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ー幕間ー天罰


 ☆


 定休日は決まってホムンクルスの少女のイナリとゾンビ犬のガウスと一緒に買い出しとか散歩をして、家に帰ったら各々自由な時間。ゲームをするもよし、だらだら過ごすのもよし。僕は基本的にガウスに抱き着いてガウスエネルギーを補給している。


「ふと思ったけど、もう少しイナリには遊びに連れていく頻度を上げた方が良いのかな?」

「気を遣うでないぞご主人。ワシ、こう見えてそこそこな年齢ぞ?」

「いや、それはそうだけど、見た目は小さいし、一応世間体もあるでしょ」

「ふむ、先日ご近所の佐藤さんに『どこか旅行に連れて行ってくれないの?』と言われたな。そういうことか」


 僕はどうやら子供に不自由をさせている大人という認識らしい。諸々含めて複雑な家庭環境なのに、その上でご近所の評判も下がっていては、引っ越したのに居づらい日が出てきてしまうね。


 ☆


 とりあえずいつもより遠くまで散歩することになった。

 最近ではガウスのリードをイナリが持って、僕に合わせて二人はトコトコと歩いてくれている。

 そもそもイナリは僕と主従関係ということもあり、現時点ではそこまで遠くに一人で行けないらしい。なんか磁石で引っ張られている感じだとか。

 聞き分けの良い子供という感じだけど、中身はそれなりに長生きをしていた元霊体で人間では無い存在。どのような生活が一番なのかわからないな。


「お、お前!?」

「え?」


 公園の椅子で一息ついていたら、聞き覚えのある『嫌な声』が聞こえた。


「柴崎じゃねえか。ははっ、ここで会うとかついてる!」

「えっと……先輩。久しぶりです」


 前職の僕の先輩で、名前は正直覚えていない。だからいつも『先輩』と言っている。以前横山さんが苗字で呼んでいた気がするけど、思い出せない。


「なんじゃ、ご主人の知り合いか?」

「前職の先輩」

「お前、いつ子供を作ったんだ?」


 作った……という表現は間違いではない。イナリは元々霊体で、特殊な粘土を使って実体を手に入れたいわばホムンクルスである。主従関係というややこしい言葉を使わないで、どういう関係かと問われたら間違いなく僕の子供ではあるが……。


「ワシはイナリじゃ。理由あってご主人の家に泊めてもらってる親族じゃ」

「親戚のガキか。それよりもお前、今かなり稼いでるんだろ?」


 それよりもとかガキとか、やはりこの先輩は自分の事しか考えていないのか。

 そう言えば以前見かけたときは松葉杖を使ってたと思ったけど、今は結構治ったのかな?


「まあ、前職よりは稼いでいます」

「じゃあさ、俺をそこに入れてくれ」

「は?」


 突然何を言うんだ?


「先週俺の働いていた会社が色々と問題発覚して倒産したんだよ。で、今俺は就活中ってわけ。お前の職場だったら知り合いもいるし、働きやすいだろ?」


 僕の前職であるハッピーソフトウェアは倒産したのか。

 先日店主さんと営業に行った際に、店主さんは『この会社は間もなく無くなる』的なことを言っていたし、特に驚くことは無い。むしろ膿がなくなった感じである。


「僕は平社員なので無理です」

「そこを何とかさ。ほれ、そこのガキもおじさんにお願いしてくれよ」


 と、ここで僕の脳内に直接何かが聞こえてきた。


『え、こやつ、どうして初対面のワシにガキって呼びながら、当然のようにお願いしてくるのじゃ?』


 そんなこともできるんだね。え、つまり僕の心も読めるから、頭の中で会話もできるの?


『できるぞ?』


 このオカルト業界にはそこそこ慣れてきたと思ったけど、まだ知らないことばかりだな。


「おい聞いてるのかよ」

「聞いてますよ。というか、僕と貴方は元後輩と元先輩であって、他人同然です。僕が先輩に恩があるならともかく、何もないじゃないですか」

「は? 俺に何言ってるの?」


 え、この人何を言ってるの?


『ガウ!』


 と、ここでガウスが小さく吠えた。てっきり僕に向けて吠えたと思ったら、公園の入り口に向かって吠えていた。


「その鳴き声は……おお、シバじゃねえか!」

「あ、富樫オーナー」


 僕が働いている『寒がり店主のオカルトショップ』のお隣のビルのオーナーの富樫オーナーが、僕に手を振りながらこっちに来た。


「イナリの嬢ちゃんも元気か?」

「うむ、お主も元気そうじゃな」

「で、こいつはシバの友達か?」

「あー、元先輩です。先日会社が無くなって、今就活しているそうです」


 そう言って富樫オーナーは『ほう』とつぶやいて先輩をじっと見た。


「なんだこのおっさんは。柴崎の知り合いってヤバイやつしかいねえな」

「ほう、俺がヤバいやつ……か。お前さん、名前は?」

「三浦。おっさんこそ誰だよ」


 ああー、そうだ。三浦先輩だ!

 なんかすっきりした!


「俺は富樫グループのオーナーをやってる富樫だ。シバの友人ならうちの子会社に入れても良かったが、態度が気に入らねえな」

「富樫グループって、どの富樫グループだよ。町工場の富樫工場ですかー? それとも清掃会社の富樫クリーンですかー?」


 言われてみればいつも『富樫オーナー』って言ってるから、この人がどのオーナーなのかわからない。というか、組織図とか会社の一般的な構造とか僕にはわからないまま前職クビになったもんな。


「今言ったのは全部俺の子会社だな。これでも月間数千億は稼いでるんだが、それでも不満ならどっか行け」


 数千!?

 元先輩もその数字に驚き声を上げた。


「待ってくれ。今のはその……言葉のあやで……おい柴崎、お前からも何とか言ってくれ!」


 一気に手のひらを変えた。というか富樫オーナーってすごい所のオーナーだったんだ。

 そんな人と友達というのも不思議な感覚である。


「そうですね。前職では僕を馬車馬のように扱い、手柄は全部先輩の物ということで、大変社会勉強をさせていただいた偉大な方です」

「ほう、シバが今の店で働き始めた原因ってことか」

「お前、こういう時は良いエピソードを言うもんだろ!」


 僕はゆっくりとイナリの目を見て『凄いだろ。これが僕の前の先輩だぞ?』と念じたら、若干引いていた。

 あとガウスは少しよだれを出していた。もしかして先輩は自身の失言に少し恐怖を感じているのだろうか。


「そういえばちょうど人が足りねえ部署があったな。お前を月収五十万で入れても良いぜ?」

「は!? マジ……本当ですか!?」


 え、ちょっと待って。今の流れは完全に見捨てるやつでは!?


「へへ、やはり持つべきものは後輩だな。えっと、富樫オーナー。俺、頑張ります!」

「おう。お前の連絡先と住所を教えろ。明日から早速働かせてやる」

「わかりました!」


 そう言って先輩は連絡先を渡し、スキップして帰っていった。


「と、富樫オーナー。はっきり言いますが、あの先輩はあまり良い人間では無いと思います」

「そうだな。上下関係すら欠落している。『取り返しがつかない』ことをあいつはやったんだ」

「でも、月収五十万円って……」

「良いことを教えてやる。俺がいる富樫グループはグローバルな企業でな。あいつには『月収五十万』としか言ってねえぞ?」


 ……つまり、国外?

 場合によっては日本円にすると数百円ってことに……。


「悪魔店主には言うなよ。俺も時々あるんだ。職権乱用で気に入らないやつをどこかに飛ばすとかな。それは多分、悪魔よりも悪魔な行為なんだろうよ」


 ☆


 数日後、富樫オーナーから封筒を渡され、そこには一枚の写真が入っていた。

 日本では無いどこかの工事現場での集合写真っぽいけど、そこにいる人たちは全員服がボロボロだった。だが、皆笑顔だった。


 一人、見覚えのあるような無いような、やせ細った人を除いて。


 転職活動中に知り合いが働いていたという「エピソード」は結構聞きますが、それは宝くじで3等くらいが当選した確率かなーと思ってます。良くも悪くも偶然ってすごいですよね。


 

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