前編
「さあて、エールをグラスに注いで~、ちょっとお高いお惣菜買っちゃった。ああ~贅沢ぅ」
今日も私は頑張った。
夫は職場の人と飲みに行くらしい。
息子は学友たち?(悪友の間違いじゃない?)と飲みに行くらしい。
今日の私は夕飯を作らなくてもよいのだ。
いつもなら買わないお惣菜も、食べてみたかったものをちょっぴりずつ買ってきた。
洗い物が増えるからグラスを使わないのだが、今日は贅沢にエールはグラスでいただく。
「ぷふぁあ、くぅう、週末の贅沢だわ」
そう独り言を言いながら、お惣菜を食べる。
ふ、と、指先に伝言鳥が止まった。
「何?この色はダン?あいつもう飲みすぎたのかな?」
(だが、私はすでにエールをあけてしまったぞ、迎えにはいけないんだけど)
息子のダンが飛ばしてきた伝言鳥に魔力を流すと、ざわざわとうるさい。
「飲み屋から飛ばしたな?聞こえにくいわ~」
『母ちゃん、大変だ、やばいものを見てしまった』
「母上と呼べと何度言ったら『父ちゃんが同じ店にいる』 へ~偶然だね~」
『女と手を繋いで入ってきた。そのまま二人で飲んでいる』
「はあああああああ?」
(いや、まてまて、今は二人だろうが、職場の人かもしれない。
2次会で他の人を待っているのかもしれないし・・・。
手を繋いでいたのは、女性をエスコートしてる・・・とか・・・?)
『友達が近くまで寄って話を聞いてきたんだけど、黒だ』
パリパリと両手の手のひらから魔力が出る。
『母ちゃん、怒りのあまりに雷撃を出しちゃだめだよ。落ち着いて。家でやったら近所中に迷惑がかかるよ』
息子の言葉に冷静になる。
以前うっかり雷撃を放ってしまい、ご近所周辺が痺れてしまったことがある。
私は早速魔力で伝言鳥を作ると、息子に伝言を飛ばした。
『今から行く、店の入り口で待っとけ』
そのままローブを被り、表へ出た。
ちょうど目の前に魔動車が来た。
ダンにつけている居場所特定魔法を展開して魔力を流すと魔動車が動き出す。
大急ぎで乗り込み、息子と夫がいるという店まで向かう。
店の前には息子のダンが待っていてくれた。
「母ちゃん「母上と呼べ」」
「母ちゃん、大丈夫?どうする?直接父ちゃんを問い詰めに行く?」
「とりあえず店に入るわ」
このまま店先にいても迷惑になるだろうし、とりあえず息子と計画を立てねばならない。
「これ」
と言ってダンが認識阻害の眼鏡を渡してきた。
「あんた、こんなの持って飲みに来るとか、悪い事しようとしてた?」
「そんなわけないだろう、友達のだよ。マルクは目立つから」
「ああ、王子様だったわね」
「だから持ってたのを貸してくれたんだよ」
「で?王子は目立っちゃうんじゃないの?」
「店に入って座るまでの間なら、何とか大丈夫って」
「そう、助かるわ」
私は眼鏡をかけて店に入って行った。
息子たちの席にそっと座ると、眼鏡を王子様に返した。
「アリーおばさん、大丈夫?」
学園に通い始めた頃から息子と仲良くしていた事もあり、王子は私をアリーおばさんと呼ぶ。
他の子達も同じだ。
「ありがとう、大丈夫よ、で?奴らはどこに?」
「あそこ」
そう言って指さされた先には、夫が女性と二人きりで座っている。
よく見ると、肩を寄せ合い、テーブルの下では手を握っているようだ。
パリパリと魔力が洩れる。
「母ちゃん!」「「「「「おばさん!!」」」」
息子たちの声に我に返った。
「さてと、これからどうしてやろうか」