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藁人形


 ☆


 お客さんの中には『絶対に関わってはいけない類の人』が時々訪れる。

 幸いにも『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』のおかげで、不良だけど女子高生が来たり、人体模型を買いに教育機関の人が来たりして、比率的に危ない人というのは少ない。

 まあ、少ないだけで来ないわけでは無い。


「ひひ、これであいつを……」

「使用方法はこちらに書いてあるので、よく読んでくださいね」

「ひひっ」


 ボロボロの長髪の女性。服もパジャマで、目の周りは大きなクマ。ここ最近では一番強烈なお客さんだけど、初めてでは無かった。


 お昼休みに店主さんの美味しいご飯を食べながら、店主さんに質問をしてみた。


「先ほどの長髪のお客さんは何を買ったんですか?」

「長髪……ああ、藁人形を買ったお客様ですね」


 おおう。藁人形というと、五寸釘を打ち立てる話がまず思いつくよね。


「『あの』藁人形は悪魔道具なので、お腹付近に釘を刺せば、対象者は一週間ほど腹痛を味わいます」

「一週間腹痛ですか? てっきり相手を殺害するものかと思ってました」

「え、柴崎様って思った以上に発想が悪魔ですね。ワタチも引きますよ?」

「え!?」


 僕が思ったのは一般的に知られているものだと思ったんだけど!?


「まあ、確かに伝承ではそういうことをする藁人形も多いです。ただ、相手を一瞬で消してしまうと、目的が達成されたことにより再来店してこなくなります」


 売り上げのために効果を小さくしているんだ……それはそれで悪魔的考えな気がする。


「でも店主さん、『あの』藁人形って言ってましたけど、他にもあるんですか?」

「当然です。そもそも藁人形は豊作を願うために作られたり、災害を防ぐために作られたりすることもあって、場合によってはワタチとは異なる系統の道具になります」


 そう言って店主さんはスマートフォンを操作して、僕に画面を見せてきた。

 厄除けとして作られたり、交通安全を祈願して国道に置いたりしているらしく、思ったよりも神様よりの物らしい。

 とは言え、呪いの道具の記事も多い。これは僕の知っている物だ。


「藁人形にも色々あるんですね。ちなみに店主さんが渡した藁人形のリスクは何ですか?」

「効果を小さくしているので、リスクは無いに等しいですね。実は対象者はすでにこの世にいない場合、自身に返ってくるくらいですね」


 それはリスクとは言えないのでは?


「おっと、納得がいかない表情ですね。悪魔の道具や悪魔自体にも色々存在します。今回はその辺の区別の説明もしましょう」


 ☆


 突如始まった店主さんの悪魔講座。僕の隣にはお行儀よくガウスがお座りをしていた。うん、可愛い。


「まず悪魔や悪魔道具にはいくつかに分類されます。わかりやすい所で言うと『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』は最初に自身の血を与えるというリスクを支払う前払い型です」


 いつ見ても可愛いとは思えない『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』。時々駅前でこれを付けている女子高生を見かけるんだけど、その後の恋は叶ったのかな?


「続けて柴崎様がここで働くことになった『レプリカグリモ』。こちらは先に願いを叶えて、後から『レプリカグリモ』に封じられた悪魔が代償を要求してきます」

「え、でも僕は『レプリカグリモ』の悪魔に代償を支払っていませんよ?」

「支払い期日を人間基準で考えたらいけません。『レプリカグリモ』が代償を要求するのは貴方が死ぬ直前です。まあしっかりここで働くことができれば『レプリカグリモ』

の悪魔を退治してあげますよ」


 つまり僕は今も『レプリカグリモ』に見張られているのか。なんか急に背筋が冷えた気がする。


「次に『恐慌の香』のような人以外から代償を得るタイプ。これは人の何かを代償とするわけでは無く、自然の物を燃やすことで効果が訪れます。代償が人のものとは限りません。魚が好きな悪魔もいるので、魚が代償になる場合もありますね」


 言われて気が付いた。今までリスクは人由来の物だと思っていたけど、配信者を退治した『恐慌の香』は特に代償は無かった。むしろ、勝手に個々の恐怖が増えただけだ。


「最後にそこの『憎悪の番犬』のようなただの悪魔。野生の動物だと思ってください。今でこそ柴崎様の癒しとなっていますが、それは柴崎様が勝手にそう思っているだけで、本来は恐怖を餌に暴れる悪魔です」

「え、でも僕の血を飲んで言うことを聞かせてますが、それはリスクに対するリターンでは?」

「恐怖を喰らう悪魔としての役割は捨てているので、柴崎様とガウスの関係は仮の主従関係のようなものです。本来の役割を忘れると消えちゃうので気を付けて接してください」


 えー。じゃあガウスを可愛がりすぎると消えちゃうのか。それはこっちにとっても生殺しのようなものなんだけど!


『ガウ!』


「あ、今柴崎様の恐怖を少しだけガウスが食べました」


「やっぱりさっきのただの悪魔って区分はかなりフワッとしてません!?」


 まあ、今の話を聞いた後だと、可愛がっていると今の話を思い出し、それをガウスが食べることでガウスは消えないという永久機関が生まれたから良しとしよう。


「他にも色々な悪魔や悪魔道具はありますが、とりあえず取り扱っている商品はそんな感じです。小さな要求に対して大きな対価を得るのが悪魔ということは忘れないでください」

「え、結局藁人形ってどの区分に入るんですか?」

「ふむ……かなり区分は難しいのですが、対象に対して代償も支払わせる『押し付けタイプ』ですね。ただ、強いてリスクは何かと問われたら、儀式に手間がかかったりするところでしょう」


 人間の思っているリスクとリターン。それと代償の支払い方法に関しては悪魔基準で考えなければいけないということか。

 藁人形や日本人形は、身代わりの存在になったりしますよね。人形を燃やす行為は生贄に近い状態なのかなーと思いました。

 そして、藁人形は豊作の象徴になっている地域があるそうです。晴れを願っててるてる坊主を作るように、方策を願って藁人形を作ると言う文化は、絶えないでほしいですね。

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