表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼ナーガは今日も生きてます!!  作者: なかみゅ
幕間 竜の咆哮
72/144

第72話 悪夢


「リアムの部下どもか! 何故ここに?」

「あなたを探していたのです! 我々はこの樹海に入れませぬが、あなたであれば人の地(フラノス)への近道にここを通るやもしれぬと待っていた次第です!」


 彼らのうちの一人、女性と思われる声が息せききった様子で口火を切った。


 魔物を屠ることに長けた勇者の仲間である彼らも夜の地(ノクティス)の地形に関してある程度の知識を持つのだろう。


「街に向けて魔王軍が進軍しております! 偵察兵の報告によれば敵軍の数は五千を上回るとのこと! 馬を用意致しましたので、至急シルトに戻っていただきたく!」

「なに!? 五千だと? 城の総力ではないか!?」


 竜人は動揺も露わに眉を歪めた。

 街の方角に目を向ければ遠くからでもそれと分かる大軍勢が大地を踏みしめて進軍しているのが見える。


 少女のいる場所は人の地(フラノス)である。彼女を狙う刺客をひっそり忍び込ませることはあってもまさか正面から軍をぶつけてくるとは想像していなかった。


人の地(フラノス)と戦争でも始める気なのか? 王よ、何故そこまで……そもそも蛇尾族ナーガの瞳は――――」


 呆然と独り言ちる竜人だが、そこではたと気付く。

 事は緊急だというのに勇者の仲間達は何かを躊躇うような煮え切らない態度で立ち尽くし、竜人の為に連れてきたという馬の手綱を彼に引き渡そうともしない。


「どうした? 急がねばならぬのだろう? 俺もセレンが心配だ」


 竜人が眉を寄せて尋ねると、彼らの肩がびくりと震えた。


「実は、セレン殿のことなのですが」

「む? セレンがどうかしたのか?」

「その、どうか落ち着いて聞いていただきたいのです」

「なんだ? 早く申せ!」


 竜人が語気を荒げて急かすと、彼女は意を決したように告げた。


「セレン殿は――――」


「な――――」


 次の刹那、大地を揺るがす竜の咆哮が荒野の夜に轟いた。 



 *



 人の地(フラノス)・シルト璧門付近にて。


 街の斥候が魔王軍襲来の報を伝えてから既に数時間が経過していた。


 まだ敵は街から目視できる距離にないが、早ければ夜更けには境界の森を抜けてシルトへ到達するだろう。


 街の中は閑散としており、通りに足音を響かせるは伝令や見張り、戦いの為の準備などで駆けまわる衛兵達ばかりである。市民の多くは魔王軍の侵攻を恐れて内地へ向かうか、そうすることが難しい者は地下室に籠った。


 まるでこの世の終わりのような光景である。

 にも関わらず、あろうことか街を守る壁の外側、璧門前に百人近い民衆の人だかりができていた。脅威の迫る現状で武器もなく防壁の外へ身を晒す彼らは傍から見れば明らかに異常だった。


「お、おい、その子をどうするつもりだよ!」

「その中に落としたりしないよな?」

「こんなのは人のすることじゃないわ!」


 彼らの中には顔を赤くして怒鳴り声を上げる者もいれば涙を流して嗚咽を漏らす者もいた。様々に振る舞う人々がいたが、共通しているのは皆が蛇尾族ナーガの少女と交流のあった者達だということだ。


 エルシィや孤児院の少年、少女の親衛隊の面々も集まっている。


 皆の視線は一方向、閉じた璧門のすぐ手前に釘付けだ。


 エルシィは血の気の失せた白い顔で祈るようにそちらを見つめ、少年はくりくりした碧眼に涙を溜めて今にも泣き出しそうである。そして親衛隊の人々はそれを囲う衛兵達に幾度も詰め寄っては押し返されている。


 そこには巨大な鉄鍋があった。



 鍋の中で熱く蕩けた溶液の輝きが少女の白い肌を茜色に照らしている。




 月明りの下、蛇尾族ナーガの少女は尾先を結わえられて煮えたぎる鉄鍋の上に裸で吊られているのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ