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バクの安眠枕


 ☆


 まったく眠れなかった。


 昨日店主さんの自宅でご飯をごちそうになり、幸せなひと時を過ごした。

 その後、店主さんの部屋の壁の隅に『赤土の封魔塗料』というものが塗られていて、それについて聞いたら思ったよりも怖い話で、それが頭を巡って寝不足である。


「おはようございま……え、どうしました。体調不良ですか!?」


 テケテケと僕に近づいてくる店主さん。ここだけ見ると少女が近くに来る感じで可愛いと思うんだけど、僕より相当年上なんだよね。


「昨日の話を聞いて、ちょっと眠れなくて」

「おっと、これはちょうど良いですね。偶然にも品質チェックのためにこちらの商品を今日使ってもらおうと思ってました」


 ……狙ってない?


「そんな目で見ないでください。そもそも柴崎様の自宅は……あ、それは置いといて、こちらの枕がその商品になります」


 だから僕の家はどうなってるの!?


「店主さんの所為で僕はもう眠れないよ!」

「まあまあ、それでもこの枕はしっかり寝てくれます。名付けて『バクの安眠枕』です」


 バク。どこかで聞き覚えのあるような?


「ちなみにどのような効果と、リスクがあるんですか?」

「なんとこの枕はリスクがとても小さく、悪魔道具の中では非常に珍しい物です。なので、それなりに高値にしようと思ってます」


 リスクが少ないと値段を高くするんだ。それは知らなかった。つまり安い物って、それなりにリスクがヤバいってことで良いのかな?

 確か『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』は五百円で売ってるけど、これって相当リスクが高いってことなのかな。いや、一生相手の夢に出るって、軽い呪いでは無いか。


「えっと、どういう枕なんですか?」

「バクは悪夢を食べる悪魔です。動物のバクととても似ていますが、悪魔のバクはそこそこグロいです」


 そんな説明を僕は求めていないんだけど!


「失敬、枕のお話ですね。この枕で寝ようとすると、びっくりするくらいすぐに寝ることができます。目覚めにちょっとだけ難点はありますが、必ずと言って良いほど人間に必要な睡眠時間は確保でき、もしこれを全人類が使用すれば平均寿命は十歳延びるでしょう」


 そんなにすごい枕なのか。それにしても……。


「ちょっと難点って、なんですか?」

「まあまあ、それは使ってみてからのお楽しみです。大丈夫です。これに関しては安全を保障します」


 ☆


 家に帰り、早速『バクの安眠枕』を使ってみることにした。

 どうやら絶対に九時間睡眠するそうで、その間に起こそうとしても起きないらしい。

 枕にも悪魔が宿っていて、頭を置いた瞬間契約が成立するようになっている。正直、この枕に悪魔が宿っているというだけで、寝たくないんだけど。


「まあ、店主さんの言う通り、今日はこれを使って寝てみるか」


 布団に『バクの安眠枕』を置いて、そこに頭を乗せた。その瞬間、ありえない睡魔が襲ってきて、僕の瞼を強引に閉じた。


 ★


 気が付くと洞窟に横たわっていた。

 見上げても真っ黒な空間が広がっていて、天井が見えない。

 だが、正面を見ると、そこには小さな灯りがポツポツと見えた。


『なんだろう』


 歩いていくと、光は大きくなってきた。光の正体は青い炎で、それは鉄のランタンに入っていた。

 もう少し先を見ると、その青い炎は二つ、三つと、数が増えていた。

 そして、さらにその奥には小さな小屋があった。


 小屋にたどり着き扉を開ける。すると声が聞こえた。


「いらっしゃいませー」


『え、店主さん!?』


 見覚えのある店主さんがそこに立っていた。


「はて、貴方と会った記憶はありませんが……まあ、ワタチと似た人に会ったのでしょう。というか貴方のような人間はここに来てはいけません。こちらに来てください」


 手を引っ張られ、僕は小屋の裏に連れていかれた。一体何をされるのだろうか。


「夢と生死の狭間は紙一重です。今回は偶然ワタチが案内しましたが、またここへ来た時は青い炎を頼りに来てください。そして『この子に食べられちゃってください』」


『ブアアアアアアアアアアア!』


『うおあああああああああああ!?』


 ★


 目覚めると、全身汗びっしょり。布団は僕から離れたところに投げ飛ばされていて、枕だけがしっかりと定位置にあった。

 手足は……うん、しっかりとある。

 夢の中に出てきた店主さんに案内された場所は暗い洞窟で、そこには巨大なバクが唾液を垂れ流して待っていた。

 そして僕は思いっきり喰われ、そして目覚める。うん、なんて最悪な夢だよ!


 でもしっかり九時間寝てた。本当にピッタリ九時間だ。


 夢は最悪だったがちゃんと寝れたおかげで体は軽かった。枕を店主さんに返して見た夢について話すと、ケラケラと笑っていた。


「品質はしっかりしていますね。とは言え、夢の中にワタチがいて、鉄のランタンに青い炎ですか。これまた面白い夢ですね」

「悪夢を食べる悪魔って聞いたから、すごく良い夢が見られると思ってたのに!」

「あー、そこは解釈が違いますね。夢にとってバクは脅威です。夢をバクは食べるわけですが、その夢を見ている人は寝ている本人。つまり本人がバクに食べられます。本人がバクに食べられる夢と言うのは悪夢です。で、最終的に『悪夢をバクが食べる』という結論に至ります」


 なにその連想ゲームみたいなやつ。

 つまり、ちょっとした欠点は『バクに襲われる夢を見る』ってこと?


「バクは夢を食べて生きます。つまり、安眠を提供する代わりに夢を食べるというリスクとリターンがこの枕一つに集約されています。ホラー映画愛好会にはとても売れる商品ですよ?」

「そりゃ、あんなリアルな夢ならそうでしょうね。なんかあの夢を見たら、部屋に何かが住み着いても怖くないって思いました。あ、枕はお返しします」

「はい。ついでにバクの再契約もしないとですね。ちょっと想定していない夢を見せてしまったので、やはり品質チェックは大事ですね」


 そう言って枕をバックヤードに持っていった。


 ……想定していない夢って、どういうこと?


 悪魔を食べるバクはそれなりに有名な話かなと。

 伝承を探すと、バクは良い夢も食べたりするので、どれが本当か分かりませんが、そもそも「本当」を探す方がおかしな話ですね。

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