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青銅牛


 ☆


 今日は野良神社に配達を頼まれた。

 いつも通り店主さんは直接触れず、段ボールごと僕に渡してきた。中身はどうやら石で作られた牛の形の置物らしい。


「おや、思ったより早いです」


 冷却シートを額につけた疫病神さんが鳥居の前に立っていた。


「そこに立っていて目立たないの?」

「一般人にヤクは見えませんから問題ありませんです」


 そうだった。むしろここで疫病神さんと会話をしていると、僕が独り言を言っているように見えるんだった。


 ☆


 本堂の裏にある小屋に案内され、そこで商品の開封を始めた。かなり厳重に梱包されているから、中身を取り出す手伝いをすることになった。

 箱を開けると、牛の形の鉄の置物が出てきた。石って言われたから鼠色だと思っていたけど、まさか鉄だとは思わなかった。


「流石悪魔店主さんです。そして柴崎さんが加わったことで、よりよい道具が手に入りましたです。こほっ」


 相変わらず体調は悪そうだけど、これが平常運転であると頭の中で何度も言い聞かせた。


「良い置物なんですか?」

「『青銅牛』。かなり昔に作られたもので、豊作を願うときに用いられますが、こういう用途にも使われますです」

「こういう?」


 そう言って疫病神さんは鉄の牛の頭を撫でた。


「あー、頭痛が減るですー」

「そんなに即効性のあるものなの!?」


 いや、でも先ほどまで眉をひそめていた疫病神さんの表情が柔らかくなってきた。


「まさか神様の体調を良くする道具があるとは思いませんでした」

「神は人間さんに何かを与えることはありますが、人間さんが神に与えられるものは作物を除くと少ないですからね。大昔は毎週お祭りをやって、こういう青銅を使った贈り物はあったんです」


 へー。毎週お祭りって、今の日本では考えられないけどね。


「でも道具を撫でると、その部分が良くなるっていう点は悪魔道具の藁人形と似ていますね。効果は真逆ですけどね」

「面白い視点です。実際神と悪魔は表と裏です。良い効果を与えれば神からの恵みと言われ、害を与えれば悪魔の所業と言われます。これは人間社会で例えると薬と毒が一番近いですね」


 確かに。薬も飲みすぎたら毒になるって言うし、お酒も少量なら体に良いという説もある。そう考えるとやはり悪魔と神はかなり近い存在なのかな。


「もしかして、人間が悪魔を勝手に悪と定義しているのか?」


 頭の考えが口に出ていたらしい。僕の独り言を聞いて、疫病神さんは笑った。


「それも面白い考えですが、ヤクのような神と悪魔店主さんのような悪魔では、しっかりと対の相性になっています。一つだけヤクから言えるのは、『悪魔は悪』です」


 ☆


 悪魔は悪。


 その言葉が抜けきれなかった。

 ここまでずっと店主さんのところで働いてきて、少なくとも僕は以前の会社よりも良い環境で働けている。

 強いて言えば好きなアプリケーション開発が出来なくなったのは、ちょっとした不満だけど、それを忘れるくらいの充実感はある。


「おかえりなさいませ。ちゃんとお届けしましたね」

「石だと思ったら青銅でした。重いと思いました」

「中身を見るまでもなく、それっぽい感じのオーラが出ていなかったので中身を見ませんでしたが、青銅でしたか。ちょい赤字です」


 神と悪魔は対立する関係。箱からあふれ出ているオーラに触れられない店主さんは、やはり悪魔なのだろう。


「疫病神さんから『悪魔は悪』と言われましたが、僕はここしばらくここで働いていて、すごく満足しています。店主さんが悪とは思わないんです」

「疫病神様の言うことは当たっています。そして柴崎様の言うことは間違っています。ワタチは悪魔で、商品を売った相手のうち、ほとんどは不幸の結末に導いています」


 それはそうなんだろうけど。


「それなら僕は店主さんからいただいている充実した時間に対する代償が何か気になります」


 確かに僕は『レプリカグリモ』の影響でここで働くことになったが、結果としてかなり充実した時間を得ている。

 レプリカグリモの代償の支払いは店主さんがなんとかしてくれると言うのであれば、悪魔の店主さんはその代償を僕から取らなければ悪魔のルールから反することになる。


 僕は、生きてここで働きたいと強く思っている。


「ふむ、それほど深く考えていませんでした。ですが、正直ワタチはすでに代償を支払ってもらっているところが所々であります」

「僕が支払っている?」

「疫病神様への配達は、ワタチにはできません。悪魔と神の間に立つというのは、悪魔にとって大きな助けになります」


 それは、適材適所であり、役割を果たしているだけで代償とは違うと思う。


 と、僕が考えていると、店主さんは新聞紙を丸めて、僕の頭を軽く叩いた。いたい。


「悪魔と人間の感覚は異なります。貴方にとって代償ではないと思っても、悪魔が代償として受け取ったと思っているなら、そのまま受け入れてください。ワタチだからこういう『注意』ができますが、他の悪魔なら遠慮はしません」


 そう言って一度笑い、そしてバックヤードに入った。


 やはり僕は悪魔という存在が何なのか、いまいちわからないものだと再認識した。

 過去に作られた青銅の鏡や器は歴史的な価値があり、模様などから文化を解読するなんてこともありますよね。

 今回のお話では「悪魔は悪」という部分ですね。これを色に言い換えれば「黒色は黒」という感じです。「黒色は白」は、何かしらの比喩表現であるかもしれませんが、一番シンプルな答えは見た通りのものかと。

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