第99話 変わり果てた街の姿
大通りのそこら中に夜の地の獣が跋扈していた。
黒い毛並みに包まれて月光色の瞳で辺りを睨む狼、鳥の体に狼の頭を接合した怪鳥、それに数は少ないが先の化け物の同類らしき人の姿をしたモノもいる。
「この様子では、敵の手は市内全域に及んでいると考えた方がいい。セレン殿の居場所は数に任せて炙り出したのでしょう。ガレディア殿の情報から推察するに、最上級の実力を持つ魔角族ならこの程度容易く実現しても不思議はありません」
「くそ! 俺達の街をあんな化け物共が我が物顔で歩いてやがるなんて!」
石運び人の男が小声で苦々しい言葉を吐く。
「お、おい、あそこにいるの人間じゃないか!?」
「いや、見てわかるだろ、あいつらは魔物の手下……ん?」
親衛隊の男達が何かに気付いて指を差す。
大通りの脇を通る水路、その向こうの通りに人影があった。
薄暗い中で見分けにくいが、少なくとも獣共を避けているように見える。
二人の言葉を受けた勇者の仲間が冷静に語る。
「我々と同じ、地下室に隠れていた所で襲撃を受けた市民でしょう」
「た、大変じゃないですか! 助けに行かないと!」
慌てるエルシィを勇者の仲間は制止する。
「待ってください、エルシィ殿。よく見て」
「…………あれ?」
獣達が気付いていない筈はないのに、人影が襲われる気配はない。
「どういうことでしょうか?」
エルシィが眉を顰めて疑問を発する。
「恐らく、彼らはセレン殿の捕縛を最優先に動いているのでしょう。裏を返せば、対象外の我々は下手に奴らを刺激しない限り襲われないのかもしれません」
「……それなら、私達以外の皆も無事ということですね」
エルシィは俄に顔色を明るくして胸を撫でおろした。
「状況が芳しくないことに変わりはありません。あれを見てください」
勇者の仲間が水路を指差して言う。
注視するまで四人とも気付かなかったが、水路の岸に沿って黒い狼達が隙間なく並んでいる。
辺りを窺うように彷徨う他の魔獣達と違って彼らはその場を動かず整然と待機していた。
「……もしかしてあれ、セレンちゃんが水の中へ逃げられないようにしている?」
「その通りです。敵は所詮、知性の低い獣。それぞれは与えられた単純な命に従っているだけ。しかし全体で見れば彼らは魔物の采配の元、確実にセレン殿を追い詰める布石として機能している。先の怪物も斥候としての役割を兼ねていたのだと思われます」
エルシィ達が見ている間にも大通りをうろつく魔獣は目に見えて増えつつあった。
魔角族は生み出した眷属と五感を共有することができる。
旅非徒が見つけた少女の位置情報を元にこの近辺へと手下を集結させているのだろう。
わずかでも状況を楽観視したことをエルシィは後悔する。
「そんな……それじゃあ、どこにも逃げられないじゃないですか」
「市庁舎を目指すのは、諦めた方がいいかもしれない。そろそろ戻りましょう。この路地もいつ巡回が来るか分かりません」
五人は皆の元へ戻って目にした光景を伝えた。




