邪気の石板
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寒がり店主のオカルトショップには色々な本があり、半数は読んだら悪魔と契約して何かしらの恩恵を受けつつ何かしらのリスクを負う物。
もう半数は辞典のようなもので、例えば西洋の悪魔について書かれていたり、日本の妖怪が書かれていたりする。一般的な書店でも読めそうな本だね。
「店主さん、質問良いですか?」
「はい、何でしょう」
「本は多いですけど、石板はあまり置かないんですか?」
「良い着眼点ですね。そこにはありませんが、棚の中にはあります。そう言えばまだ教えていませんね。イナリ様にも教えますから、ついでに来てください」
そう言って僕とイナリは店主さんについていった。
と言っても、狭い店の中を歩くだけで、ついていくというほどの距離は無い。
店主さんが立ち止まると、本棚の下に引き出しがいくつかあり、そこを開けると鼠色の大きな石板が入っていた。
「数ある石板の一つで、これは『邪気の石板』というものです。ワタチは悪魔なので効果がありませんが、柴崎様が持つと効果が出ます」
「持って大丈夫系ですか?」
「ケガはしないですね」
ケガが無いなら良いか。
そう思って僕は店主さんから『邪気の石板』を受け取った。しかし特になにも光ったりせず、何というか無反応だった。
「ふむ、それは不良品かのう?」
「場所を取るだけの邪魔な置物くらいかな。この大きさならイナリの椅子くらいにはなる?」
「流石にそれはお尻が痛くなるのじゃ」
「それ以前にイナリってホムンクルスだし、痛覚とかあるの?」
「……うう、おいご主人、さっきからなんか言葉が強くないかの!?」
……ん?
言われてみれば、普段イナリに言わないようなことを言ってる気がする。
と、疑問に思っていると店主さんは僕から『邪気の石板』を僕の手から取り、説明を始めた。
「『無邪気』という言葉があるように、この石板を持つと反射的に悪い言葉を言ってしまいます。柴崎様の場合はそれほど強い言葉を持ち合わせていないようなのでこれで済みましたが、富樫様などが持つと暴言のマシンガンが発動します」
「ケガしないって言っておったが、ワシの心に傷がついたぞ?」
若干涙目のイナリの頭を撫でた。すると少し表情が笑顔になった。
「石板と言ってたから、てっきり文字が書いてあって、それを読んだら大変なことが起こると思っていました」
「もちろんそういうものもあります。石板の大きな欠点は文字がむき出しになっているので、見た瞬間読んでしまう場合もあります。これは持った時に効果が発生するもので、さらに書かれてある文字を読むと……いえ、これ以上は危険なので止めましょう」
すごく気になるけど、店主さんが危険と言った物は命に関わる物だから聞かないでおこう。とりあえずイナリの頭を撫で続けよう。
☆
石板の保管場所だけは教えてもらい、簡単なメモを取った。
禍々しい名前の石板から、変な名前の石板。もはや文字では表現できない石板もあり、この店の在庫は一体どうなってるのか改めて驚かされた。
「これらの石板も店主さんが作ったんですか?」
「半分くらいは作りました。いくつかは買い取ったもので、いくつかは依頼されてここで保管しています。柴崎様が来る前なんかはエジプトの石板も預かってたんですよ」
……ファラオの石板でもあったのかな。そんなのがこんな日本の路地裏にある雑貨店にあって大丈夫なの?
「ちなみに日本でも石板で後世に残されたものもあります。一般的には石碑や墓石がそれにあたります」
「言われてみれば、石碑には文字が書かれていますね」
「日本では木で家を作っていたので、石に何かが描かれた物というのは他の国と比べて少ないですね。とは言え、まったくないわけではありません。これを機会に探してみても良いかもですね」
そう言って僕に一冊の本を渡してくれた。
僕が開くと、横からイナリが顔をぐりぐりと押し出してきて、一緒に本を見た。
『世界の石板:悪魔にまつわる面白物語初心者編』
……悪魔に初心者ってあるの?
物語の中にあったように、無邪気という言葉がありますが、これは子供にだけ使われる言葉だと解釈しています。子供は無邪気に遊ぶという言葉はありますが、大人が無邪気に遊ぶってなんかサイコパスな感じがしますよね。
知識が無いからこそ何も考えずに行動するのと、知識がある大人がその先に起こることを知りつつ行動することでは受け方が違うような気がします。あくまでも私個人の意見ですけどね!




