中編
私は魔力省で働いている。
得意技は雷撃。
新しい魔法の開発や、魔道具の作成などを行っている。
たまに頼まれて害獣駆除にも出向くことがある。
夫のリチャードは王宮の文官として働いている。
出会ったのは王宮だ。
魔法省からの書類の受け渡しをするうちに仲良くなった。
やがて結婚して、息子のダンが生まれた。
穏やかで真面目で、おおざっぱな性格の私を受け止めてくれる懐の持ち主だと思っていた。
(単なる浮気ヤローだったわけだがな)
「母ちゃん、「母上と呼べ」、母上よ、これからどうする?」
「う~ん」
「とりあえず証拠に写真は撮ったよ」
「会話も録音した」
息子の友達が口々に教えてくれた。
「会話の録音?それって違法なやつ?」
「まさか!隣の席に座ってちょ~っと自分の歌を録音してたら偶然とれたっていう」
「ふふふ、ならばよし、だな」
(やるではないか、さすがは魔法大学の学生たちだ)
私は改めて息子たちを見直した。
(それにしても、後で証拠を見せてもなあ、なんか面倒くさいなあ)
「直接直撃してみようかな」
「「「「え!!!」」」」
「なんか面倒くさいし・・」
「じゃあ、俺も一緒に行くよ」
ダンが前のめりでそう言ってくれた。
「いざという時止めないと死人が出ちゃう」
(失礼な)
「おばさん、録音の魔道具」
そう言って王子が渡してくれたのは手のひらに収まるくらいの魔道具だ。
「なんでも持ってるね、さすが王子」
「まあね、王族の必須道具だと思ってよ」
「ふふふ、ありがとね、借りてくわ」
いよいよ、夫と女の席にダンと二人で近寄っていく。
目の前で見るとイライラするほどいちゃついている。
「落ち着いて、母上」
「よし、行くわよ」
「あら~リチャードさんじゃないですかぁ!偶然ですね」
ちょっと高めのテンションで話しかける。
「あ、え?」
顔をあげた夫は私を認識すると途端に顔色を無くした。
心なしか震えているようだ。
「あらあら、デート中でしたか?失礼しましたわ」
「お知り合いの方ですか?」
女がそう聞き返してきた。
「ええ、久しぶりにお目にかかったんです。王宮でお仕事を一緒にしたことがありますの」
「まあそうだったんですか」
女はそう言った。
「久しぶりなんで、一杯だけご一緒させていただいてもいいかしら?」
「え?」「いや、それは・・」
「実は息子と一緒に来てましてね、本当に一杯だけですから」
私と息子はそう言って強引に席に座った。
夫はありえないくらい汗をかいている。
女は戸惑ったようにこちらを見ているが、息子もいることもあってか、特に反対する様子はない。
子連れの人が懐かしんでいるだけだと思っているのだろう。
(それにしても、別に若いって言ってもそんなに若くなさそう。
どちらかというと若作り?その年でその服はないわ~)
「とりあえずエールと、ダンは?何呑む?」
「僕もエールで」
「リチャードさんとお連れさんは?奢りますので遠慮なく」
「あら、いいんですか?じゃあ私はカスオラを、ねえチャドは?何にする?」
女が夫を愛称で呼んだ瞬間、私と息子は「「ぐほっ」」と声に出てしまった。
不思議そうにこちらを見る女に、「ちょっと喉に異常が・・」「ああ、早くエールを呑まないと」
そう言ってごまかした。
(チャドって・・・チャドって・・・やばいぃいいい、変な鶏の名前みたい~~)
息子もプルプルとしている。
(我慢、我慢)
しばらくして、注文した飲み物が届いた。
「それでは改めまして、リチャードさんと彼女さんにカンパーイ」
「カンパーイ」「乾杯」「・・・」
夫のグラスを持つ手は震えている。
ぶるぶるしすぎてこぼしまくりだ。
「チャド、どうしたの?大丈夫?」
「あ、ああ・・・ちょっと具合が悪い・・・かも」
(そりゃそうだ、妻と息子が浮気現場にいるんだからね、具合も悪くなるってもんだ)
「ところで彼女さんとはどこで知り合ったんですか?」
「俺もそれ知りたい」
「だよね、こんな奇麗な女性とどこで知り合ったのかな?」
「そんな、奇麗だなんてうふふ」
「・・・」
夫は余計な事を言うな、とでも言うように女を見ている。
「王宮の近くにあるカフェわかりますか?」
「ええ」「知ってる」
「私、そこの店員なんです」
「へえ、それで?」
「お昼時に通ってくるチャドと話すようになって、私が告白しました」
「ほうほう、なかなか積極的」
ダンがそう言うと、女は頬を染めた。(ほめてねえよ)
「それで、お付き合いはいつから?」
「半年ぐらい、ですか」
「半年・・・」「半年・・・」(まったく気づかんかった・・・)
「ところでご結婚はされる予定なんですか?」
(息子よ、何という爆弾投下!!)
「それが・・・色々事情があって、まだ未定なんです」
「事情?」
「チャドの方にちょっと問題があって、それが解決したらいずれは・・・」
「へ~早く問題が片付くといいですね~~~~」
夫の顔色は真っ白だ。
カタカタと震えている。
「すまないが、ここで帰らしてもらうよ」
耐えきれなくなったのか、夫は立ち上がるとそそくさと上着を着ようとした。
「大丈夫?」
「エリン、ごめんよ」
(ほう、女はエリンていうのか)
「まあリチャードさん、大丈夫ですか?」
「・・・・」
「実はリチャードさんに会いたいと言ってる人々が着いたみたいなんです。
もう少しだけ待ってもらえます?」
「ああぅ・・・」
リチャードの挙動不審さに、エリンは不思議そうにしている。
「ああ、来ましたね、こちらですよ~」
大きく手を振ると、2組の男女がこちらに向かってきた。




