後編
「アリシアさん、久しぶりだな」
「お義父様もお義母様もお久しぶりです」
「アリシア、大丈夫?ダンも大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、ばあちゃん」
その場に来たのはリチャードの両親と私の両親だ。
リチャードはそのまま腰を抜かしたように床に座り込んだ。
「チャド?あの、この人たちは?」
「・・・・・」
リチャードは両手で顔を覆うと泣き出した。
「母ちゃん「母上だ」母上、あいつ泣き出したけど」
「本当にね、気持ち悪いわ」
「ひでえ」
それでもこの人数でこのまま店に迷惑をかけるわけにもいかず、義父が用意した場所に移動することになった。
「何?何なの?どういうこと?」
エリンは事態が把握できずにキョロキョロしている。
「エリンさん?私、リチャードの妻なの」
「俺は息子」
「えええええ?顔見知りじゃ」
「顔見知りよ、家族だからね」
「騙したの?ひどい」
「ひどい?誰が?」
「あたしは関係ないわ」
「無茶苦茶関係者だろうが」
ダンに言われ、エリンはがっくりと肩を落とした。
その後、義父の知人の店の個室で、リチャードとエリンと私たちの話し合いが始まった。
「あたしは無関係なんです。ただ付き合ってただけで」
「既婚者と付き合うってどういうことかわかってるのかね?」
義父が腕組みをしながら聞く。
「・・・でも、奥様よりあたしの方が愛されていて・・」
「どの辺が?」
「だっていつもあたしの方が可愛いって、癒されるって」
「へ~」
「だから、奥様が別れてくれたらあたしが奥さんになってあげるって約束して」
「それなのに無関係とか言っちゃうんだ」
「ダン、頭の中に花が咲いてる人の思考回路なんてわかんないわよ」
「それもそうか」
「なによ!馬鹿にして」
「馬鹿になんてしてないわよ、あんたに興味なんてないし」
「な!」
エリンはわなわなと震えながら怒りをこらえているようだ。
そしてよりにもよってリチャードに助けを求めた。
「チャド~、奥さんひどい人ね。こんな冷たくて怖い人だなんて、あたし怖いわ~」
そう言って抱きつこうとでもしたのだろうか、両手をのばしたのだが、パシンと義母がその手をたたいた。
「何するの!」
「誰の前で何をしようとしているの?孫にこんな醜態見せないで」
そう言われ、エリンは今気が付いたかのようにダンを見た。
ダンは吐き捨てるように言った。
「本当だよ、こんな奴が俺の親だなんて思いたくもないね。
しかも目の前で抱きつこうなんて、トラウマになったらどうしてくれるんだよ、気持ち悪い」
「ダン・・・」
「俺の名前を呼ぶなよ、どっかのおっさん!」
息子に全力で拒否され、リチャードは悲しそうな顔をした。
「何を被害者みたいな顔してんだか」
「アリシア、声に出てるわよ」
母から指摘されてびっくりである。
「さてと、これからの話をしましょうか」
「チャドと別れてくれるのよね?」
(こいつ、本当に空気が読めない花畑頭か?今それ言う?)
「俺はアリシアと別れたくない・・・」
リチャードがぼそりとつぶやいた。
「はあ?」「は?」
エリンと同時に声が出てしまった。
「チャド、どういうこと?」
「すまない、エリン、俺はアリシアとこれからも暮らしていきたいんだ。
別れるつもりはない。すまない」
「そんな!あたしとは遊びだったって事?」
「・・・・」
「ひどい、ひどいわ」
エリンはひどいひどいと言いながら泣きわめく。
「黙れ」
(しまった、あまりにうざいから魔力出しちゃった)
沈黙の魔法がかかり、エリンはそれ以上口がきけなくなった。
静かになった場を収めるように、義父が口を開いた。
「アリシアさん、これからどうしたい?」
「もちろん離婚します」
「アリシア!!」
「うっさいな、あんたにも魔法かけるわよ」
「うぅ」
「両方から慰謝料はもらいます」
「あ、俺は母ちゃんについていくから「母上って言え」」
「そんな・・本当にすまないと思っているんだよ、俺は別れたくない」
「はあ?そんなこと決める権利はあんたにはないの。
浮気するような夫と添い遂げたいなんて思うわけないでしょうが。
家はもらうわよ。あんたは今すぐ出ていってね」
「そんな」
「何がそんな、だ。それだけの事をしでかしたんだよ、お前は。
アリシアさん、すまないがこいつの荷物はうちに送ってくれ」
「あら、いいんですか?」
「きちんと慰謝料を払わせるためにうちで監視させてもらうつもりだから」
義父の提案で一つ厄介ごとが減った。
エリンとリチャードそれぞれに誓約書を書かせ、制約魔法で縛った。
滞れば雷撃魔法をかけることになっている。
「あたし貯金とかない・・・」
魔法を解いてやってすぐのエリンの一言だ。
(やはり頭に花しか詰まってないじゃん)「既婚者に手を出しといて何言ってんだ?こいつ」
「だから、声に出てるわよ、アリシア」
母からまた指摘された。
一言も口をきかなかったわが父は、ダンの肩をたたき、小遣いを渡していたようだ。
その後、無事に離婚が成立した。
夫は何度か自宅の前で土下座をしていたが、無視をして通りすがりに雷撃魔法で痺れさせて放置を繰り返すうちに来なくなった。
近所で 浮気ばれ悶絶オジサン と言われるようになったからだろうか?
エリンはカフェを首になったらしい。
あの時店にいた客の中にカフェの客もいたらしく、既婚者に言い寄るウェイトレスがいるカフェだと苦情が来たらしい。
王宮の近くという立地もあり、そんな噂が広まっては困るからだろう。
あっさりと首にされたようだ。
どうやら実家に戻ったらしいが、噂が付いて回り、ろくに仕事にもつけず、恋人もできないそうだ。
既婚者と知っていて誘惑した女、そりゃ恋人にもしたくないだろうし、職場で同じことされたらと思うと雇用もしたくないだろう。
いや~噂って怖いね。
私はと言えば、今までと同じように暮らしている。
たまに息子とその友人たちに食事を奢ったりしている。
害獣駆除に出る頻度が上がった事と、雷撃魔法の威力が増したことくらいだろうか。
ただ、自宅でグラスにエールを注いで一人のみはできなくなった。
それだけが残念だ。
ざまあが足りないかもしれません。