みを浮かべた。


「えっと、他の雑貨店なら驚く商品ばかりですけど、オカルトショップで気持ち悪いとか悪趣味って暴言を吐かれるのはお門違いですよね」

「フォローありがとうです。ですが、気持ち悪いというのは場合によっては正解です。まあ、言葉に悪意があったので、仕返しはしましたがね」

「あの意図的に上位版の『悪夢の頭蓋骨』を見せていたやつですか?」


 そう言うと、イナリが僕の服の裾を引っ張った。


「本質はそこでは無いぞご主人」

「え?」


「あの悪魔店主、手を小刻みに震わせて『何度も頭蓋骨と目を合わせて』たぞ」


 え、怒りで震えていたんじゃないの?


「ふふふ。『これと目が合ったら人生で一番怖い夢を一度見ることになる』というのは、二回目を合わせたら二回怖い夢を見せるのがこの道具の面白いところです」


 なにそのボタン連打するような効果。


「安心してください。あ、この情報は今の柴崎様にも関係があるお得な情報です」


 そう言えば僕は今朝、この頭蓋骨と目が合ったんだっけ。


「怖い夢を見る呪いは野良神社の疫病神様が解呪できます。一回五千円です」

「イナリ、今すぐ野良神社に行くぞ! あと、やっぱりここでもつながってたんですね!」


 壁のシミやコンセントの穴が顔に見えるパレイドリア現象は経験が浅い子供にはよくある事ですね。

 そして今回は店主さんがささやかに仕返しをする回でもあります。悪魔にとって『一回』というのは無限にもなりうるもので、それを逆手に取った仕返しとなります。

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