第92話 灼熱の煌き
竜人は周囲の騎士を強引に押しのけて白い大地の端を目指した。
獲物を逃がすまじと夥しい数の腕が滝のように湧き上がる。
先の一撃はこの舞台で繰り出せる最良かつ最高条件の技だった。それで仕留められないならばこの地形では分が悪いと判断したのだ。
竜人が地上へ降りようとすればこちらを睥睨する大蛇が黙ってはいない。空気の鳴る奇声を発しながら岩をも飲み込む大口を空けて浅黄色の怪物が迫って来る。
追い縋る魔手を振り切った緋色の巨躯は駆ける勢いのまま細く巨大な牙を見せる大蛇の口内へ飲み込まれ、大口はばっくり閉じられた。
次の瞬間、大蛇の頭頂が爆ぜる。
内側から強引に出口を打ち抜いた竜人は跳躍して広々とした背に降り立った。空かさずもう一方の大蛇が大木のような尾を横なぎに振り払ってくる。
風圧を堪えながら竜人はもう一度跳躍して躱し、そのまま大蛇の尾に乗り移る。
「地上に逃げるつもりか!?」
絶命し落ちゆく大蛇の背を駆ける魔物が荒々しい怒声を上げながら跳んで来る。
「いいや」
「む!?」
竜人の長く強靭な尾が背後から迫る魔物を待ち構える如く高々と振り上げられた。
「ここで決着を付けてやろう!」
「ぐあっ!?」
柱のように太い尾が風切り音を残して魔物の痩身に叩きつけられた。
浅黄色の鱗が砕け、轟音と共に白い魔物が大蛇の背にめり込む。
振り返った竜人が口端を吊り上げて言い放った。
「貴殿ならば馬鹿正直に追って来ると信じていたぞ!」
竜人の右手を飾る必殺の爪が振るわれた。
丁度仰向けに転がる魔物の両角を切り落とす軌道を裂きながら。
魔物の周囲が淀み揺らめくが新たなる生物が生まれるには刹那の時が足りない。
彼の忠実なる騎士も大蛇の背まで追いついてはいない。
蒼白の創造主に死が訪れるその寸前、
「大火蜥蜴!」
魔物が天に向けて大声で絶叫した。
「ぬっ!?」
橙の猛炎が全てを呑み込んだ。
竜人も魔物も、どころか山の如し聳える大羊さえ燃やし尽くさんとする地獄の業火。
夜空の高みから敵味方の区別もなく災厄を吐き出した元凶は燃える巨体で宙を揺蕩う魔物の被造物である。
「ぬううぅうううう!?」
火山をひっくり返して噴火させたような猛攻は止む気配を見せない。
両眼を焼く輝きの中、魔物の痩身はとっくに焼死体の如し無残な様相を呈しているが、背を上向けて頭を抱えて丸くなり、焼け溶ける傍から体を高速再生して角を保護する肉壁を保っている。
「ぐっ!」
ここで魔物を仕留めておきたいところではあったが忍耐の限界を迎えたのだろう。
竜人は後方に大きく跳び退った。
大羊から離れて炎熱の及ばぬ地上へ着地する。
高空から緋色の巨躯が落下する衝撃で地面は大きく陥没する。
「はあ、はあ、はあ……む!?」
片膝を突いて見上げれば、炎の噴射を終えた大火蜥蜴が太陽の如し煌く縦長の瞳で竜人を睨みつけながら落ちて来る瞬間だった。
巨大な大口を開いた喉奥は地獄の門と見紛うばかりに燃え盛っている。
炎熱の化け物は超重量の落下する勢いに任せて大地もろとも緋色の躰を呑み込んだ。




