インスタント悪魔
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僕は今、夢を見ているのだろうか。
というのも、お昼ご飯になって、いつも通りバックヤードに向かったら、テーブルの上にインスタントのカップラーメンが置いてあったのだ。
パッケージは無く、真っ白な容器。そして中には乾燥麺が入っていた。
「店主さーん!」
「うああ!? ど、どうしました!?」
僕は誠心誠意を込めて土下座をした。
「僕やイナリが何か悪いことをしましたか!? 心当たりが無いので、もしどこかで店主さんを傷つけていたのでしたらこの通り謝罪します!」
「おいお主。何ワシも巻き込んでおるのじゃ!?」
「ああ、誤解ですよ。お昼ご飯に出したメニューが質素に見えたので、誤解を与えてしまいましたね」
質素に見えたって……いや、店主さんも忙しいし、もしかしたら今日は手が離せないからカップラーメンだったとかかな。いつも美味しいご飯を食べていたから、当たり前に感じていた。
「これはワタチが全力で作ったカップラーメンです。ちょっと魔術とか使って真空にしたり、野菜のうま味をあらゆる方法で抽出して作成しました」
「どうして調理工程を見せてくれなかったんですか!?」
魔術を使って食材を真空にしてって、僕がお店で対応中にバックヤードで何やってたの!?
「ワシは気が付いておったぞ。バックヤードの空間が若干歪んでおったからな」
「危うくブラックホールを作るところでしたが、無事に凄く手の込んだカップラーメンを作ったので、食べてみてください」
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お昼を食べ終えて、今日の午後は店主さんとイナリと僕の三人で野良神社に行くことになった。
ちなみにカップラーメンは普通だった。うん、何というか……美味しかったんだけど、いつものご飯の方が美味しいと思った。
「それにしても今日は珍しく店主さんも野良神社に行くんですね。中に入るんですか?」
「いえ、柴崎様は中に入ってお客様の対応はお願いします。ワタチとイナリ様で外にこちらを配置します」
そう言って店主さんが先ほどから持っていた小さな箱の蓋を開けて見せてくれた。
小さな人形……って感じだけど、何やら禍々しい雰囲気を醸し出している?
「『インスタント悪魔』です。ここに少量の血を刷り込むと、少しだけ大きくなります。少量の血であれば大きくなるだけなので害はありませんが、一応イナリ様が常に警備することになります」
「ぬ!? 悪魔店主よ。もしや野良神社に悪魔を仕掛けて乗っ取るつもりか!?」
「違いますよ。今日は野良神社で神事があるんです。おっと、野良神社のお話をしていたら、そこの神様が入口で待ってますね」
野良神社の鳥居の前には、額に冷却シートを付けてせき込んでいる疫病神さんが立っていた。
「こんにちはです。そう言えば柴崎さんがいるので、入口で待つ必要はありませんでしたね」
「ということで柴崎様は神主様にご挨拶とお金の受け取りをしてください。ついでに疫病神様から今日の神事についてお話を聞いてみると良いかもですね」
そう言って店主さんとイナリは鳥居の前で準備をし始めた。僕は言われた通り疫病神さんについていき、どういう神事を行うのか聞いてみた。
「鳥居の前に悪魔を召喚するって、どういう行事なんですか?」
「強いて言えば『厄払い』です。他の神社では焼いたり、お祓いなどを行いますが、ここ野良神社では鳥居の入口に悪魔を模した人形を出して『この先は鬼が入れない神聖な場所です』という感じを出します」
へー。感じを出すんだ。
「感じではなく、マジの悪魔を出したら『感じ』ではないのでは?」
「実は本物だったというドッキリです。ただ、これに気が付くのは一部の人間さんだけですね」
そう言ってせき込みながら笑う疫病神さん。本当にいつも体調不良っぽいから心配である。
「そもそも悪魔や鬼が神社の中に描かれたり、像が置かれているというのは珍しくありませんです。日本国外でもお寺の中に大きな鬼の像がありますです」
「お寺の敷地内に鬼がいるのって、なんか不思議ですね」
「悪と神は近しい存在です。互いに反発しあう関係であり、同時にどこかでは共存している関係でもありますです」
以前店主さんも似たようなことを言った気がする。悪者が居なければ正義の味方は武器を持ったただの人みたいな感じだったような。
そして疫病神さんと店主さんの関係は神と悪魔の関係。深く干渉はできないけど、一方で共存はしている不思議な関係である。
「おお、寒がり店主のオカルトショップの店員さん。いらっしゃい」
マッチョな神主が登場。いつ見ても笑顔が眩しい。
「商品を鳥居の入口に持ってきました。今店主さんが準備をしています」
「いやはや、今年は人手が多くて助かる。どれ、商品を確認してみようか」
☆
僕とイナリと神主さんと疫病神さんは口をぽかんと開けて見上げていた。
「いやー、今年は張り切っちゃいました。ワンオペでは無くなったので片手間では無くしっかり作りこみができたので、しっかり大きな悪魔を作れました」
「何やってるです悪魔店主さん! 鳥居よりも大きな像が突然出てきたなんて、色々と怪しまれるです!」
「登り参道の先にこんな大きな像。夜中にどうやって持ってきたのか、近所から聞かれるかもしれないな……」
大きな金棒を持った鬼の巨像。鳥居よりも大きく、おそらく十メートル以上はあるかもしれない。
「イナリも近くで見てたんだよね。これって大きさの調整はできなかったの?」
「うむ、悪魔店主の血を一滴入れて、後は待つだけじゃ。乾燥わかめのようにバシバシ大きくなって、こうなってしもうた」
「安心してください。これでもあらゆる呪縛は施しています。『なんか目は動いていますが』それ以外は大丈夫です」
『ガガガ……ゴゴゴゴ……』
「本当に大丈夫!? 今一瞬腕がぴくぴく動いていたよ!?」
絶対封印が解けそうな感じなんだけど!
「いざと言う時はヤクが何とかしますですが、ヤクが手を出さざるを得ない状況が発生した場合は今回の支払いは無償で良いですよね?」
「え!? これ作るのに結構良い素材使ったんですよ!?」
「悪魔店主さんが勝手に良い素材を使っただけで支払う予定のお金は変わりませんです」
「うむむ、わかりました。ですが、わざと封印を解いたりしないでくださいね!」
その後、数日間が店主さんがソワソワしながら、店番を行い、無事に神事期間中は何事も起こらず、インスタント悪魔は無事に土へと還っていった。
……インスタント悪魔って、なんか語呂が良いなーと思った。
タイにはお寺の中に鬼の像を置いてあったりしますが、今回はその辺のお話を混ぜ込んだ形にしました。
神と悪魔。ゴッドとデビル(デーモン)など、言葉は異なるのに意味はほとんど同じで、色々な宗教を調べてみると同様の関係を持つ存在が登場しますね。
ただ、必ずそうとは言えず、私が知らないだけで一つだけしか無かったり、大きく三つ以上存在するなどもあるかもしれないですね。
あと、インスタント悪魔は何となく使いやすそうなので、今後どこかでまた出したいかも?




