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幕間ーアクマについて考えるー


 ☆


 悪魔についてわからなくなり、悶々としていた休日。

 ふと、クアン先生なら相談に乗ってくれるかなと、軽い気持ちでメッセージを送ったら、大学の応接室でなら相談に乗ってやろうという返事が来た。


「……で、犬も連れて来るとは思っていなかったぞ柴崎青年」

『ガウ』


 大学内は動物持ち込み禁止かと思いきや、手続きをして廊下と応接室だけは大丈夫と言われた。最近の大学ってすごいね。


「すみません、休日はガウスと一緒に遊ぶのが普通になってしまって」

「ガウス……そのゾンビ犬の名前か?」

「え、あ、はい。番犬とか剥製犬って呼ぶより可愛いかなーと思って」

「ふむ……なぜガウスなのかい?」

「それは僕が大学で単位を取れなかった授業で、ガウスの方程式があったからです。この数式を考えたガウスは悪魔だと思ってました」


 そう言うとクアン先生は笑っていた。


「実に面白い理由だな。確かに学生にとって偉人は悪魔にも思えるだろう。方程式を編み出さなければ、テストにはその問題は出てこないだろうからな」


 大学の先生だからクアン先生ってこういう話には反論してくるものだと思った。思いっきり肯定してくるじゃん。

 そう言えば以前も会った時はクアン先生は僕の話を全て聞いてくれた。あまり否定もせず、僕の意見を尊重してくれた印象。

 相当頭が良いのに、見下すことはしない不思議な先生。背は小さいけどね。


「それで、一体何に悩んでいるんだ?」

「店主さんが悪魔なのかどうかわからないんです。いや、本質は悪魔なんですけど、僕が思う悪魔とは違うように思えます」

「恋する男児か。君は悪魔店主に恋でもしているのかい?」


 ……いや、そういう感情は全くないな。


「ふむ、その『スンッ』ってした表情はあの悪魔店主の前で見せるなよ。あいつも君のことは一人の従業員としてしか見ていないとはいえ、女性だ。傷つくことはあるからな」


 そう言えばクアン先生って店主さんのことを『悪魔店主』って言っているけど、本名は知っているのかな?


「クアン先生、店主さんの名前って知ってるんですか?」

「知っている。だが、教えることはできない」

「なぜ?」

「そういう約束だからさ」


 約束。悪魔にとって契約や約束というのはかなり重要視される。だから、名前を教えないという約束も、口では軽く言っていても、実はかなり重い契約なのだろう。


「名前というのはある種の最強の武器でもある。あらゆる現象や物質、神と言う概念まで名前が付けられ、世界のルールに組み込まれたと言っても良いだろう。故に神や悪魔は名前が最強の武器であり、最大の弱点なのだよ」

「でも、クアン先生はすでに名乗ってますよ?」

「ああ、言葉が足りなかった。クーのフルネームは覚えきれないほど長い。こればかりは会ったことが無い両親に感謝だな」


 会ったことが無い両親。クアン先生の家庭の事情は少々複雑なのかな。


「さて、話が脱線したが、君は悪魔店主を悪魔かそれ以外かで悩んでいるそうだが、それは重要なことかね?」

「なんというか、しっくりこないんです。悪魔というのは悪い存在と言うのが染みついているのに、店主さんを悪い人という前提で接するのは難しく、善人だと思って接して良いのかわからないんです」

「その二つの接し方によって日常が変わるのであれば、考えるべき課題であろうが、そうでなければこの話は『どっちでも良くね?』と一掃できる内容だぞ?」


 ……クアン先生の言葉に反論できない。いや、そうなんです。その通りなんです。


「仮にクーが君に、あの悪魔店主の悪行を全て教えた場合、君は複雑な心境で数十年以上一緒に働くことになる。これが望みなら今ここで三時間ほど話してあげるが?」

「三時間分もあるんですか!?」


 いや、絶対それ以上ありそう!


「結局のところ『世界の仕組みとして』あの悪魔店主は悪魔という種族に分類されているだけで、それとどのように向き合うかは柴崎青年次第だ。少なくともクーが生きてきた中で害をもたらさない吸血鬼や狼男は見たことがある」


 ……待って、今吸血鬼や狼男を見たことあるって言った!?

 つまり、現実に存在するの!?


「どうしても悪魔店主を極悪非道の悪魔として見たいなら、もう一度相談してくると良い」


 ☆


 ガウスをお店に戻すため、一度職場に行ってみると、店は灯りが付いていた。

 中に入ると店主さんが悪魔の道具を作成していた。


「おや、おかえりなさいませ。ガウスのお散歩ありがとうございます」

『ガウガウ!』

「まったく……恐怖を喰らう悪魔が本質を忘れかけていませんよね?」

『ガウ!』


 苦笑する店主さん。この姿を見て、今でも悪者とは思えない。


「なにやら思い詰めているようですが、裏を返せば心に余裕ができた感じですね。悩む暇があるというのは、余裕が無ければ生まれないものです」

「そんな顔をしていましたか」

「はい。別に柴崎青がワタチを悪人だろうが善人だろうが、どちら目線で接してよいのか迷っていても、ワタチには関係ありません。利害の一致で偶然にも柴崎様は過ごしやすい環境なだけで、それはワタチが貴方のために提供したわけではありません」

「でも、料理は美味しいし、ボーナスは出るし、正直良くわからないんです」


 前職では先輩に言われたことをただやるだけのロボットだった。それだけで僕は良かったと思えた。

 今は全く違う。自分の話を聞いてくれる人がいて、そのほとんどが人間では無く悪魔である。


「環境の変化で、今までの固定概念が否定され情緒が不安定なのでしょう。仕方がありません、柴咲様には明日、この制度を使ってもらいます」

「一体何が……」


 そして渡されたのは一枚の厚紙。表のようなものが書かれていて、日時や理由という文字が書かれてあった。


「今日のガウスとの散歩は休日出勤とし、明日は代休とします!」

「ええ!?」


 悪魔は悪というのは、この物語では一つの柱です。「悪魔=悪」だから、「悪魔の悪は人間には善?」という訳ではありません。悪は悪です。


 柴崎君が悩んでいる内容は、実のところとても小さなことかなーくらいでこの話は書きました。とは言え、柴崎君も悪になる必要があるかというと、そう言うわけでもありません。悩みは人それぞれなので、柴崎君にとっては重要だけど、他人にとってはどうでも良いと言う感じですね。

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