第98話 偵察
「皆! 裏口への道が開いたぞ!」
ようやく物置がどけられると後ろには扉もなくぽっかりと暗い通路が続いていた。
一行はエルシィを先頭に蝋燭と武器を抱えて細い道へ入ってゆく。
「上に出たら、その後はどうしましょう?」
エルシィが曇った顔で呟いた。
「少し距離がありますが、現状の防衛拠点となる市庁舎を目指すのが得策かと」
元々衛兵達の大半は人質作戦の失敗を考慮して璧門前に配置されていた。残されたわずかな衛兵と勇者の仲間達の半数は市庁舎の防衛に回されている。
「……そうですね。せめて、そこまで何事もなく辿り着ければいいのですが」
エルシィは不安げな面持ちで少し後ろを歩く石運び人の男にちらと目を向ける。
彼には地下室へ来る時、何かと使えそうなものを詰めておいた背嚢を預けてあった。慌てて無理に突っ込んだので杖やら薬瓶やら包帯やらが飛び出しかけているが、どうか出番が回ってこないようにと彼女は胸の底で祈る。
前方に階段が見えてきた。
登り切ると一見そこは行き止まりに見えた。最上段が石の天井に接してしまっている。
「ちょっと待っててくださいね」
エルシィが階段と接する天井の辺りを慎重に押すと、四角い板が乗っかっているようにその部分が浮いた。
隙間から微かな風と星明りが入って来る。外へ続く出口だ。
物音を立てないようそっと外を窺ってからエルシィは言った。
「……すぐ傍に魔物の手下はいないみたいです。出ましょう」
エルシィは天井の石板を外して上に出た。他の皆も彼女に続く。
彼らが出た先は屋外だった。狭い路地で、出口は石板を戻せば変哲もない石畳に見える。蝋燭の炎は目立つので消しておく。全員が地上に上がるとエルシィは説明する。
「ここは孤児院の裏手側へ通りを一つ越えた先の路地です」
「なるほど。さて、これからどう動く?」
親衛隊のブルーノが渋い顔で呟いた。
「私が辺りを偵察してきましょう。様子の分かる人間が私だけでは心許ないので、エルシィ殿と、もう二、三人一緒に来てもらえますか?」
提案したのは勇者の仲間だ。
「分かりました。行きましょう」
エルシィの他に石運び人から一人と親衛隊から二人が名乗り出た。
四人は黒衣の後に続いて路地を抜けた先の大通りへ向かう。
「先に注意しておきますが、どんな光景を見ても物音や声を上げるようなことは避けてください。敵に注目されればセレン殿の首が危うくなります」
潜めた声で告げられる言葉にエルシィ達は頷きで返す。
端へ着いた五人は向うから見えにくいぎりぎりの位置で大通りを覗いた。
エルシィは思わず口を両手で覆った。




