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赤富士の巾着袋


 ☆


 昨夜、夜間作業があったから昼間は休み。そして翌日も定休日で休みということで二連休。二連休って何をすれば良いのかわからず、五時間ほど寝たら目が覚めてしまった。

 平日の昼間は皆働いているし、そもそも友人がいない僕には二連休を与えられたところで家でゴロゴロするか、外をブラブラ歩くだけである。

 ガウスと一緒に散歩って考えたけど、店主さんは普通に働くから、その番犬としてガウスは必要とのことで、本当に一人になっちゃった。


「野良神社に散歩でも行くか」


 ☆


 歩いて数十分。店主さんと大の仲良しの疫病神さんが住んでいる野良神社に到着。別に店主さんと大の仲良しの疫病神さんに用が無くても、神社に来て良いよね?


「別に悪魔店主さんと大の仲良しではありませんです。けほっ」

「隣にヌルっと登場しないでもらえます?」


 まだ鳥居をくぐっていないのに、隣には僕にしか見えないらしい疫病神さんが立っていた。今日も額には冷却シートと、頭の上には水が入った袋を乗せていた。


「それよりも前から気になってたですが、ここに入るときはその禍々しいネックレスは外すか、これに入れてくださいです」


 そう言って疫病神さんは巾着袋を渡してきた。


「これは?」

「赤富士の巾着袋です。過去に悪魔を封じた水晶を入れるために作られたもので、この中に入れた道具は外との接触を遮断するです」

「え、それってすごく貴重なモノでは?」


 悪霊とか封印した何かをこの中に入れるんでしょ?


「スマホの半分しか入らない袋に需要は無いです。それと、巾着袋の紐が緩いですから、中で暴れられるとすぐに抜け出せるです」

「ちっちゃい不良品じゃん。でもこの『邪神の刻印入りネックレス』は暴れたりしないから大丈夫なんだね? ありがとうございます」


 人には少なからず『気』があるらしい。店主さんはそれを嫌うらしく、少々危険だけど、それを追い払うための道具がこの邪神の刻印入りネックレスだ。

 これを付けている間、宝くじを買えば必ず最低保証。日常生活に支障は出ないが、そこそこ運は悪くなるらしい。


 邪神の刻印入りネックレスを『赤富士の巾着袋』に入れて鳥居をくぐる。すると疫病神さんもついてきた。


「今日は何の御用です? 確か注文した品物の予定はまだ先ですよね?」

「いや、今日は特に予定が無くて、夜間作業を終えて昼間が休みになったんです。暇なので散歩でここに来ました」

「ふむ、散歩で神社に来るのは良いことです。その行動にちょっとばかしヤクがご褒美を与えるです。ちょっと屈んでほしいです」

「え、こう?」


 誰もいないから良いけど、突然その場で屈んだら怪しいよね。

 と、そんなことを思っていたら疫病神さんが僕の頭を撫で始めた。え、ちょっと恥ずかしいんだけど。


「お、おお、おおおお?」


 なんか一気に頭が軽くなった!?

 え、いつも朝はなんとなく頭が痛かったのに、まったくそれが無いんだけど!


「疫病神さん、もしかして僕の頭痛を取ったんですか!? すごい!」


 病を喰らう神。なんというか、今目の前にいる少女は間違いなく神様だよ!


「……いってえええ! ちょ、何ですかこのヤバい頭痛は! あああああ、ぬああああ!」

「ええ!?」


 突然疫病神さんがゴロゴロと転がり始めた。

 というか、疫病神さんってそんな口調で話すキャラなの!?


「えっと、ど、どうすれば」

「ぐぐぐ、これもヤクが通らなければいけない試練だと思うです。柴崎さんは気にしないでくださいです」

「と言われても」

「ヤクは『病を喰らう神』です。つまり、数時間後にはこの頭痛は『消化』されます。にしてもこれはヤバいですね。失敗しました。お金取れば良かったです」


 それほどヤバい頭痛だったんだ。いや、今までにないくらい頭がすっきりしているから、きっと凄い頭痛だったのかな。


「ああ、ここにいましたか。おや、君はもしかして柴崎君かな?」


 疫病神さんを心配していると、突然話しかけられた。渋い男の声。振り返ると……。


 すごい大きな男の人が立ってた。というか、腕の筋肉が凄すぎて服が今にもはちきれそうなんだけど!

 腕だけではなく、首もどこからどこまでが首かわからないし、足も巨木みたいな感じになってるよ!?


「紹介するです。ここの神主の野良です。こっちは柴崎さんです。ヤクのお客さんです」

「おお、やはり君が疫病神様が見える青年か。いやはや、会えてうれしいよ」

「あはは……いてててててて!」


 握手が痛い!

 手を握った瞬間、掴んではいけない物体を掴んた気がしたよ!


「ああすまない。私は力加減が下手でな。とは言え、そちらの疫病神様に命を救われて、それ以来ここを全力で守ると誓ったのだよ」

「命を救われた?」

「ああ。おや、君のその赤富士の巾着袋……なるほど。疫病神様が認めた男なら、少し年寄りの昔話を聞いてくれないかい?」


 ★


 野良家に生まれた長男は、生まれてすぐに重い病に罹った。それは数億人に一人がかかる病とも言われ、治らないとまで言われた。

 成長が止まり、筋肉は衰え、次第に呼吸はできなくなる。医師からは長くても一週間と言われたとき、少年は言った。


『運命が変わらないなら、最後に会いたい神がいる』


 無理を言って車椅子を使って、実家である野良神社へ行くと、賽銭箱の上に少女が寝ていた。


『神様、僕は旅立ちます。この神社をお願いします』


 周囲の人間は誰に言ったのか見えていない。しかし、少女は少年の言葉を聞いて起き上がった。


『ヤクが見えるのならば、この神社を守る資格があるです。ヤクが君の病を喰らう代わりに、君はこの神社を一生涯守るです』


 その瞬間、少年は車いすから立ち上がり、絶対に治らないと言われていた病が消えたのだった。


 ★


「そして、私は今までできなかった筋トレができるという喜びを得て、今では最強の神主と呼ばれるほどの鋼の肉体を得たのだよ」

「マッチョのくだりはいらないと思うけど!?」


 奇跡的に病が消えたーってお話で良いじゃん!


「柴崎さん。ちょっと補足です」

「え?」


 補足?


「野良は筋トレが楽しすぎて、都度ケガをするので、都度ヤクがケガを喰ったんです。ヤクの若気の至りもあるですが、ちょっと風邪を引いたり、ちょっと疲れてたら都度喰ったですから、野良は無限の体力を得た状態で筋トレをしていたです」

「疫病神さんにも原因はあるんですね!」


 こんなのズルだよ!


「まあ、私のことは二の次で良い。疫病神様の良き話し相手として、今後もよろしく頼む」

「え、いや、その……」


 断る理由は無いけど、断ったらその太い腕で殴られる気がするんだけど。無言の圧だよ!


「当然ですよ。また何も用が無い時、遊びに来ますね」

「うむ。待ってるです」


 若気の至りという概念が神様にあるのかわかりませんが、「若い神」という言葉はあるようなので、そこを重視したお話です。

 と言ってもサブタイトルは巾着です。何かを封じ込めるための袋や容器は沢山ありますね。臭いものには蓋とも言いますが、封印というのは最終的な手段であって解決では無いというのが私の解釈です。

 今回はその部分を活用した感じですね。いつでも出し入れ可能は、ものによっては便利ですね。

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