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遅発の懐中時計


 ☆


 お店に入った瞬間ガウスを撫でまわした。二日も会えなかったんだから、目一杯可愛がらないと!


『ガ……ウ……』

「店主さん! ガウスが調子悪そう!」

「親バカですか。落ち着いてください」


 だって、ガウスの動きが凄く鈍いんだもん!


「防腐剤を少し飲ませましたからね。ちょっと動きが鈍いだけで明日には良くなります。撫でるのは良いですが、あまり強くワシャワシャしないでくださいね」

「よかったー。よーしよし、あ、強く撫でたらダメか。ぽんぽん」

『ガウ……ガウ……』


 なんとなく目はニコっとしているから、喜んでいるッぽい。


「それよりも休日は有意義に過ごせましたか?」

「はい。図書館に行ったらクアン先生と会って、悪魔道具が書かれてある小説を読ませていただきました」


『ノルディルアンクの開拓記』という小説で、各地の悪魔道具や聖剣などが物語の中でたくさん出てくるんだけど、その説明のほとんどは間違いが無いとのこと。

 物語もわかりやすくて、今でも色々と思い出せるほど面白かった。


「休みの日も勉強するとは……いっそワタチの友人を頼ってハワイ旅行をさせた方が良いですかね」

「好きで図書館に行っただけですから! というか、そんな福利厚生が突然出てきたらさすがに怖くなります!」


 クアン先生との話はとても楽しかったし、疫病神さんとの話も楽しかった。

 思えば僕は前職でまったく会話をしなかった。横山さんだけがちょっとだけ話をしてきただけで、思い出せる会話なんてほとんど無い。

 やっぱりここへ転職して良かったと思った。


「そうだ。昨日読んだ本で出てきた道具で、一つ気になるのがあったのですが、聞いて良いですか?」

「まあ、クアン様の勧めた本に出てきた道具ならきっとあると思いますが、何ですか?」


「時間を停止させる懐中時計ってあるんですか?」

「女湯でも覗くんですか? あったとしても渡しませんよ」


 ひどい誤解を受けてしまった。うわー店主さんがさっきまで尊敬の眼差しで僕を見ていたのに、今度はジト目だよ。


「いや、時間を止められたら無限に勉強ができると思って。店主さんと違って僕の時間は限られていますからね」

「思ったよりもまともな考えに驚きました。やはりハワイ旅行をどこかで計画しますか」

 

 このお店の福利厚生はやはりバグってるよ。真面目に働くとそれ相応の報酬が来るって思ったら、想定した以上の報酬で殴りかかって来るよ。


「残念ながら時間を止める時計はワタチの管轄外です。『時の女神クロノ様』が時間を管理しているのですが、数秒単位で調整する際に使うそうです。いわゆる神具ですね」


 時の女神クロノ様って何?

 急にファンタジーな話を始めたんだけど!?


「代わりにこんな懐中時計ならあります」


 そう言って店主さんはバックヤードから道具を取り出した。やっぱり何かあるんだ。


「『遅発の懐中時計』です。使用者がこの時計の押しボタンを押している間はどんな痛みも感じませんが、押しボタンを放した瞬間痛みが一気に襲い掛かります」

「おおー。悪魔道具で懐中時計って、なんかそれっぽい」

「それっぽいってなんですか。とりあえず取り扱いには気を付けてください」


 試しに懐中時計のボタンを押した。おおー、確かに痛みは感じない。というか、何も感じない。飛び跳ねても足に感触が無いから、浮いているみたい。


「あ、ボタンを放してください」

「え、はい」


 そして僕はボタンを放した。


 次の瞬間、ありえない足の痛みと腹痛と目に痛みが襲い掛かった。


「いった!? ……っと、一瞬で引いたけど、え、今の痛みは?」

「この商品は実のところ非売品でして、このようにあらゆる痛みを蓄積します。飛び跳ねたときの足の感触も痛みとして蓄積され、まぶたの瞬きの感触も蓄積されます。このボタンを押した瞬間強く目を擦ったら、失明するほど危険なんですよね」


 あぶな!?


「なんでこんな道具があるんですか?」

「いえ、ワタチも想定外だったんです。最初は痛みを伴いながら出産するという負担を分散させればなーと思い作成したんですが、まさかの痛みが蓄積するなんて思いませんでした。仮に品質チェックせずにお渡ししたら、最悪なことになってましたよ」


 出産の痛みって気絶するって聞いたことがあるけど、数時間の痛みが瞬時に襲ってきたら、体がもたないのでは?

 先ほどのジャンプだけでも足にはかなりの痛みが出たし、もしうっかり転んだりしたらとんでもないことになりそう。


「だったら処分してしまった方が良いのでは?」

「そうですね……あ、そろそろ野良神社で定期的に行われる消呪の日ですね。しかもいつもなら富樫様にお願いをして処分してますが、今回は自社で行えます。やはり柴崎様を雇って正解ですね」

「外に運ぶんですね。なんでも言ってください」

「本当に聞き分けが良すぎて怖いですね。多少嫌がっても良いのですよ?」

 懐中時計は悪魔の動画の中でもメジャーな分類ですね。時間を止めるのもよし、相手の寿命を視覚化するのもよし。

 ですが、悪魔の歴史を辿ると、昔の悪魔が懐中時計を持っているのは少し時代がおかしくなります。となると、懐中時計を持つ悪魔は近代悪魔になるのでしょうか。

 痛みの蓄積というのも、悪魔的な拷問の手法なのかなーと思っています。麻酔の場合は切れても頭がジワジワと来る感じですが、本作のはドスンと来る感じですね。

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