第69話 見てしまった幼ナーガ
夕方、空は一面の雲海を焼き焦がしたような茜色に覆われていた。
少女らは沼への帰途だ。
昼間は見張りの勇者や少年が側にいるけれども、帰れば彼らとも別れてしまう。沼地の監視に当たっている勇者の仲間達がいるから全く孤独だという訳でもないが、それでも石畳の上を這いずる少女の尻尾運びは少し物憂げである。
「よう、セレン。君が竜人と一緒にいないなんて珍しいな」
通りの向こうからやって来たのは先日の青年である。
「あ、クリストフ。ガレディア、わたしの体に塗るやつもらいに向こうに行っちゃったの」
少女は小さな手で悲しげに璧門の方向を指差したが、青年は不思議そうに首を傾げた。
「体に塗るやつ?」
「この子の肌は乾燥に弱いからね。竜人君がいつも保湿液を塗ってやっていたんだが、それがなくなりかけているから夜の地まで調達に言ったのさ。もちろん監視の兵を付けているけどね」
勇者が説明してやると青年は少女の白い肌を凝視して何か考えているようだった。
「……………………そうか」
「今何かよからぬことを思い描いたでしょう?」
エルシィが疑わしげに眉を寄せて問うと、青年は澄ました顔で反論した。
「そんなことはない。やっぱりこの子は人間と違うんだと思ってな。何かあった時に覚えておかないと困るかもしれないだろ」
エルシィが青年の言葉を全く信じていない顔で何か言おうとした時だった。
「セレンちゃん、見て!」
少年が急に少女の片手を引いた。
「なに?」
少女が問いかけると、少年は嬉しそうに頬を紅潮させて教えてくれた。
「見たこともない珍しい鳥がいたんだ! ほら、あそこ!」
少年が指さす先は通りに立つ石造りの住居のうちの一件、その屋上だった。
「あ」
それを視界に入れた時、少女の形相は蒼白に固まった。
建物の屋上から少女らを見下ろしているのは烏のような鳥だった。
黒い羽根と嘴を持ち、夕陽に照らされて妖しく輝く青い瞳は鉱石でできていた。
「じゃあなセレン。竜人、早く帰ってくるといいな」
「あ、逃げましたね!」
青年は歩き去り、エルシィはその背に咆える。
「あの鳥、セレンちゃんみたいに目が綺麗だね! あっ」
黒い鳥は翼をはためかせて飛び立った。
「行っちゃった。近くで見たかったな……セレンちゃん?」
少年が様子のおかしいことに気付いて呼びかけるが彼の声は少女の耳に入らない。
少女はあの鳥を知っている。
少年が見つけた黒い鳥は、夜の地を支配する王軍が偵察に用いる使い魔だった。
***
「みつけた」
黄金色の陽光が差し込む大広間の中、宝物を発見した子のように無邪気な声が響いた。




