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強欲の招き猫


 ☆


 今日は野良神社へ久しぶりのお使い。というか、出先の仕事である。


「以前『護摩木』を持って来たが、今回は何を持たされたのかのう?」

「なにやら封印されているっぽいから、僕もまだ見ていないんだ」


 サッカーボールくらいの大きさの木箱。それを一生懸命持って登り参道を歩くイナリ。僕が持つって言っても譲らなかったからとりあえず持たせてたけど、やっぱり大変そう?


「おや、そう言えば悪魔店主さんが入れないからここで待ってましたが、お二人は普通に入れることを忘れていたです。ケホケホ」

「疫病神さん、こんにちは」

「こんにちはじゃ」


 相変わらず体調不良の疫病神さん。紫色の髪に店主さんと同じく短髪。そして額には冷却シートと頭の上には水袋がある。ドテラを着ていて、いかにも病人という感じだが、ふらふらしつつもしっかり歩くことはできている。


「ちなみに現在の体温は四十度越えです。なかなか辛い食事でしたです」

「無理しないでくださいよ!」


 と、思わず大声で突っ込んでしまった。疫病神さんのことは一部の人しか見えないらしい。

 そうそう、社員証である『邪神の刻印入りネックレス』は中に入るときは専用の巾着袋に入れなければいけないんだった。


「今回届けてくれた品はそちらのイナリさんが一生懸命持っている箱ですね。こちらへ来てくださいです」


 ☆


 本殿の裏の庭。前にもここに来たことがあるけど、今日はここで何をするのだろう。


「今日は世にも珍しい招き猫の処分ですね」

「招き猫の処分?」


 箱を疫病神さんに渡すと、中から立派な猫の像が出てきた。

 招き猫といったら、どっちかの手が人を招く、どっちかの手がお金を招くとかだったと思うけど、目の前にある招き猫は両手を挙げていた。


「『強欲の招き猫』というものです。ちなみに両足も挙げていて、尻尾も上がっています」


 よく見ると尻もちをついていた。


「でも疫病神さん、どこかのお土産で両手を挙げた招き猫を見たことがあるのですが、それとは違うんですか?」

「年季の違いや、招いたモノの種類によって変化します。物によっては幸福を呼び寄せる象徴になりますが、この『強欲の招き猫』は不幸や不運も招きます。ただ、種類としてはヤクたち側の神聖な道具になります」


 不運も招くのに神聖な道具扱いなんだ。


「ご主人よ。不運を招くから悪魔の道具とは限らぬぞ」

「イナリは何か知ってるの?」

「うむ。先日テレビで見たのじゃが、縁切り神社たるものも存在する。これは不運を断ち切ることもできるが、同時に幸運も断ち切ることもできる。内容だけでは判断できぬから、ワシもどっちに就けば良いのか分からぬのじゃ」


 イナリは今、中立の立場で存在している。このままでも問題はないらしいけど、今の体を維持するには食事と睡眠が必要。つまり、僕がもしもこの世を去ったら一人で生きていかなければいけないらしい。


「神も悪魔も表裏一体です。ヤクは神になって良かったと思う時もあれば後悔することもあります。ただ、この招き猫のように中途半端にどちらとも言える道具のような存在になることは避けてくださいね」


 そう言って疫病神さんは手から青い炎を出して、強欲の招き猫を燃やした。すると、頭の中で猫の鳴き声が聞こえた気がした。


『あついニャ……やめてニャ……』


「疫病神さん! 声が聞こえたよ!?」

「無視してください。依り代が燃えた所で霊体となるだけです」


『マジで……熱いニャ……』


「マジで熱いって言ってるよ!?」

「うるさいです。てい!」


 とてつもなく大きな青い炎を出して、一気に『強欲の招き猫』を燃やした。


「うむ。先ほどの炎を悪魔店主に当てたら、一気に消えてしまうほどの威力じゃ。逆に人に当てても傷ひとつつかない物じゃな」

「神側の特権ですからね。さて、あとは燃やした灰を……」


 強欲の招き猫は灰も残らず、消えていた。


「結果的には良いですが……まあ、何か起こったら悪魔店主さんに相談しますです」


 ……本当に大丈夫なのかな?


 招き猫にも色々な種類がありますよね。両手を上げて「お手上げ」とか、ごろんとして「手も足も出ない」とか、招き猫一度で招かないパターンも作れちゃう優れもの……いや、優れネコですね。

 悪運も招く猫も世の中には存在するとか?

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