表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/84

そよ風アロマ


 ☆


 今日のガウスは落ち着きが無かった。というのも、お客さんの中に一人、とても怖がっている人がいたからだ。

 元々恐怖の感情を食べる悪魔犬だから、このお店に怖がりながら入ると、ガウスは反応してしまう。目の前に餌を出されている状態なのだろう。でも動くことはできないから、『待て』を言われている状態だ。


「怖いよサヨちん。早く帰ろうよ」

「いやいや、この『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』、多分本物だよ?」

「本当に噂の呪いが事実だったら、大変だよー」


 店主さんはニコニコしている。こういうお客様も時々来るのだろう。


「柴崎様。そちらのお客様に『そよ風アロマ』を見せてあげてください」

「わかりました」


 怯えていたお客さんを案内しつつ、僕は今更ながらあることに気が付いた。


 なんで柴崎『様』なのかな。いや、初めて出会ったときにフルネームを呼ばれて、その時から様で呼ばれていたから、もしかして相手には様で呼んでいるのかな。疫病神さんもそうだったし。


 とりあえずお客さんを『そよ風アロマ』の置いてある机に案内して、アロマに火をつけた。するとそこから水色の煙が少しだけ出てきた。


「綺麗……それと、このアロマポット、すごく可愛い……」


 このお店で売っている商品で、今一番ちゃんとした形のアロマポットである。丸い形をしていて、他のおどろおどろしい雑貨と比べると、焼け野原に咲く一凛の花である。


「このアロマは心を落ち着かせる煙が出てきます。どうですか?」

「はい……すごく良いです」


 とは言え、これも悪魔道具。可愛い形である理由は、単にちょうど良い形のアロマポットがこれしか売っていなかったからであり、いつもはもっとドロドロした形を選んでいるとか。

 店主さんのセンスがドロドロした方向だから、僕のできる範囲で変更したいものだ。


「このアロマ……すごく良いですね。欲しいかも……」

「これに使われているロウは詰め替えができないので、使い切ったら飾るか捨ててください」

「へー……見た目も可愛いのに……もったいない」


 使い切りには理由がある。

 この『そよ風アロマ』に封じられている悪魔は、恐怖の記憶を喰らう。中身を詰め替えできない理由は、恐怖の記憶を食べすぎてしまうからだそうだ。

 おちょこ程度の大きさであれば、本人が自覚しない程度の記憶喪失で止まるから良いらしい。


「すーはーすーはー」

「ちょっとちょっと!?」


 びっくりしたー。突然お客さんがアロマに鼻を近づけて吸い始めたよ!

 それ、普通のアロマでやっても中毒になるよ!?


「へへ、えへへ、私はなーんでこわかったんだおー」

「店主さーん、やばいです。なんか……ヤバいです!」

「え!? 普通は『ほんのり恐怖が無くなる』くらいなんですが、もしかして間近で吸ったんですか!?」


 僕もその光景を見て固まったくらい驚いたよ!


「あー、たかっちは生徒会選挙前で自分が生徒会長になれるかずっと不安だったんです」


 生徒会長になろうとしている人がなんでここに来てるんだよ!

 いや、客だから別に良いけどさ!


「ふむ、これはワタチも想定外でした。今までお酒を飲まなかった人が二十歳になって初めてお酒を飲み、良いの快楽を知って溺れる症状にそっくりですね」

「冷静に分析しないでください!」


 とりあえず生徒会長候補さんをそよ風アロマから遠ざけ、近くの椅子に座らせた。

 アロマの火は消し、窓以外に出入口も開けて換気もする。


「あのー」


 焦っていると、生徒会長候補ではない方のお客さんがゆっくり手を挙げて話しかけてきた。今忙しいんだけど……。


「私もちょっと吸ってみて良いですか?」

「ダメです!」


 ☆


 しばらく店主さんが話しかけることで、徐々に元通りになり、お客さんは『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』だけ買って帰った。

 どうやって戻したのか聞いたら、先ほど生徒会長の選挙について不安だったという話を聞いて、選挙の出来事をずっと話していたらしい。


「食べられた恐怖の記憶は蘇りませんが、恐怖に感じなかった部分は残っています。そこから脳が勝手に記憶を構築するので、とりあえず無事に戻ってくれましたね」

「なんというか、禁断症状を見た気分です」

「まさしく今回は悪魔を使用する際に起こる禁断症状ですね。彼女にとってここ最近の緊張は大きな負担。それが一気に消えたんです。あのまま続ければ、とんでもないことになりますね」

「とんでもないこと?」


 使い切りにした理由は、消えたらまずい記憶を食べるとのこと。それとつながる理由だろうか。


「記憶と知識はとても近い存在というのが『そよ風アロマ』に付与された悪魔の認識です。なので『刃物は危ない物』や『道路に飛び出たら危険』というものも食べます。つまり、自ら危険に飛び込む恐れがあるんです」


 そんな商品を売ってたのかよ!


「販売停止にした方が良いのでは?」

「残念ながらアレはアレでかなり売れています。しかも一部企業では売れていて、一昨年にちょうど柴崎様の前職でも購入されました」


 え、僕の前職?


「上長や諸先輩方に理不尽な説教を受けても、ちょっとしたら何故か平気になるんです。ブラック企業にはうってつけの商品なんですよ」


 ブラック企業を作り出しているのは店主さんなの!?


 心を落ち着かせる方法は色々ありますね。私は吸わないのですが、タバコなんかもそれに当てはまりますね。

 ただ、多く接種すると体に害を及ぼすものも多く、むしろ大量に使っても大丈夫だものは無いのでは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ