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貪欲な蜂蜜


 ☆


 バックヤードには、未だに僕が知らない悪魔アイテムは多く、店に並べるタイミングは店主さんが決めている。

 働く原因となった『レプリカグリモ』の件もあるから、勝手に触ろうという気はならないが、店に出してと言われて箱から出した悪魔道具は興味を持ってしまう。


「何かの瓶詰?」


 黄色い液体が入った瓶。所々気泡が入っているけど、これは何だろう。


「店主さん、言われた通りの箱を出しましたが、これは何ですか?」

「おや、別の商品だと思ってましたが、それはそれで出してしまいましょう。その液体は『貪欲な蜂蜜』という飲み物で、水で薄めて飲むものです」


 飲み物なんだ。というか蜂蜜?


「珍しくこれは悪魔道具なのに疫病神様にも売れる商品です。飲むと肉体的疲労回復や精神的疲労の回復。眠気を無くして、やる気を出す商品です」

「栄養ドリンクみたいですね」


 メープルシロップ入りのエナジードリンクみたいだ。受験生のお供かな。


「欠点として、依存性が凄いです。試しに飲んでみてください」

「え、大丈夫なんですか?」

「対処方法を知ってるので大丈夫です」

「では……」


 スプーンですくって、それをコップに垂らし、そこに水を入れて飲んだ。

 蜂蜜を薄めて飲んでいる感じがして、あまり美味しいとは言えない。


 ……が、効果はヤバい!


「う……おおおおお!?」


 頭がすっきり。そしてなんとなく疲れているという感覚すら吹っ飛び、全てのコンディションが抜群に思えた。


「店主さん、これ凄いですよ!」

「ふふ、ではいつも手が届かない棚の掃除をお願いします」


 ☆


 一時間後。僕はバックヤードで倒れた。いつも以上に体が軽いから調子に乗ったのだが、別に体が丈夫になったわけでは無い。


「疲れたのですね。では少し蜂蜜を飲みましょう」

「はい……」


 店主さんの言われるがまま薄めた蜂蜜を飲んだ。するとびっくり、一気に体が軽くなった!


「では引き続きこちらの屋根裏の掃除もお願いします」

「はい!」


 ☆


 三十分後、僕はバックヤードで仰向けになっていた。もう無理、動けない。


「はい、では蜂蜜を飲みましょう」

「まって……」


 店主さんは僕の話を聞かずに薄めた蜂蜜を飲ませた。絶対に今回は無理だと思ったが、びっくりするくらい体が軽くなった。


「この調子だと、キッチン掃除が限界ですね」

「頑張ります!」


 ☆


 五分後、僕はバックヤードでうつぶせになっていた。


「では飲みましょう」

「いやもう絶対に」

「ここからがこの蜂蜜の面白い所です」


 面白いってなんだよ。


 言われるがままに飲んだ。すると、絶対に無理だと思った疲れが一気に吹っ飛んだ。やっぱりこれ、いわゆる違法薬物くらいのヤバさが感じられるよ!?


「というか、動かなければこのまま疲れが自然に減って良くなるのでは?」

「ふふふ、実はそれが使えるのは一日に一回だけなんです。間もなく訪れます」


 いったい何が……む!?


「き、気持ち悪い!」


 突然の吐き気が襲ってきた。というか、よくよく考えたらあまりおいしくない薄めた蜂蜜をさっきからがぶがぶ飲んでいるんだ。気持ち悪くないわけが無い。


「ではその吐き気をこの薄めた蜂蜜で治しましょう」

「え!?」


 店主さんは僕の返事を聞かずに、薄めた蜂蜜が入ったコップを僕の口元へ持っていき、無理やり飲ませてきた。

 するとびっくりすることに、先ほどの吐き気が一気になくなった。


「そうか、この蜂蜜は吐き気なども治す効果が……うっぷ!」


 効果は一瞬である。また吐き気が襲ってきた。


「ということでこの『貪欲な蜂蜜』の真の恐ろしさは、最終的に蜂蜜の所為で体を壊し、それを蜂蜜で癒すのですが、さらに上乗せで体を壊すというものです。依存性が高すぎるし、違法薬物と似た効果ということであまり販売できないんです」


 正直、売る売らないはどうでもいい。この具合が悪い状況を打破したい。


「あ、今ここに緑茶を用意しました。これを飲んでください」

「りょふは?」


 目の前に熱いお茶が一つ。僕はゆっくりと飲むと、吐き気がかなり減った。え、これって別の悪魔道具?


「『貪欲な蜂蜜』は熱に弱いんです。お風呂に入ると一発で治ります」

「え、そんな簡単な方法で治るなら、蜂蜜を飲んだ後にお茶を飲めば良いのでは?」

「ふふふ、柴崎様は甘いです。そうですね、蜂蜜の甘さ並みに甘いです」


 ……なんか店主さん、すっごいドヤ顔してる。


「実際に過去にこの蜂蜜を定期購入し、その方法を自力で編み出した人がいました。ですが、翌年入院する事態に陥ったんです」


 ……そこはやはり悪魔道具。まだ教えられていないリスクが訪れたのか。例えば命を削るとか、不運になるとかかな。


「『痛風』。これにより彼は苦しみ、その苦しみを『貪欲な蜂蜜』で耐えようとしましたが、症状が悪化しこの世からいなくなりました」


 ……最後は悪魔由来ではなく、普通に蜂蜜の食べすぎで健康状態が悪くなったという自業自得!?


 あらゆる疲労が回復する薬があったら、皆様はどんな仕事や作業をしたいでしょうか。

 リスクがなければ誰でも欲しいアイテムでしょうけど、世の中そんな都合の良いものは無いですよね汗

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