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ー幕間ー唐突な代休


 ☆


 唐突な代休に何をすれば良いのかわからないまま、とりあえず散歩をすることにした。ガウスがいたら楽しいのに、一人だと寂しいな。

 前職では休日出勤はあったけど、これと言って不満は無かった。いや、不満と感じるほど感情がなかったのかな。今は釣りの看板を見れば釣りに興味が沸くし、車を見れば車を運転したいと思ったりする。


 まとまった給料にまとまった休み。そして余裕のある生活がこれほど心地良いとは思わなかった。


「柴崎!?」


 聞き覚えのある声が聞こえた。しかし、その声はいつもなら上から聞こえてくる。街中で会えばまっすぐ聞こえてくる。しかし、今回は下から聞こえてきた。


 振り向くと、そこには車椅子に座っている前職の先輩がいた。そう言えば僕はこの先輩の名前を知らない。今更かもしれないけど、これを機会に聞くのもありかもしれない。


「どちらさまでしょうか?」

「お前、ふざけているのか!?」


 名前を聞こうと思ったけど、確かに今の聞き方だと相手を挑発している感じになってしまった。名前は知らないけど誰かは知っている。自然と名前を聞く方法はないだろうか。


「お前、今日は平日なのにのんきに街中にいるとはな。クビにでもなったか?」

「いえ、むしろ休日に上司のペットの世話をしていたから、それを出勤扱いになり、強制的に代休になりました」

「はあ?」


 前職ではありえないだろう。労働基準法なんてものを守られていない会社が、有給休暇や振り替え休日なんてものを語るのは、地獄で二十年働いて人の上に立ってから使える制度だろう。

 労働基準法を守っていなければ国から罰を受けるとは言うが、罰を受けたところで休日に仕事をしていたという過去が消えるわけではない。そして、会社が無くなれば、辛かった仕事を耐えていたのに突然追い出されるようなもの。

 僕にとってアプリケーション開発ができれば良いから、会社が無くなること自体が一番困ることだった。


 まあ、今はもう転職をして、関係ないけどね。お昼美味しいし、休みもあるし。


「くそっ。こっちはまともに働けねえのによう」

「ああ、僕から呪われたネックレスを奪ったからですね。お気の毒です」

「ふざけるな。あれはマジで呪われてるだろ。捨てても捨てても戻ってくる。誰に相談しても信じてくれねえ。嫁は実家に帰り、明後日には出勤しろと言われている。どうなってる!」


 ……え、先輩って結婚してたの?


 人間社会とは理不尽の塊だよね。どうしてこの人はひどい性格なのに、人生のパートナーを見つけることができたのかなって思うときはある。

 でも、僕が見えていないところでどこか惹かれるところがあって、それで自然とそういう関係になったのかなーと言い聞かせている。


 ……うーん、でも先輩の良い所が見つからない。というか横山さんに常に付きまとっていたっぽいし、そっちが原因じゃないの?


「お前に返すよ!」


 そう言って僕が元々持っていた『邪神の刻印入りネックレス』を投げてきた。しかし、僕はそれを受け取らず、そのまま地面に落ちるのを眺めた。


「いりません。すでに新しい物を発行していただいたので」

「はあ? お前、それを持っていてなんともねえのかよ!」

「いや……特に」


 言われてみれば、以前店主さんから言われてた時は『気』を祓う物って言われたっけ。運気も退けるから、持っていて悪いことに遭遇すると思っていたけど、今のところそういう現象に遭遇した自覚は無い。


「俺なんか、最近悪いことしか起こらねえ。マジでやること全部が……」


 僕のことはさておき、先輩はありえないくらい人生が一変したらしい。


「先輩はこのネックレスを持つまで、かなり運が良かったんですね」

「は?」

「オカルトな話を僕はそこまで信じていませんでしたが、今は違います。きっと先輩はあらゆる面でなんか良い感じに物事が進んでいたんです。今はそれらが全くない状態に整理されたんです」


 そのうち、生まれつき何かに守られている人とかいるのか、店主さんに聞いてみよう。悪魔や神という存在は目にしたけど、他にも守護霊とか精霊とかいるかもしれないからね。


「ふざけるな! 俺が何をしたって言うんだ!」


 ……心に余裕があると、今まで考えなかった視点から見ることができるのか。ペットショップでも思ったけど、この先輩の最大の汚点は、自覚がないことかもしれない。


「周りに聞いてみてください。そして反省すれば良いと思います。反省してもすでに遅いと思いますが、残りの不自由な時間は少しでも感謝される生き方をすれば良いと思います」


 いつの間にか邪神の刻印入りネックレスは地面から消えていた。おそらく先輩のカバンか、ズボンのポケットにでも入ったのだろう。でもそれを気にする理由が僕にはない。というのも、その道具はすでに僕の物では無いからだ。


「待て、おい……待ってくれ……」


 ☆


 翌日、お店に行き、真っ先にガウスを撫でた。ガウスはキョトンとしながらも、僕に体を預けてくれた。


「おや、休日はゆっくり休めませんでしたか?」

「ゆっくり休めましたが、外に出たときに前職の先輩と会いました。その時だけは良い時間ではありませんでした」

「前職の先輩というと、邪神の刻印入りネックレスを奪った方ですね。元気でしたか

?」


 その質問に僕は少し悩んで、答えた。


「とても元気でした」


 前話でお話が終わらなかったので、二話続けての幕間になりました。

 今回は「邪神の刻印入りネックレス」の深掘りな感じです。

 運がそもそも説明できない要素なので、かなりすわっとしていますが、この物語においてはステータスの数値の一つとして存在していて、邪神の刻印入りネックレスはその「運」を「0」にするという感じです。

 前職先輩は「上手くいってた」ことが「うまく行かなかなった」と言うのは、単に補正が無くなったからです。若干の悪魔補正はあるにせよ、前職先輩が普通だと感じていたことが普通では無くなり、周りにとって普通のことが先輩に降りかかってるだけですね。

 柴崎君に関しては、店主さん補正があるかもですが、もともと「0」が「0」になっただけです。そりゃ、ネックレスをつけても問題は起こりませんよね。

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