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吸血薔薇の万年筆


 ⭐︎


「この商品をそろそろ出して、そちらは一旦バックヤードに入れましょう」

「はい。この本を……おっと」


 忘れないようにメモを取っていたのだが、まさかのインク切れ。


「すみません、店主さん。ペンって売ってないですか?」

「ペンはありませんが、今日一日だけでしたら、ワタチの万年筆をお貸ししますよ」


 そう言って、木製の万年筆を手渡してくれた。

 試しに紙に書いてみると、赤いインクがすらすらと走る。どこにインクカートリッジが入っているのか分からない、不思議な形をしていた。


「あ、使いすぎにはお気をつけください。それ、使用者の血液を吸って、筆先に出す仕様なので」

「この赤色って僕の血!?」


 わー、想像以上にヤバいやつだった!


「初めて見る道具ですけど、非売品なんですか?」

「はい。これはワタチが悪魔の道具を作る際に使用するもので、最少量の血で悪魔文字を書ける優れモノです。指で描くと太くなって失敗しますからね」


 さりげなく、すごいことを言ってない?


 ⭐︎


 在庫が減ってきたので、店主さんが新しく道具を作るらしい。初回ということで、作業の様子を見せてくれることになった。


「もしかして、全部店主さんが作ってるんですか?」

「レプリカグリモレベルの物は掘り出し物ですけどね。空腹の小悪魔ちゃんキーホルダーや分岐カメラ、この吸血薔薇の万年筆程度なら作れますよ」


 「程度」とか言ってるけど、どこが基準なのか分からない。というか、僕は小悪魔ちゃんキーホルダーすら作れないし、そもそもあれって簡単に作れるようなモノなの……?


 作業自体は、見るぶんには簡単そうに見えた。店主さんが各地で集めた古い箱や衣服に、万年筆を使って何かを書き加えるだけ。


 空腹の小悪魔ちゃんキーホルダーについては、粘土を丸めてコウモリの羽を突き刺し、ものすごい速さで目を描き込んでいた。もはや職人芸である。


「で、これに術式を唱えて、ポンしてポポンすれば、呪物の完成です。アンニャラーホニャラーっと、はい!」


『ギャギャギャ!』

『グッゴアアア!』


「ぬあああああ!?」


 突然、服や小悪魔ちゃんキーホルダーが動き出した。いや、術式って何だったの!?

 動くのも意味不明すぎて、夢でも見ているような異様な光景だった。


「ほらほら、先ほど契約に入れたとおり、ワタチとこの人には襲いかからないでくださいね。購入者が現れたら新しい契約を結びますから、それまでは大人しくしていてください」


『ギャ』

『ガ』


 店主さんの一言で、『商品たち』は床にぼたぼたと落ちた。


「とまあ、こんな感じで生産しております。本当は柴崎様にもお手伝い願いたいところですが、さすがに悪魔契約はさせられませんので……この散らかった状態を整理していただけるだけでも、大助かりです」

「て、手伝います!」


 ⭐︎


 一通りの片付けと、お客様対応を終えるころには、あっという間に一日が終わっていた。


「ふう、今日も良い一日だった気がする」

「それは何よりです。あ、明日は定休日なので、お休みですね」

「え、社会人に休みってあるんですか?」

「貴方の前職の上司、ワタチより悪魔ですね!」


 本物の悪魔に驚かれてしまった。


「いやあ、毎日やりがいがあって楽しかったので、逆に休みって何をしたらいいか分からなくて」

「そうですか……おや?」


 店主さんが僕の後ろを見た。そこには、ガウスがちょこんとお座りして、こちらを見ていた。


「でしたら、ガウスと一緒に散歩でもいかがですか?」

「え、でもガウスって所々中身が見えてて、危なくないですか?」

「ガウスも立派な悪魔です。力が足りないだけで、それを補えば一時的な修復は可能です。この吸血薔薇の万年筆を、この器に突き立ててください」


 言われた通り、白い器に万年筆を突き立てると、赤いインクがすーっと流れ出し、やがて血だまりとなった。


「これをガウスに飲ませてください」

「ガウスに……ですか?」


 恐る恐る差し出すと、最初は匂いを嗅いでいたガウスが、やがて舌で血を舐め始めた。うわ、自分の血を飲んでる!


 しばらくして飲み終えると、ガウスの見えていた傷跡は消え、見た目は普通の犬になっていた。


「おおー! これなら普通に散歩できる!」

「見た目だけは完璧です。ただし一点、注意点がございます。この子は悪魔です。冗談でも“あの人を噛んで”などと命令なさらぬよう。本気で噛みに行きますので」


 さらっと恐ろしいことを言うなあ。でも、たしかに剥製だったわけだし……。


「あ、でも明日、一度お店に寄らないと」

「なぜですか? ガウスを連れて帰れば、朝から一緒にお散歩できますのに」

「いや、僕アパート暮らしで……ペット禁止なんです」

「これ、剥製ですよ?」

「……たしかに」


 なんだか脱法している気分になる!


「万が一誰かが来ても、“剥製になれ”と命じれば、一瞬で元の姿に戻ります。柴崎様の血を与えた今、この子の主は貴方です。むしろ、ワタチの命令はもう通じません」

「え、ずっと一緒にいたのにですか?」

「悪魔とはそういうものです。ワタチは少々特殊ですが、他の悪魔に情けや人情はありません。ガウスも、主が変われば懐かなくなります」


 冷たいなあ。まあ、剥製だから冷たいんだけど。


「分かりました。じゃあ、明日はガウスと一緒にお散歩して、楽しい休日にしますね」

『バウ!』


 植物に触れると肌が荒れる『草負け』って、植物にあるすっごい細い棘が刺さって、そこから肌荒れの原因になる液体を出すとか出さないとか。

 今回はその植物が人に刺さるという部分からヒントを得ました。もしかしたら調べれば血を吸う植物があるかもですね。食虫植物がいるくらいですものね。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  >「これ、剥製ですよ?」  ❆(;❅▽❅)❆9Σ なるほど、ペット禁止のアパートでも、そんな抜け道が!! (T_T )「悪魔だけどな」
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