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地球滅亡スイッチ

作者: sumeshi

短編です。対戦よろしくお願いします。

『これは、我が家に代々伝わる地球滅亡スイッチじゃ』


祖父にこんな奇天烈なことを言われたのは、一昨日のことである。


俺が今持っている漢字の凸みたいな形のコレ。

色褪せた黒と黄色の警告色に、赤色のボタン。

中二の俺の片手に収まるくらいのスイッチ。

ビジュアルだけ見ると、アニメのロボットか何かに付いてる自爆スイッチみたいだ。

祖父が言うには、このスイッチを押すと、

それはそれはやべぇことが起こって地球が滅びるらしい。


なんでそんな危ないのがあって、ましてや我が家に受け継がれてるのか、ツッコミどころは数え切れないがとにかくそういう物らしい。


そしてそれが、次は俺に回ってきたというのだ。

一発ポチるだけで、全人類八十億人含む地球上全生物を抹殺出来ちゃうスイッチが、思春期真っ盛り自意識未完成の一般中学生(二年)の手に渡ってきてしまったのだ。







スイッチを手に入れてからの生活は、今までとは比べ物にならないほど楽になった。


最初は色々悩んでいたのだ。


(地球滅亡スイッチって何だよ?)

(何でそんなん俺ん家にあんの?)

(何で俺ん家に受け継がれてんの?)

(受け継がれてるって何よ?)

(これ押したら何で地球滅ぶの?)

(ていうか何だ地球滅亡スイッチって頭悪い)


そんなことを考え、俺はある結論に辿り着いた。



...考えても分かんねぇわ。



とにかく俺には今、世界まるっと全部滅ぼせる権利があるってことだ。

そう思ったら、今までの考えてることがどうでも良くなってしまった。


元々のメンタルが強かったってのもあるが、多少嫌なことや、ムカついたり落ち込むことがあっても、『いつでも地球滅ぼせるし』って考えたら滅茶苦茶気が楽になったし、悩むことが馬鹿馬鹿しくなった。


好きな子に告ってフラれたり、先生に説教喰らったり、高校の第一志望落ちたり、先輩にパシられたり色々あったけど、正直いつでも殺れるって思ったらなんとかなった。

スイッチのバフもあり、俺のメンタルは驚くほど強靭と化したのである。もう何も怖くない。

もし本当に耐えられなくなったら、人類全員巻き込んで爆発してやれば良いしな。



そんなこんなで高校、大学と過ぎていき...







社会人なう。

今日の晩飯、作っといてくれてるかな。


『この前くれたこの計画、もう少し何とかならなかったの?』


今日早く帰るって伝えてあるし、大丈夫か。


『一応他会社との合同なんだから、もうちょっと頑張って欲しかったっていうかさ』


腹減ったな。今何時だ。十時半かよもう。


『聞いてんの?何とかならなかったのかって聞いてるんだけど』


『...すいません』


『いや、謝って欲しいんじゃなくて』


『...でもこのスケジュール、こちらの担当的に無理があるというか、』


『それを何とかするのがあんたの役目でしょうよ』


『はぁ』


『それとあと、一昨日提出した資料。ミスが七個あったんだけど、七個だよ?君何年目よ?』


ラッキーセブンっすね


『...何年って聞いてんの』


『...えっと...四年す』


『四年て。俺が二年の時でももっとまともな資料作っ(ry


以上、社畜のテンプレみたいな一日でした。

説教中はどうでも良いこと考えるに限る。



...



あー仕事辞めてぇ


何年か越しのフラグ回収である。

地球滅亡スイッチのバフを持ってしても、現代社会の闇には敵わないのである。やっぱ怖いもんあったわ。

ものの見事に社会人俺はメンタルをやられていた。

まぁそもそも、『人類いつでも抹殺だぜへへへ』とか言ってたやつがそのまま社会に出てきた時点で既にこうなるって分かっていた気はするけど。


...正直今、死にたい欲がマッハである。

今すぐにでもポチってポックリ逝きたいところ。

嫁とも喧嘩して家庭崩壊待った無しだし。

ついでに今現在、我が家の自室。

万が一括る用の縄、そして遺書も書いて準備万端である。

(ちなみに散々気にしてた晩飯は用意されてなかった。代わりに千円置いてあった。嫁も恐怖の対象に加えとこうかな)

あとはもうスイッチポチるだけで人類諸共おさらばよ。

それなりに楽しかったぜ人生。高校行けたし(第一志望は落ちた)、社会出れたし(絵に描いたようなブラック)、嫁出来たし(喧嘩中)。

そしてあばよ地球。


最期に親父に連絡入れとくか。

最後に会ったのは嫁との結婚式の時かな。

連絡も取り合ってないし、もう縁は切れているかもしれない。

番号を入れ、電話をかける。


. . .


. . .


. . .


(只今、電話に出ることが出来ませ(ry

出なかった。


...ムカついたので留守電を入れる。


(今から死にまーす。今までお世話になりました。

こんな息子でごめんね。

あとせっかくなら爺ちゃんから貰ったボタン押すね。

今までありがとう。さよなら)


よし。じゃ逝くか。


地球滅亡スイッチを持ち、赤色に親指を乗せる。


ゆっくりと、力を込め...



プルルルルルルルルルルルル...



は?

おい今逝くとこなんだが。



...電話に出る。


親父だった。

留守電を聞いて掛け直してくれたらしい。


本当に死ぬのか、考え直せ、とかは言われず。

飯でもどうだ、と言われ、切られた。

あまりにもあっさり。これが数年ぶりの会話...?


...どうしようか。



バタン!



唐突に自室のドアが開いた。

あのシルエットは嫁である。

我が愛しのマイハニー(喧嘩中)である。

誤魔化しつつ、慌てて遺書とスイッチを近くのテーブルの引き出しに隠す。

人知れず自殺を企てる夫を見たら何言われるか。

とりあえずなんかやばい気を感じ取ったので晩飯買いに行くとかなんとか言い訳して逃げる。

逃亡先は...


まぁ...実家でいっか。







実家に到着なう。

自転車で移動して、すぐ着いた。割とご近所である。


インターホンを押すと、青ざめた親父が出てきた。

いつ滅びるのかヒヤヒヤしてたとのことらしい。

家に上がってからは特に何もなく、

ただ飯を食って酒飲んで最近のことを話しただけだった。

それで、死ぬのかと聞かれたが、

いかんせん家にスイッチを忘れたのでまだお預け。と言った。

まぁ、人間いつか死ぬし、急がなくても良いと言われた。

そもそも親父は何でスイッチのことを知ってるんだと聞いたら、元々持っていたからだそうだ。

ある時に要らなくなって祖父に返したのだと。

そういうものかと疑問に思う。

あんな力あれば、人に持たせるくらいなら自分の手元に置いておきたいと思うのでは無いのだろうか。

まぁいつか理由が分かるよ、人生何が起こるか分からないしと父親みたいなことを親父は言った。


...いや俺もう死ぬつもりなんだけど。







帰宅した。

もう日が登り始めている。

今日はもう疲れたし寝てしまおう。

仕事は...まぁサボれば良いか。

そうだよどうせ死ぬし。

まぁ、今日はいいや。

なんか、今日はいいかなと思った。



自室なう。


...修羅場なう。

待っていたのは俺の遺書を握りしめた嫁だった。

どうやら引き出しを漁られたらしい。

ましてや縄出しっぱじゃん。

流石に誤魔化しが露骨だったか。

どうしよ、何言われるだろうな。

どやされるかな。




泣かれた。


そしてやっぱどやされた。

なぜ今まで相談してくれなかったのかと怒られた。今まで負担をかけてごめんと謝られた。

...なんか、予想と違うな。

俺は思ったより愛されていたらしい。


嫁を宥めながら、テーブルの上にあるスイッチを見て、本当に、


やっぱりまだ、いいかなと思った。







それから何となく充実した日常になっていった。


今までの会社から転職し、前よりかは自分に合った就職先に就いた。まぁまだ未熟とは思うが、自分に合っている分以前の何倍もマシである。いざとなったら相談相手に親父もいるし。

あと、嫁が優しくなった。いやむしろ、今までも優しかったのかな。ちょくちょく仕事のことを聞いてきたり、外出に誘ってくれたりと、良く俺を気に掛けてくれている。

転職してからは多少自由な時間も取れて、家族でいられることも増えた。

そして、家族も増えた。可愛らしい元気な男の子だ。

スイッチはというと、未だテーブルの引き出しの中だ。奴は時々俺が見て、『お前の出番は無ぇよへへへ』と笑われるだけの存在と成り果てている。

この幸せを、俺は守っていくのだ。

手の込んだ自殺などしている暇は無いな。


...本当に何が起こるか分からないものだ。







病院なう。


...死の淵なう。

病気が見つかった。

致死率ほぼ百パーのヤバいやつ。

親父のと同じやつだ。

健診で早期発見した分、延命出来ているが、大分進行してしまっていたようだ。

もう長く無いらしい。


ホントに、何が起こるか分からないな。

病気が判明してから、前みたいに逆戻りだ。

親父が死んで、精神やられてたときに病気発覚。病気のせいで仕事は出来なくなって、身体は動きにくくなって家族と遊ぶことも難しくなった。

入院してから、嫁は息子も連れて大体ここに来て俺を見ていてくれている。


...申し訳ないな。


今、俺の右手には、スイッチが握られている。

入院する直前に、家から持ってきた。

久々にコイツを手に取った時、

笑い返されている気がした。

お前は最後までこの世界の汚点しか見出せなかったと。

結局全て道連れに、死ぬしか出来ないのだと。

...その通りだ。

こんな現実から逃げたくて仕方ない。

こんなクソみたいな世界を連れて、

心中してやりたくて仕方ない。

こんな理不尽あんまりだ。


嫁が声をかけてくれる。

もう死ぬしか無い俺を安心させようと。

息子もいる。


嫁はやっぱり優しかったな。

嫌だな、奥さんより先には死ぬまいと思ってたんだが。

新しい人...すぐ見つかっちまうかな。俺の嫁美人だし。

そんで息子は、

もう歩けるようになったな。

つい最近俺をパパって呼んでくれたな。

まだ、学校も保育園も行かせてやれてねぇなぁ。

母さんに迷惑かけんなよ?俺の息子だしちょっと不安なんだよなぁ。

もっと見ていてやりたかったなぁ。


...全て道連れに、か。


...やっぱ嫌だな。




あぁ、そっか。

これか。

親父。

爺ちゃん。


これが理由か。


嫁と、息子に声をかける。


『渡したいものがある』


右手を差し出す。


こんな嫌なことばっかりな世界でも、


きっとお前らなら大丈夫だろう。


この世界には、まだ、価値が、


...


『これは、俺ん家に伝わってる———








『父さん』


僕は、父さんに声をかけた。

相変わらずどこか不機嫌そうに、何だと答える。


『これ返すよ』


僕は小学生の時に貰った地球滅亡スイッチとやらを、父さんに返した。

要らないのかと、父さんは聞く。


『もう必要無くなったから』


というより、使わない理由が出来たという方が良いか。

結婚して、息子が生まれて、何より優先しなければならないものが出来た。

もう、世界を滅ぼしてる暇なんて無いよと言った。

それに、世界を滅ぼすような力なんて、僕には荷が重いし。

父さんは、そうか、とだけ言ってスイッチを預かってくれた。

気のせいか、少し嬉しそうに見えた。









ふと考えた事がある。

地球を滅ぼせるスイッチなんて、何でそんなものが、代々伝わっているのか。



スイッチの正体は分からないけど、

それが今の今まで伝わっているってことは、

今までの持ち主みんなが、

滅ぼしたい世界よりも大切な何かを見つけたからなんじゃないかな。


お読み頂きありがとうございました。対ありでした。

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