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ー幕間ー魔術


 ☆


 バックヤードにて、僕は渾身の土下座を店主さんに向けて行っていた。

 別に何か失敗をしたわけでは無い。これはお願いである。


「お願いです。魔術を見せてください」

「えー」


 いや、普段ニコニコの店主さんだけど、本気で引くとジト目もするんだ。なんか知りたくなかった……。


「以前『ルーン文字を使って何かをしようとして筆を買った』って言ってたじゃないですか。つまり、魔術っぽい何かもできるってことですよね!」

「別系統ですが悪魔道具を作る工程を見せているではありませんか。ルーンも大して変わりませんよ?」

「違うんです。なんか悪魔道具を作ってるときって、演出が地味なんです!」


 あー、店主さんが今までで一番呆れた表情で僕を見てるー。


「柴崎様にはきちんとご説明をしないとですね。ワタチも別に好きで地味にしているわけではなく、これはワタチが研究に研究を重ねた結果、地味になったんです」

「え!? なぜ!?」


 もっとこう、どっかーんと悪魔道具が作れた方がロマンがあるじゃん!


「騒ぎになった時の言い訳ができないです。銃が禁止されている日本で破裂音っぽい音を出してみてください。何をしていたかと問われたときに困るのはワタチなのです。だから『ヌルッと』発動するよう研究したんです」


 すごい現実的な答えが返ってきた。


「でも……なんかこう……『魔法!』って感じがしないんです」


 少し残念。でも騒ぎになって僕が無職になる方が問題である。


 と、見かねた店主さんはため息をついて、僕の前に手を広げた。次の瞬間、一瞬だけ炎が僕の鼻先まで来て、すぐに消えた。まるでカメラのフラッシュのような一瞬の出来事だった。

 僕の前髪一本が焦げて、ちぢれてしまった。


「これで満足ですか?」

「もう一回!」


 ☆


 もう一回やってくれなかった。でも、あの感動をどこかで叫びたい。だって目の前で何もない所から炎を出したのだ。ファンタジーが現実になった瞬間である。


『ガウ!』

「おーよしよし、公園の水でも飲むか?」

『ガウガウ』


 もしも今日が休日ではなく出社日だったら、また店主さんにお願いしていたかもしれない。

 休日は決まってガウスとお散歩。さすがに毎週ガウスを部屋に入れるといつか見つかるから、早朝にお店に行ってガウスを出迎えたあと、公園や商店街を歩く。


「くらえええ、ふぁいあー!」

「ぐああああ」


 ……いかん、お年頃の少年たちが目に見えない魔術で遊んでいる。


「柴崎君……子供たちをそんな目で見て、不審者っぽいよ?」

「おあ!?」


 突然誰かに話しかけられた。と思ったら、前職先輩の横山さんだった。


『ガウ!』

「ガウス君! こんにちは!」

『ガウガウ!』


 ガウスに先越されてしまった。さすがガウスだ。


「こんにちは横山さん。今日もジョギングですか?」

「うん。ちょっと休憩で寄ったら、見知ったワンちゃんがいたから、駆け寄っちゃった」


 僕ではなくガウスね。うん、わかります。ガウスは可愛いもん。

 でもガウスって僕の血をちゃんと飲まないと、所々中身が見えて、結構グロいんだよね。


「あー癒されるー。最近悪夢に悩まされてたから、ガウス君を見てると疲れが飛ぶよー」

「悪夢ですか?」

「うん。部長が毎日夢に出てきてね。常に部長の顔が頭に残ってる気がして、辛いんだよね。仕事がつらいからかな」


 それって空腹の小悪魔ちゃんキーホルダーの効果じゃないのかな!?


「えっと、お祓いとか行ったら良いのでは?」

「あはは、面白いことを言うね。部長はまだ元気だよ?」

「いやあ、そうではなく……」


 呪いとは言えない。


 しかし、あまり考えたことは無かった。僕が店で働き始めてから、色々なお客さんと接してきたが、前職の上司や同僚とは会ったことが無い。

 ましてや部長ほどの年上とも会ったことは無いし、最近の仕様変更で呪いは店の中でしかかけられないことになっている。つまり、旧式がまだ残っているということかな。


「横山さん、ちょっと僕と一緒に神社に行きませんか?」

「え……ちょっと遠慮するかな」

 

 リベンジしても横山さんは神社に行ってくれない。このままでは一生部長が夢に出てきてしまい、もしかしたらあの既婚者である部長と大変なことになってしまうかも。


 いや、というか部長は既婚者なのに空腹の小悪魔ちゃんキーホルダーを使ったのかよ。終わってるね。


『クゥン』

「ふふ、ガウス君も心配してくれるんだね。ありがとう」


 何とかしないとと思いつつ、無力の僕は、ガウスと横山さんがじゃれあう姿を見届けるしかなかった。


 道具が出ない幕間回です。

 店主さんの出生や詳しい話はここでは出来ませんが、店主さんは『魔術』を使うことはできます。というより、魔術から悪魔を呼び出す術に派生させました。つまり、水も出せれば火も出せる生活には困らない特技を持っています。


 幕間としてこの話を入れたのは、今回こそ横山さんが被害に遭っていますが、それ以外も実は裏で被害に遭っているという再認識を込めています。当然その被害を解呪しているのは疫病神ちゃんですね。

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[良い点]  >「騒ぎになった時の言い訳ができないです。銃が禁止されている日本で破裂音っぽい音を出してみてください。何をしていたかと問われたときに困るのはワタチなのです。だから『ヌルッと』発動するよう…
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