色取紙
☆
「イナリちゃん可愛いー!」
「えー、触って良いー?」
「うむ、構わぬ」
昨日、イナリが本気で魔術を発動したところ、髪が金色に変化した。今まで銀髪というか、白髪だったから、それなりに目立ってはいたんだけど、さらに眩しく見える。あと……可愛い。
「見事に看板娘の座が奪われた感じですね」
「店主さんは店主ですよ」
「それはそうですが、ふむ、ちょっとジェラシーを感じるので何か道具を探しますか」
店主さんも嫉妬とかするんだ。というか、以前何度か店主さんのことを可愛いと言ってくる女子高生とかいたけど、結構喜んでいたのかな。
☆
閉店時間になり片付けをしていたところ、店主さんがイナリを呼んだ。
「イナリ様。その金色の髪だと眩しいので、こちらの道具を使ってください」
「うむ? 別にワシは困っておらんが……まあ世話になっている悪魔店主が困るのであれば使うのじゃ」
そう言って店主さんから渡されたのは透明なビンと透明な液体だった。
「塩酸です。頭からぶっかけてください」
「ハゲるわ! いや、そもそも作り物の体が溶けるわ!」
悪魔道具じゃなくてシンプルな薬品だった。というか、そんな危険なものもバックヤードにあるんだ。
「店主さん、悪魔道具で脱色するものとか無いんですか?」
「ふむ、脱色という発想がありませんでした。溶かすか燃やすかハサミの三択でしたね」
「なぜ一般的なハサミを最初に提案しないのじゃ! おおおお、その手から出してる炎をしまえ!」
さらっと店主さんは手から火を出している。あまりにも自然過ぎてぼーっと眺めていたけど、僕の心躍る状況じゃん!
あー、僕が目を輝かせた瞬間、店主さんが手をグーにして炎を消しちゃった。もう少し見たかったなー。
「色を取る紙ならあります。確か……あ、これですね」
そう言って棚の中から付箋のようなものを取り出した。
「あぶらとりフィルム?」
「それと似たものです。ただしこれは『色』を取ります。これも立派な悪魔道具で、本体はこのカバーですが、使う場所はこの紙ですね」
無機物にしか見えないのに、これにも悪魔が付与されていると思うと少しゾッとした。
「百聞は一見に如かずと言いますから、まずはこれを使いましょう。適当にこの神に文字を書いてください」
言われた通り、メモ帳に『牛タン弁当』と書いた。
「はい。では……え、今日の柴崎様のご飯は牛タン弁当なんですか?」
「なぬ!? 塩酸どころの話では無いぞ。どこの牛タン弁当じゃ!?」
「いやいや! 単に今食べたいものを書いただけだから! 今日は昨日作ったカレーだよ!」
話が進まない。というかイナリは今日の献立を知ってるでしょ!
「こほん。ではこの文字を消します。このように紙を一枚取って、擦ると……はい、文字が消えました」
おー。まるで消しゴムを使った感じで消えている。文字も油性ペンで書いたから、砂消しゴムよりも凄いアイテムでは?
「ふむ、なかなか凄い悪魔道具じゃが、それほど売れておらぬと思う。何故じゃ?」
「色を取るので、白い紙やボードにしか使えないんです。しかも必ず白色になるので、白い黒インクという謎物質が誕生するんですよね。実際、ここには『牛タン弁当』という文字が無色で残っている状態です」
それ、多分だけどどこかの研究所に渡したら大騒ぎになるんじゃないかな?
「それを髪に使うのか……ちょっとためらうのう。髪に紙を……」
「くだらないことを言ったので、やはりこっちの塩酸にしましょう」
「ぬあー! 待つのじゃ悪魔店主。頑張って戻すから、少し我慢して欲しいのじゃ!」
イナリの交渉により、しばらくは金髪のまま過ごすことになった。
個人的にも戻って欲しいというか、朝起きると絶対に僕の隣にいるんだけど、金髪の美少女が最初に目に入るんだよね。心臓が破裂しそうなんだよ。
脱色!
ということで、今回は色を取る神でいろとりがみです。彩りから色取るなど、ちょこっと言葉遊びを交えた動画になりますね。
ここでの脱色は『完全な白』となります。白は何百色もあるねんーって言葉はありますが、ここでの白はあらゆる色という色が無いもので、実際それは白色かどうかという考えにも至りますね。




